あがり症専門外来
「あがり症は性格の問題」
そう考えている方が少なくありません。
過度な緊張感から人前を避けるようになり、本来やりたかったことができないことは、「病気」ととらえて治療ができます。
生きづらさを感じている方は、ぜひあがり症専門外来にご相談ください。
あがり症外来とは?
- 発表するときに緊張しすぎてしまう
- 上司の前でプレゼンするのが怖い
- 大勢の前で話すのがつらい
こんな思いを抱えながら過ごしている方は少なくありません。
多くの方が「性格の問題」ととらえていて、「病気」と考えている方は少ないでしょう。生きづらさを抱えながらも耐え忍んでいたり、消去法で人生の選択をしてしまう方もいます。
人前に立って緊張してしまうことは当然のことです。ですが、
- 緊張のあまり、自分の持っているものを出せない
- 本来の自分の生き方ができない
こういったことがあるならば、あがり症という病気と考えて治療したほうが良いです。
あがり症は正式な病名ではなく、診断基準に当てはめるならば、社会不安障害(社交不安障害)のパフォーマンス限局型になります。
当院では、あがり症はその人の生き方を変える可能性がある病気であると考え、力を入れて診療しています。
実は悩んでいる人が多いあがり症
あがり症で悩んでいる方は、実は非常に多いです。
私は産業医として企業であがり症のお話をすることもありますが、他の話題に比べて、みなさんの関心の高さを感じます。
欧米での統計では、生涯に13%もの人が社会不安障害(あがり症の正式な診断名称)と報告されており、実に7人に1人という報告があります。
10代から発症する方も多く、平均発症年齢は13歳といわれています。女性の方が多いといわれていますが、社会生活での困難に直面することが多い男性の方が、医療機関で相談される方が多い印象があります。
あがり症の方は、人それぞれです。一見すると明るく快活で、そんな悩みとは無縁そうな方もいらっしゃいます。勇気を奮い立たせて何とかこなしているものの、ストレスを感じながら過ごしている方も少なくありません。昇進のタイミングで人前で話す機会が増え、耐えられなくなって受診される方もいらっしゃいます。
その一方で、子供のころから控えめになってしまうこともあります。不登校や引きこもりの背景に、あがり症が原因として隠れていることもあります。なんとか大学まで進んだものの、就活で困難に直面して受診される方もいます。
なかには消去法的に人生の選択をしてしまい、人前に立つことのない仕事を選んでしまう方もいます。そのような多くの方が、自分の性格の問題と考えてしまっていて、「ビビり」や「緊張しい」、「小心者」などと思い込んでしまっています。
あなたが生きづらさを感じているならば、病気と考えてみてほしいのです。治療することで生き方が変わる可能性のある病気なのです。
あがり症の症状をチェック
あがり症の症状についてチェックしてみましょう。
あがり症の典型的な症状は、「人前にたつと極度に緊張してしまう」といったイメージかと思います。その背景には、2つの恐怖のどちらかがあります。
- 他人に迷惑をかけてしまう恐怖
- 他人にマイナス評価をされてしまう恐怖
これらの恐怖が本質的な症状で、このために自分が周りの人から拒絶されてしまうことを恐れてしまうのです。
このためあがり症は、恐怖症の一種といえます。あがり症は、「他人から注目を浴びる状況」に対する恐怖症と考えることができるのです。
あがり症の方はこういった状況になると、過度に不安や恐怖が生じてしまいます。それによって自律神経症状のバランスが交感神経に傾き、過緊張状態になります。動悸や発汗、震えなどのからだの症状が認められ、これによって失敗体験をしてしまいます。
失敗体験をしてしまうと、同じような状況をできるだけ避けようとするようになります。この回避行動が、あがり症をますます悪化させてしまいます。
苦手なことから逃げてしまうと、苦手意識はますます強まります。「また失敗してしまうのでは?」という予期不安が強まっていき、悪循環に陥っていきます。
苦手な状況と症状
あがり症の方が苦手意識を感じやすい社会シーン
- 人前で話す、発表する、プレゼンなど
- 人との雑談 ※「顔見知り」くらいの関係性の人が苦手な方が多い
- 人目に触れる場所での飲食、会食
- 人前で字を書く
- 電話対応
- 美容院
- 合コンやデートなど異性との交流
