複雑性PTSDの診断基準〜自己組織化障害と機能障害
「複雑性PTSD」は、【出来事基準（単回性または持続性･反復性）】により、【PTSD症状：再体験、回避、脅威の知覚】と【自己組織化障害(DSO)症状；感情調節障害、否定的自己概念、対人関係障害】があり、さまざまな領域の著しい【機能障害】などの項目をすべて満たしているもの、と定義されています。
『複雑性PTSDの診断基準〜外傷的出来事とPTSD症状』では、ICD-11での複雑性PTSDの概略と出来事基準（トラウマティック･イベント；外傷的出来事体験）、そしてPTSD症状について解説しました。
とくに、診断基準上の「出来事基準（トラウマティック･イベント；外傷的出来事体験）」は、「身体的虐待」「性的虐待」のみで、「心理的虐待」や「心理的ネグレクト」は該当しません。
さらに、そのような「トラウマティック･イベント；外傷的出来事体験」に、一度に数ヵ月から数年間、連続してさらされた経験があっても、ほとんどの人は障害を発症しない、ことにも注意が必要です。
今回は、【自己組織化障害(DSO)症状（感情調節障害、否定的自己概念、対人関係障害）】と、【機能障害】について説明します。
複雑性PTSDの自己組織化障害(DSO)症状
感情調節障害
情動の調節に重大かつ広範な問題がある。
例えば、些細なストレス要因に対する情動反応の亢進、暴力的な暴発、無謀または自己破壊的な行動、ストレス下の解離症状、感情の麻痺、特に喜びや肯定的な感情を経験できないことなどがある。否定的自己概念
情動の調節に重大かつ広範な問題がある。
例えば、些細なストレス要因に対する情動反応の亢進、暴力的な暴発、無謀または自己破壊的な行動、ストレス下の解離症状、感情の麻痺、特に喜びや肯定的な感情を経験できないことなどがある。対人関係障害
人間関係を維持することや他者を身近に感じることが持続的に困難になる。
人間関係や社会との関わりを一貫して避けたり、軽蔑したり、ほとんど関心を示さなかったりする。あるいは、時折濃密な人間関係があっても、それを維持することが困難である。
感情調節障害は、「動揺すると落ち着くまで時間がかかる」とか、「こころが麻痺したように感じたり、感情呈ししたように感じたりする」などの症状で表現されます。
否定的自己概念は、「自分は出来損ないだと感じる」、あるいは「自分には価値がないと感じる」などの症状であり、「大学入試に失敗した、留年が決まった、だから自分はダメな人間だ」のような自己評価とは区別する必要があります。
対人関係障害は、「人と距離があるように感じたり、仲間はずれにされているように感じたりする」「人と感情的に近い距離を保つのが難しいと感じる」などの症状であり、対人恐怖や対人過敏とは異なります。
これまでみてきたように上記の【自己組織化障害(DSO)症状；感情調節障害、否定的自己概念、対人関係障害】は、複雑性PTSDに特異的なものではありません。
たとえば「自己組織化障害(DSO)症状」は、ADHD(注意欠如多動症)/ASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ人では普遍的に認められます。
また、欧米文化圏の自尊心（自分に対する肯定的な感情）が重視されることに比べ、東洋では否定的自己概念（自己批判）は向上のための調節方法であると位置づけられるなど、文化的差違も認められます。
複雑性PTSDの機能障害
この障害は、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、またはその他の重要な領域において、著しい機能障害が生じる。
機能が維持されるとしても、それは多大な追加的努力によってのみである。
複雑性PTSDを誘発する外傷的出来事の深刻さ、長期化、再発の性質を考えると、集団的苦痛や社会的絆、ネットワーク、コミュニティの破壊は、焦点となる関心事として、あるいは障害の重要な関連する特徴として現れるかもしれない。
移民社会、特に難民や庇護を求める人々にとって、複合型PTSDは、馴化的ストレス要因や受入国の社会環境によって悪化する可能性がある。
複雑性PTSDでは、【PTSD症状】や【自己組織化障害(DSO)症状】により、「人間関係や社会生活」「仕事や仕事をする能力」「育児、学校、大学やその他の重要な活動など、人生の重要な部分」に対して、著しい機能障害を引き起こすとされています。
ですから、「機能が維持されるとしても、それは多大な追加的努力によってのみ可能である」と記載されています。
たんなる「生きづらさ」と「機能障害」は異なるということです。
院長
