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過食症と対人関係

[2015.05.18]
摂食障害では、「対人関係上の問題」が発症や症状の形成、病気の維持や回復に大きな影響を与えることが知られています。 ここでいう「対人関係上の問題」というのは、対人関係が苦手で引っ込み思案の性格とか、誰かとの関係がこじれてしまいうまくいかないという直截的な悩みレベルの問題ではなく、「繰り返される対人関係パターン」という意味です。   摂食障害では、新奇追求・損害回避・報酬依存・固執など、生まれつきの「気質」や養育者や対人関係の「愛着スタイル」、および自己志向・協調性・自己超越など環境や人の影響を受けて形成される「性格」にもとづく摂食障害を発症する前の「対人関係パターン」と、摂食障害の発症後に二次的に生じてくる「対人関係パターン」に分けて考えていきます。   摂食障害の発症前の「対人関係パターン」は、「神経性やせ症/拒食症」についてよく知られていますが、「拒食症」を経ないダイエットの飢餓状態から飢餓にともなう「過食/大食」につながるケースでも、摂食障害の場合は、直前に「役割の変化」と呼べる何らかのライフイベントが先行することが多いのです。   一方、何となくダイエットを始めたら体重が減るのが楽しくなってダイエットにのめり込んでしまったというケースもあります。 このようなケースでは、発症前から一人でいることを好み対人関係が乏しく、「損害回避」や「協調性」が低いことがほとんどで、こだわりや常同性など強迫傾向が見られることが多いのです。   このようなダイエットの途中で、通常の食事でも嘔吐をしてしまう「排出性障害」に移行し、嘔吐のために大食をすることで一見「神経性大食症/嘔吐を伴う過食症」に見えるケースもあります。 この場合は対人関係の問題ではなく、むしろこだわりや常同性など自分自身との折り合いが問題で、さらに強迫性障害の合併も多くみられることから、対人関係療法の適応にならないことが多いのです。   対人関係療法による過食症の治療では、過食症の維持因子を対人関係文脈から考えていきます。 大雑把に説明すると、過食症になって間もないうちはダイエットのきっかけになったライフイベントをそれまでのやり方が通用しなくなった状態とみて、「役割の変化」の問題領域を設定します。 一方、過食症の発症後に二次的に対人関係が変化し、重要な他者との間で役割期待のズレが慢性化し、そこで無力感や絶望感(内在した怒り)があれば、「対人関係上の役割をめぐる不和」を焦点とします。 (『気分変調性障害と評価への過敏性~愛着の問題』参照)   あるいは、小さな頃から評価を受け続けたなど、ミクロな不和の繰り返しで、相手の顔色を読むようになり、交渉をあきらめて自分の殻に閉じこもり過食が続いている場合は、「評価への過敏性」という問題領域になりますが、上記の「役割をめぐる不和」と同じように自分の気持ちをよく振り返り言葉にしてみるという再交渉を起こしていくことが治療目標になります。   あるいは、小さな頃から言うことを聞くいい子だったけど内心は不安がいっぱいで、ビクビクしてとりあえず相手に合わせておくという対人関係パターンが続き、自責感と不安を過食で紛らわしている場合も「評価への過敏性」の問題領域を設定しますが、この場合は、対人関係を十分に知らずに成長した人と位置づけ、気分変調性障害の「治療による役割の変化」のような「対人学習」を中心に治療をすすめることが多いですよね。   対人関係療法は、その人に合った問題領域を考えるのが特徴で、この問題領域がぴったりマッチすると、人によっては初診時の仮フォーミュレーションだけで治療初期に過食がおさまってしまい、あとは自分の身体と対話することを少しずつ続けてむちゃ食い障害から完全に回復することだってあるんですよ。 院長
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