など
不安や緊張でおこりやすい自律神経症状の例
- 胸のドキドキ
- 息苦しさ
- めまいや吐き気
- 手足がふるえる
- 声がふるえる
- 腹痛、お腹を下す
- 口が異常に乾く
- ひどく汗をかく
- 赤面
- ほてりやのぼせ
など
あがり症の原因
あがり症の原因について考えていきましょう。
あがり症の原因としては、
- 遺伝的要因
- 環境的要因
の2つのどちらが強いかというと、環境的要因と考えられています。
遺伝的な要因としては、「物事を回避したがる抑制気質」や「不安になりやすい不安器質」が関係しているといわれています。
あがり症の環境要因
環境要因としては、
- 養育環境
- 失敗体験
- 社会的な役割の変化
などがあげられます。
養育環境としては、否定的な自己評価や回避の行動パターンを作らせる育て方が原因と考えられています。具体的には、
- 周りからの評価を気にしすぎる育て方
- 過保護な育て方
- 恥をかかせるような罰を与える育て方
こういったことがあげられるかと思います。また、「子供は親をみて育つ」という面もあり、親の考え方や行動をみて覚えていくということもあります。
自分自身が何かしら人前で恥をかくような体験をしてしまうと、それがきっかけで恐怖となってしまう方もいらっしゃいます。また他人が失敗しているのをみて、自分を置き換えてしまってしまうこともあります。
社会的な役割の変化によって、人前で注目を浴びることが多くなったり、潜在的な自己評価の低さと立場のギャップ、これが大きくなることが原因になることもあります。
そしてあがり症の方では、表情認知のゆがみがあるといわれています。分かりやすく言えば、無意識に他人の表情が怖く見えているということです。
あがり症の方に様々な表情のイラストを見せると、偏桃体の活動の変化が大きいと報告されています。偏桃体は恐怖を作り上げるのに重要な役割をしている部分ですので、表情の変化に対して敏感になっていることを意味しています。
このようにあがり症では、おもに環境変化をきっかけにして、人の表情が無意識に怖く見えるようになってしまったことが原因と理解することもできます。
あがり症をチェックする診断基準
あがり症は、診断基準では正式な病名ではありません。「かぜ」のようなもので、世間でつかわれてきた表現になります。
こころの病気の診断では、国際的な診断基準をもとに診断していくことが主流となっています。国際的な診断基準のDSM-5やICD-10などに基づけば、
- あがり症≒社会不安障害(社交不安障害)のパフォーマンス限局型
となるかと思います。
このうち、DSM‐5というAPA(米国精神医学会)による診断基準がわかりやすいので、ご紹介したいと思います。
DSM-Ⅴの診断基準
- 他者から制止を受ける可能性のある社交場面に対して、強い恐怖や不安がある。
- 自分のある振る舞い、またはその振る舞いに不安を感じているとわかる症状(発汗やふるえなど)が、他者から否定的に受け取られること(不快に思われる、バカにされるなど)を強く恐れている。
→症状のところでお伝えした、2つの恐怖になります。他人に迷惑をかけてしまったり、マイナス評価をされてしまうことに対する恐怖があります。
- 苦手な社会的状況においては、ほとんど常に強い恐怖や不安を感じる。
- その社会的状況を避けて生活している、または、強い恐怖や不安を耐えながら我慢している状態にある。
- その社会的状況で感じる恐怖や不安が、一般的なレベルを明らかに超える不合理なものである。
→不安や恐怖がある一定レベル以上で、苦手な社会シーンと関係があることが必要です。
- 恐怖や不安、それにともなう回避行動は持続的で、6か月以上続く。
→苦手な社会シーンを回避してしまう傾向が半年以上も続いています。
- 恐怖や不安、それにともなう回避行動が、明らかな精神的苦痛や職業的・立場的に何らかの支障をおよぼしている。
→日常生活や社会生活に支障をきたしています。
- あらわれる症状は、アルコールや薬物の影響や他の身体疾患によるものではない。
- あらわれる症状は、パニック障害、醜形恐怖症、自閉症スペクトラム障害によるものなどではない。
- 他の疾患がある場合は、恐怖や不安や回避行動がその疾患によるものとは言えず、深い関連性がないと判断されること。
