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適応障害は病気なのか?

[2023.10.25]

「適応障害」とは、心身の状態(ストレス反応)が邪魔をして、社会的環境(ストレス要因)に対して順応・適応する行動が十分にとれないことで、機能不全(適応不全)を起こし、不利益が生じている、という状態に対する診断名です。

 

「適応障害」は、「急性ストレス障害(ASD)」、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」、あるいは「不安障害」などの心因性疾患や、「うつ病」や「双極性障害(躁うつ病)」などの内因性疾患とは異なったニュアンスであり、メンタル疾患というよりもストレス反応に対する診断名であり、疾患(病気)ではないと考えた方が良さそうです。

 

「障害」と「疾患」はどうちがうのだろうか。

本来の意味の「障害」とは、生まれつきの属性として抱えている(ないし後天的な不可逆的ダメージによって属性かした)心身の能力の欠陥的な不全を指す概念である。

これに対して、「疾患」とは何らかの病因によって生じた非属性的な(偶発的な)心身の異状を指す概念である。非属性的なものなので原理的に恢復・治癒の可能性をもつ。

疾患がもたらす特徴的な現象は「症状」と呼び、障害がもたらす現象は「障害特性」と呼ぶならわしである。

ただし、現在の米国の精神医学分類では「disease」(疾患)の用語を捨て、すべてを「disorder」(日本では「障害」と訳される)としているため、概念の混乱が起きやすくなっている。

滝川. 自閉症研究のこれまでとこれから. そだちの科学 41: 2-8, 2023

 

適応障害は病因ではなく、ストレス因によって引き起こされるストレス反応が、適応にとって不適合であることから、疾患ではない、と考えられるのです。

 

疾患ではない適応障害に対して、抗うつ薬や抗不安薬が投与されてしまう問題に触れたことがあります。

実際、抗うつ薬や抗不安薬が、逆に適応を邪魔しているのではないか?と考えられるケースも、よくみかけるところです。

治療に影響する「適応障害」の診断

適応障害の本質は?

薬物療法を選択する精神科医にとって「適応障害」は、うつ病に伴う機能障害、あるいは、過重労働・業務内容のミスマッチ・対人関係の問題などによる「二次的なうつ」とみなされていますよね。

 

しかし「適応障害」の本当の問題は症状にあるのではないようです。

①勤怠、②安全、③パフォーマンス(勤務態度を含む)のどれかに不適応が起きている「事例性」が「適応障害」の問題であり、さまざまな理由によって「仕事ができない(職業人としての機能障害)」ことが本当の問題と考えられます。

つまり、「適応障害」ではさまざまな理由によって「仕事ができなくなっていること」が問題であって、「症状」が問題ではないのです。

 

「適応障害」を引き起こすさまざまな問題は、①仕事の量(過重労働)、②仕事の内容のミスマッチ、③職場の人間関係のトラブルなど、「業務(作業)関連性」によって引き起こされています。

 

「仕事ができない(職業人としての機能障害)」状態に対して、抗うつ薬や抗不安薬を投与しても仕事ができるようになるわけではありません。

抑うつ状態や不安が解消しても、職業人としての機能障害(不適応)を起こして休職が繰り返される(あるいは転職が繰り返される)のは、このような理由からなのです。

 

「事例性」と「疾病性」

産業医でもある精神科臨床医として「事例性」を考える場合、まず、「疾病性」の有無を考えます。

問題の発生時期、および、本人と周囲の認知のズレ、などから、職場や職務への不適応が、病気(身体・精神)由来なのか、あるいは発達障害特性に伴う不適応が起きているのか、の判断を行うのです。

 

そして、どこにどの程度の不適応が生じているのかを評価するために、患者さんから見た職場の状況だけでなく、上司から見た患者さんの勤務態度などを擦り合わせる必要があります。

 

精神科クリニックや総合病院精神科における最多疾患は、統合失調症ではなく、広義のうつであろう。そしてその中で内因性うつ病は今や少数派である。多数派は生活上のストレスに関連したうつなのが現状である。これはつまり「広義の適応障害」と考えることが重要になる。

発症にストレスが関連していたとしても、同じ学級、同じ職場にいる他の人は適応障害になっていないのに、なぜ彼(彼女)は適応障害になったのであろうか?

