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対人関係療法はどのような患者さんに有効なのか

[2015.05.11]

対人関係療法は、過食症にエビデンスを持つ治療法ですが
誰にでも効く万能の治療法ではなく、
すべての過食症の患者さんに有効なわけではありません。

しかしながら、ここの症例には個別の苦しみがある。実証性が確認されているからといって、同じ治療をすべての患者に適用してうまくいくとは限らない。
どんな治療も、どのような患者のどのような病態にどのように効果があるのかを明確にして、より適切に施行されるべきである。
野間俊一:摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

と野間先生が示唆されているように、

○対人関係療法は、過食症のどのような患者さんに有効なのか
○対人関係療法は、どのようなタイプの過食症に有効なのか
○対人関係療法は、過食症にどのように効くのか

を明確にして、適切に適用すべきということですよね。

このうち「対人関係療法は過食症にどのように効くのか」について
摂食障害から回復するための要因』で触れましたよね。

「対人関係療法は、どのようなタイプの過食症に有効なのか」については、
「摂食障害」なのか、他の精神疾患に伴う「食行動異常」なのかを
明確に区別して考える必要がありますよね。
(『摂食障害の精緻な診断は治療効果に結びつく』参照)

これはとりもなおさず、
「対人関係療法は、過食症のどのような患者さんに有効なのか」
という問いと関連してきます。
きわめて大雑把に書くと、対人関係療法は

○身体疾患や生来的特性(発達障害)に伴う食行動異常
○統合失調症や強迫性障害、依存症など他の精神障害に伴う食行動異常

を除外して適用する必要があるのです。

対人関係療法による治療で焦点を当てていく
「役割期待の不一致」や「評価への過敏性」などの
対人関係上の出来事と症状の関連が文脈的に理解できて
それらが過食症の維持因子に関与していることが明確であれば
対人関係療法による治療が可能ということなのです。

つまり「体重や体型への過大評価(支配観念)」である「やせ願望」や
「体重や体型のコントロールへのとらわれ(恐怖症的回避行動)」などの
摂食障害の中核の精神病理が明確でなくても
対人関係療法による治療が可能ということなのです。
(『特定不能の食行動障害』参照)

たとえば、もともと人見知りで対人交流も乏しく、
こだわりや完璧主義のある人が、拒食症から過食嘔吐に移行して、
引きこもって誰とも口を利かず、黙々と毎日過食嘔吐している場合、
「対人関係の欠如」に見えてしまいますよね。

上記のようなケースは、もともとの自分との折り合いの問題があり
対人関係に問題がないどころか、対人関係が少ないことを
「自分には対人関係を構築できないという問題がある」
と理解されて治療を申し込まれることが多いのです。

対人関係療法は「対人関係が苦手な性格を変えるものではない」ことに加え、
「対人関係に問題があるから対人関係療法を行う」のではありません。

上記のようなケースでは
対人関係上の出来事と症状の関連が見いだしにくいですから
対人関係療法を導入しても、最終的には自分自身の折り合いである
「こだわり」や「とらわれ」のがクロースアップされるにすぎない
ということになってしまうことが多いのです。

「対人関係の欠如」は過食症だけに適応される問題領域で、
「対人関係には一見、問題ないけれども、表面的で
常に自分ががまんを抱え込み過食で麻痺させる」というもので
「我慢を抱え込むことになった出来事と症状の関連」が明確
という特徴があるのです。
ただ、上記のようなケースと紛らわしいため、
三田こころの健康クリニックでは「評価への過敏性」と呼んでいます。

このような文脈の理解については、
元々どのような人が、どういう経緯で摂食障害や食行動異常を発症し、
何が摂食障害の維持因子になっていて、
それをどう変化させれば今の状態が改善するかということについて
対人関係療法が適応になる/ならないに関わらず、
三田こころの健康クリニックで初診時に
仮フォーミュレーションとしてお伝えしていますよね。

院長

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