→いずれの病気であっても、メンタルの状態が落ち込んでいるときには社交場面は苦手になります。人から注目を浴びるような状況は、ストレスに感じない方は少ないです。ですから他の病気が認められる場合は、まずはそちらの治療を行う必要があります。
合併することのある病気
あがり症で日常生活にも支障が出てきてしまっているような方は、以下のような病気も考えていく必要があります。
- うつ病:気持ちの落ち込みとともに、人付き合いが苦手になりがちです。うつ病の回復とともによくなることが期待できます。
- 統合失調症:幻覚や妄想が明らかになる前に、物事に過敏になったり、人から見られているのではという被注察感が強まることがあります。
- 発達障害:コミュニケーションが周りとずれてしまい、回避行動をとってしまうことがあります。社会不安障害を合併することもあります。
あがり症の治療
それでは、あがり症の治療について考えていきましょう。
あがり症の治療は、患者さんごとに必要なお薬でサポートしながら、心理療法を積み重ねていくことが基本になります。心理療法としては、行動をして成功体験を積んでいくことに重点をおいていきます。
あがり症の治療は、症状の程度によっても治療方針が異なります。大きく分けると3つの戦略があります。
- レスキューのお薬でやり過ごす
- レスキューのお薬で少しずつ成功体験を積んでいく
- しっかりとお薬を使って成功体験を積んでいく
お薬をどの程度使っていくかは、
- 日常生活への支障の大きさ
- 苦手な機会の頻度
によって異なります。
日常生活に支障が大きいならば、しっかりと治療を進めていくべきです。レスキューのお薬だけでは難しいことが多く、しっかりとお薬を使って安心できる状態を作っていく必要があります。
その一方で、苦手な状況に直面する機会の頻度によっても異なります。年に数回あるかないかということであれば、その場をやり過ごすというのも方法です。そもそも成功体験を積む機会が少ないので、自信を積み重ねていくこともできません。
患者さんごとに状況は異なりますので、当院では患者さんのお話を伺いながら、適切な方法を一緒に考えていきます。
あがり症の治療は、このように目指すゴールが人それぞれ異なります。ですが多くの患者さんで共通していることがあります。
- 恐怖の裏側には、「人と接したい」という欲望がある
- 性格をかえるのではなく、本来の力を発揮できるようになることが目標
過剰な恐怖の裏側には、実はその人の欲望が隠れています。「もっとよく思われたい」「人とうまく接したい」という欲望があるからこそ、恐怖を感じてしまうのです。そのことを認識する必要があります。
そしてあがり症の治療では、性格を変えることが目的ではありません。もともとの性格は美徳でもあって、人の目を意識する方は気遣いができる方が多かったりします。強すぎる不安や恐怖を取り除くことで、その人の本来の姿で行動できるようにしていくことが目的です。
あがり症の治療は、積み重ねていくことで少しずつよくなっていきます。焦らず、人と比べず、地道に続けることが大切です。
あがり症での薬の役割
あがり症のお薬の役割についてみていきましょう。
先ほどあがり症では、
- レスキューのお薬でやり過ごす
- レスキューのお薬で少しずつ成功体験を積んでいく
- しっかりとお薬を使って成功体験を積んでいく
という3つの戦略があるとお伝えしました。
お薬としては、
- 気になる症状を止めるレスキューの役割
- 1日を通して作用し、苦手な状況への過敏さを和らげる役割
に分けて使っていきます。
あがり症で苦手な状況に直面してしまったときに、その状況をやり過ごせるようにしていくことは大切です。不安や緊張といった精神症状、様々な自律神経症状を和らげるようなレスキューの役割になるお薬を探していきます。
「このお薬があれば何とかなる」というお守りにもなりますし、苦手な状況に挑むときに背中を押してくれることもあります。こうして、あがり症の悪循環を断ち切っていく必要があります。
あがり症の患者さんの中には、日常生活で常に不安や緊張を抱えている方もいらっしゃいます。そうでなくとも苦手な機会が非常に多く、毎日緊張の連続である方もいらっしゃいます。
こういった患者さんでは、一日を通して不安や緊張をやわらげていく必要があります。また患者さんによっては、苦手な状況へのとらわれが目立つこともあります。そういった場合は、過敏さを和らげるお薬も必要になります。
あがり症で使われるお薬とは?
