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発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの臨床

[2023.10.30]

アダルトチルドレン、境界例、発達障害、HSP、そのうちにおそらく発達性トラウマ障害もこうした生きづらさを表現するためのラベルとして使われていくだろう」と指摘されているとおり、最近では「複雑性PTSD」よりも「発達性トラウマ障害」の方が書籍の刊行数も多く、注目を集めているそうです。(工藤. 人はなぜそれを愛着障害と呼ぶのだろう. こころの科学: 216, 92-93, 2021.)

 

生きづらさのラベルとしての「発達性トラウマ障害」という呼び方は、「複雑性PTSD」のような重篤感のある名称ではなく、ちょっとライトな感じですよね。

 

さらに、診断基準にある外傷性出来事(トラマティック・イベント)ほど大変なことが起きたわけではないけれども、「発達段階でのプチトラウマ(日常的な傷つき体験)があったよねー」「生きづらいのは発達性トラウマなんだよねー」のような、受け入れられやすさがあるために、生きづらさのラベルとして使われやすいのかもしれません。

 

発達性トラウマ障害の発達段階

「発達性トラウマ障害」は、幼児期から児童期にかけて、身体的暴力、面前DV、心理的虐待、養育者の頻繁な変更などの逆境的小児期体験への曝露から始まり、さまざまな症状を表現しながら、児童期、思春期、青年期と連続性して変遷していきます。

 

児童期(学童期)になると、診断基準B「感情的・生理的調節不全」が目立つようになります。

これには、極端な感情(癇癪やフリージング)、身体的機能の調節障害(感覚過敏、変化や注意の切り換えでの混乱)、アレキシサイミアやアレキシソミアなどが含まれ、「自閉スペクトラム症(ASD)」特性が目立つようになります。

 

さらに診断基準C「注意と行動の調節障害」、つまり、脅威への警戒、危険行為、適応性のない自己慰撫の試みや自傷行為など、「注意欠如多動症(ADHD)」に似た状態を示します。

 

「自閉スペクトラム症(ASD)」と「注意欠如多動症(ADHD)」とが混在したような状態が「発達性トラウマ障害」の特徴と考えらますが、診断基準C「注意と行動の調節障害」を満たす人はそれほど多くないのが臨床的な印象です。

 

思春期には、診断基準D「自己の調節不全と対人関係の調節不全」のうち、「自己嫌悪、無力感、自分は無価値だという感覚」など、自己組織化障害の「否定的自己概念」、あるいは、「気分変調症」に似たアイデンティティ(自己組織化)が確立してくるようです。

 

思春期の同輩またはその他の成人との関係は、2つのパターンに分かれるようです。

1つは、マスターソンの「遠ざかり境界性自己障害」に似た緊密な対人関係における極端で持続的な不信であり、もう1つは、「境界性パーソナリティ障害」のような反応性の身体的攻撃または言葉による攻撃が目立つようになるなど、ASD特性あるいはADHD特性の混在の程度によって表現型は一定しないようです。

 

さらにこの時期には、診断基準E「心的外傷後スペクトラム症状」、つまり、再体験、回避、過覚醒のうち最低2つ、少なくとも1つの症状を満たすようになります。

ASD特性が強い人では、「強迫観念(強迫反芻)」をフラッシュバックと呼んでいる患者さんが多いようです。一方、ADHD特性が強い場合は、PTSD三徴のうち「過覚醒(脅威への警戒)」が目立つことが多いようです。

 

このように見てくると、「発達性トラウマ障害」と診断した人は、慢性的なうつ状態、つまり、自己組織化障害の「否定的自己概念」、あるいは、「気分変調症」に似た症状と、対人関係の構築維持の困難を主訴に受診された方が多いのです。

 

複雑性PTSDの発達段階

「複雑性PTSD」は幼少期のトラウマ的出来事から、「発達性トラウマ障害」と同じように連続した表現型の変遷がみられる場合もありますが、思春期や青年期になってから急に症状が発現する場合もあります。

 

トラウマ体験があったからといって必ず「複雑性PTSD」を発症するわけではありません。

PTSDの発症率はトラウマ体験受傷者の約10%とされていますから、「複雑性PTSD」の発症率も同程度と考えられますが、むしろ3つのPTSD症状と3つの自己組織化障害のすべてを満たすケースはそう多くなく、完全に満たさない「閾値下・複雑性PTSD」が多いといわれています。

 

「複雑性PTSD」の児童期には、「情緒調節の広範な問題や人間関係を持続させることの持続的な困難」および「感情体験や感情表現の抑制や感情を誘発しうる状況や経験の回避」など、「自閉スペクトラム症(ASD)」に似た対人関係と感情調節の問題が現れてきます。

 

それに対して青年期では、情動調節障害や対人関係の困難の問題は、薬物使用、危険な行動(例えば、危険な性行為、危険な運転、自殺を伴わない自傷行為)、攻撃的行動など、「パーソナリティ障害」のように見える認知、感情経験、感情表現、および行動の不適応パターンとして現れるようです。

 

実際、ICD-11の診断基準では、「複雑性PTSD」の患者の多くは「パーソナリティ障害」の診断要件も満たしている可能性がある、とされています。

また、「複雑性PTSD」には併存疾患も多く、小児期ではアタッチメントの問題による「分離不安障害」や「睡眠・覚醒障害」が見られ、思春期・青年期では、「抑うつ障害」「摂食障害」が見られることが多いようです。

 

あるいは、「発達性トラウマ障害」と同じように、」「注意欠如多動症(ADHD)」から「反抗挑戦性障害(ODD)」、そして物質乱用や依存症を伴う「行為障害(CD)」から「反社会性パーソナリティ障害(ASPD)」にいたる「破壊的行動障害マーチ(DBDマーチ)」も見られるとされています。

 

一方、幼少期にトラウマ体験があったものの児童期・思春期には軽微な解離症状と抑うつのみで経過し、思春期・青年期から成人期にかけて発症したケースでは、再体験・過覚醒・回避のPTSD三徴が目立ちます。

 

「複雑性PTSD」の場合は、夜間から就寝時に起きる解離性フラッシュバックと過覚醒症状を睡眠障害(入眠困難・中途覚醒・悪夢)として訴えられ、あるいは日中の抑うつ症状や対人過敏(対人恐怖)、などが主訴になることが多い印象があります。

 

トラウマ関連障害と診断するために

「発達性トラウマ障害」も「複雑性PTSD」では、一般の人が想像されているようにPTSD症状を主訴に受診されることは少ないのです。

タイムスリップとフラッシュバックの自然治癒

 

むしろ「発達障害(ASD/ADHD)」特性と、「複雑性PTSD」の臨床像が混在し、「臨床像は何でもありであり、診断カテゴリーをまたぐ」といわれるように、症状は人によって様々であるため往々にして誤診されやすいのではないか、との印象をもっています。(杉山. 『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』 誠信書房)

 

発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの違い』の「」にあげた「出来事基準」があり、さまざまな診断で通院中の方は、トラウマ関連疾患を鑑別する必要があります。

発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの違い

「発達性トラウマ障害」や「複雑性PTSD」などのトラウマ関連障害は、通常の精神疾患と治療方針が大きく違いますから、こころの健康クリニック芝大門に相談してみてくださいね。

 

院長

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