「彼はなぜ、クラスで孤立していたのか?」「彼はなぜいじめられたのか?」
「他の人は適応できたのに、彼はなぜ、職場の環境変化に適応できなかったのか?」
「他の人よりもストレスが強くかかったのはなぜか?」

「なぜ彼だけ上司に怒られる機会が多かったのか?」
「なぜ彼は仕事のミスが多かったのか?」

「他の人は臨機応変に対応したのに、彼はなぜできなかったのか?」
「他の人は空気を読んでずるく立ち回って逃げたのに、彼はなぜできなかったのか?」
「他の人は周囲との対人関係に助けられて状況を乗り切ったのに、彼はなぜ助けてもらえなかったのか?」
「他の人は困ったことがあったらすぐ相談するのに、彼はなぜ相談しようとしなかったのか?」

「周囲が助けてあげようとしたのに、なぜ彼は助言を受け入れなかったのか?」
「なぜ助言を拒否し、自分のやり方にこだわったのか?」

「彼はなぜ急な状況変化に混乱したのか?」などを考えると、発達障害と診断される程ではないにせよ、発達障害特性をいくらか持っているために、適応障害になってしまったのだと理解できる事例が非常に多い。

そもそも、適応障害のなりやすさは個体差が大きいのであるから、「適応障害になりやすい素因を彼が持っていた」可能性を考えざるを得ず、その素因とは何かと言えば、発達障害特性であることが多いということが容易に想像がつくだろう。
そういう目で見ると、今やクリニックレベルで精神科を受診する患者の半数くらいが、薄い発達障害特性をもっているのではないかと筆者は感じている。

村上. 成人期発達障害支援における「解説者」. in 中村,本田,吉川,米田・編『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

たとえば、これまで何度か休職を繰り返した既往のある社員さんは、同僚や上司に対する不満がつのり、眠れない、手が震える、涙が出るなどの症状があり、医療機関を受診し「適応障害」と診断され抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬が処方され、1ヶ月の休職を指示されました。(休職はこれで3回目でした)

この社員さんはうつ病や双極性障害など、内因性の精神疾患が悪化したために機能不全を起こしているのではありませんでした。

 

この社員さんは、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を服用すれば、あるいは、1〜3ヶ月休職すれば、同僚や上司に対する不満が解消されて、トラブルを起こさずに働けるようになるのでしょうか?

 

答は明らかですよね。

 

この社員さんは、診断閾下の自閉症スペクトラム(AS)特性と、それに伴うパーソナリティの問題があり、以前から勤怠、勤務態度だけでなく被害関係念慮(妄想)が強く、注意を叱責と捉えてパワハラの訴えをしたこともあるのです。

 

本人は変われないので、この社員さんは、部署異動か、働き方の変更など、労働契約の見直しが必要でしょう。

 

適応障害の解決のために

社会でのこのような様子を知らずに、症状だけで「適応障害」と診断してしまうのは、失恋を病気だといって治療しようとするのと同じく、過剰な医療化と考えられます。

 

これをお読みの方の中で、適応障害と診断されて通院中の方もいらっしゃると思います。

主治医の先生は、環境調整のために職場との連携を取ってくださっていますか?

 

適応障害などで休職中の方で、職場復帰(あるいは転職)を考えていらっしゃるのであれば、是非、こころの健康クリニック芝大門に相談してください。

精神科専門医そして精神科産業医の視点から、職場復帰支援プログラム(リワーク)でのトレーニングを経ての復職の必要性の判断、あるいは、職場に環境調整をお願いしての復職、さらには特性を活かした転職支援など、一人一人に応じた対応について相談をお受けしています。

 

院長

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