あがり症で使われるお薬について、具体的にみていきましょう。あがり症の治療薬としては、
- レスキューのお薬
- 1日中効果を期待するお薬
この2つが使われます。
レスキューのお薬としては、即効性がある必要があります。あがり症といっても人それぞれ症状が異なります。困っている症状に応じて、使い分けていきます。
- 抗不安薬:不安や緊張を軽減させる
- β遮断薬:動悸やふるえを軽減させる
- 抗コリン薬:発汗を軽減させる
- 制吐剤:吐き気を軽減させる
これに対して1日中効果を期待するお薬は、長期間にわたって継続的に使っていきます。このため、
- 作用時間が長い
- 依存性の少ない
といった特徴のお薬が理想です。
こういったお薬としては、
- 抗うつ剤:SSRI
- 抗不安薬:長時間作用型
があげられます。SSRIは少しずつ効果を発揮し、過敏さをやわらげていく働きがあります。抗不安薬は即効性があり、不安や緊張をやわらげる働きがあります。
抗不安薬
抗不安薬の最大の特徴は、即効性が期待できることにあります。不安や緊張を落ちつける効果が期待でき、それによって自律神経症状が落ち着くことも期待できます。
こういったレスキューの役割を期待して使われるお薬としては、
- リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
- レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
- デパス(一般名:エチゾラム)
- ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
- ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
- リーゼ(一般名:クロチアゼパム)
などがあげられます。
それぞれのお薬に特徴があり、患者さんごとに使い分けていきます。例えば緊張が強い場合などは、レキソタンやデパスなどの筋弛緩作用が強いお薬が使われます。
ただ、長期連用してしまうと「慣れ」がおこって効かなくなったり、依存してしまうことがあります。ですからできれば、一時的に使うか、頓服として使うことが向いているお薬です。
長期間服用していく場合や一日を通して効果を期待していく場合は、作用時間が長いお薬を使っていきます。
- メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸エチル)
が良く使われます。
抗不安薬ついて詳しく知りたい方は、抗不安薬(精神安定剤)のページをお読みください。
あがり症で使われるその他の頓服薬
あがり症の頓服薬としては、抗不安薬が良く使われます。しかしながら抗不安薬だけでは、身体の反応をコントロールしきれないことも少なくありません。
こういったときには、とりきれない症状を抑えられるような頓服を使っていきます。あがり症の症状の中でも、周りの人からも分かってしまうような症状はしぶといことが多いです。
- 手足のふるえ
- 声のふるえ
- 大量の発汗
抗不安薬でこれらの症状がコントロールできない場合は、ピンポイントで止めてくれるお薬を使っていきます。
- β遮断薬:手足のふるえ・声のふるえ・動悸
(アロチノロール・インデラルなど) - 抗コリン薬:発汗
(プロ-バンサインなど) - 制吐剤:吐き気
(ナウゼリン・プリンペランなど)
抗うつ剤(SSRI)
あがり症の治療をしっかりと行っていく場合は、抗うつ剤を主に使っていきます。
抗うつ剤にも様々な種類がありますが、セロトニンを増加させる作用の強いお薬が使われます。とくにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というお薬が良く使われます。
SSRIはその名前の通り、セロトニンだけを選択的に増加させるお薬です。SSRIは、以下の4種類が発売されています。
- パキシル(一般名:パロキセチン)
- ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
- レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
- ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)
このうち、あがり症が含まれる社会不安障害の適応が正式に認められているのは、
- パキシル
- ルボックス/デプロメール
- レクサプロ
になります。
ですがジェイゾロフトの効果がないわけではありません。効果があるかどうかの研究を行っていないだけです。理論的には効果が期待できます。
これらの抗うつ剤が合わない場合は、
- SNRI:意欲低下が目立つ方
(イフェクサー・サインバルタ・トレドミン) - NaSSA:吐き気でSSRIが使えない方
(リフレックス/レメロン) - 三環系抗うつ薬:SSRIで効果が不十分な方
(アナフラニール)
などが使われます。
抗うつ剤は飲み忘れなく継続して服用することが大切です。飲み続けることで少しずつ効果が安定していきます。また急にお薬を中止してしまうと、離脱症状が生じてしまうこともあります。
抗うつ剤について詳しく知りたい方は、抗うつ剤のページをお読みください。
あがり症の心理療法
あがり症を克服するためには、お薬だけでは限界があります。お薬によって不安や恐怖、身体の症状がある程度コントロールできるようになると、成功体験を積み重ねていきながら不安と上手く付き合えるようになっていく必要があります。
あがり症の方の苦手意識や回避パターンは長年かけて作られてきたことも多く、すぐには変わりません。お薬でコントロールしながら、少しずつ慣れていく必要があります。
「周りから良く思われたい」という気持ち自体は、決しておかしなことではありません。人から注目を浴びる状況で緊張するのは、当然のことでもあります。問題は、それが過剰で本来の自分をはっきできないことにあります。
「あってはならないもの」として不安や緊張を鎮めこむのではなく、「当然のもので、上手く付き合っていける」という形を目指していきます。
心理療法にはいろいろなアプローチがありますが、それぞれの考え方をうまく生かしながら治療を進めていきます。あがり症などの恐怖の病気は、行動に重点を置いたアプローチをとることが多いです。
心理療法は、理想的には時間をしっかりと確保して、カウンセリングの中で行っていくことが理想です。カウンセリングでなくとも、診療の中で心理療法を積み重ねていくことで、少しずつ改善していくこともできます。
それでは、あがり症でよく取り入れられる心理療法の考え方についてご紹介していきたいと思います。
認知行動療法
認知行動療法とは、極端な考え方や物事のとらえ方を、現実の生活の中で少しずつ和らげていく精神療法です。
あがり症の人の強すぎる不安は、「他人から悪い評価をされる自分には価値がない」「自分のすることは他人から評価されないに違いない」「一度上手くできなかったことはまた次も失敗してしまう」などの偏った考え方が根本にあるケースが多くなっています。
そのような強い思い込みが根本にあると、必要以上に社交場面へ恐怖を感じてしまうのも無理はないと言えるでしょう。認知行動療法は、恐怖の元となっている偏った考え方を適度な範囲にしていくことを目指していきます。
強すぎる恐怖を生み出す考え方の偏りが自分の中に根付いていると意識できるだけでも、不安の度合いがマシになります。
そしてその考え方にアプローチし、「少しくらい悪い評価をされても自分の価値が下がるわけではない」「中には自分を評価してくれる人もいるはずだ」「失敗したら、反省して次につなげればいい」など、自分の恐怖をやわらげて行動を後押ししてあげる言葉に少しずつ変換していき、少しずつ行動につながていきます。
認知行動療法はすぐに効果があらわれるものではありませんが、あきらめずにくり返していけば必ず何らかの変化がおこります。
ただ、病的な不安が強すぎるときにやろうと思っても負担がかかり過ぎるため、薬物療法と上手く併用させ、自分に無理のない範囲で少しずつ積み重ねていくことが大切です。
森田療法
苦手な社会シーンでおこる恐怖や自律神経症状をあるがまま受け入れ、症状はそのままに、行動の方へ意識を向ける練習をしていきます。
あがり症の患者さんでは、「恐怖・症状→回避」という行動パターンになっていることが多く、そのことがよけいに恐怖や緊張をふくらませてしまう悪循環におちいります。
そして前述しましたが、不安や恐怖の裏には、「よりよく生きたい」という欲望があります。
森田療法では不安や緊張や体の反応、そしてその裏側にある欲望も含めてすべてをあるがまま受け入れ、「それがあるままでも行動はできる」ということをくり返し自分に体感させていく方法です。
暴露療法(エクスポージャー)
暴露療法(エクスポージャー)とは、不安を感じるシーンにあえて自分をさらし、不安に慣れていく方法です。
感じる不安が比較的小さいところから始め、「不安は感じても時間とともに薄れていく」「不安を感じてもやるべきことをすることはできる」「失敗をしたとしてもそれほど大きなダメージは受けなかった」などの感覚を成功体験として体感しながら、挑戦するシーンのハードルを少しずつ上げ、克服を目指します。
この方法は、それぞれの状態に合わせ、不安階層表を用いて少しずつすすめていきます。行動から認知を変えていくことに重きをおいていく精神療法です。
性格と思わずに病院で相談を
冒頭にもお伝えしましたが、あがり症は性格と思い込んでしまっている方が非常に多い病気です。
そういった性格と思い込んでしまい、人生の選択を狭めてしまっている方も少なくありません。生きづらさを感じながら、耐え忍んでいる方もいらっしゃいます。
あがり症は病気として治療していくことで、生き方が変わっていく可能性のある病気です。お薬に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。無理にお薬を使う必要はないのですが、うまく使えば治療に役立つことが多いです。
お薬の治療に抵抗があるからといって無理に頑張ろうとすると、お酒の力に頼ってしまうことがあります。その方が心身に悪い影響があるばかりか、依存が進んでしまって日常生活にも支障が出てしまうこともあります。
あがり症はたくさんの人が苦しみ、治療によって克服していく可能性の高い病気です。現在第一線で活躍している立場の人でも、昔はこの病気で苦しんでいたという人が意外に多いものです。そして不安や緊張とは無縁そうに見える方でも、人目を忍んで苦しんでいる方もいらっしゃいます。
人前で話をすること、人と接すること、人からどう見られるかということに強い恐怖や不安を感じ、生きづらさを感じている場合は、ぜひ病院で相談してみてください。
※当院のあがり症外来の特徴につきましては、「こころの外来の特徴と流れ」をお読みください。