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摂食障害の「評価への過敏性」と「愛着スタイル」

[2015.05.25]
気分変調性障害と評価への過敏性〜愛着の問題』で挙げた「とらわれ型(不安/アンビバレント型)」や「未解決型(おそれ/回避型)」の愛着スタイルは、異常な摂食行動に直接的な影響を及ぼすことが知られています。(『摂食障害の愛着(アタッチメント)スタイルと気質』参照)   「とらわれ型(不安/アンビバレント型)」は、幼少期に過保護に甘やかされる一方で、親の意に沿わないと拒否されるといった極端さ(条件付きの愛情)のなかで育っていることが多いといわれており、母親は過保護、過干渉、支配的で、父親は逃避的、無力的で家庭内で中心的存在となり得ていない、という報告があるのです。 他の報告では、慢性化した摂食障害患者では、長期にわたり親子間で相互依存の状態が続き、不適切な情緒的交流がなされていた、とかあるいは両親とも「否定的」が有意に高く、「情緒的暖かみ」は有意に低かった、など摂食障害の家族調査でさまざまな報告がなされています。 もちろんこのような家族内力動は摂食障害の特異的な病因論とは受け入れがたいと言われていますが、愛着(アタッチメント)から鑑みると、重要な要因の1つであることには変わりありません。   「とらわれ型(不安/アンビバレント型)」では、成長すると他者を求める気持ちと拒絶する気持ちの両方が併存します。 そのため不安な環境におかれるとうまく対処出来ず、ストレス軽減のため何らかの方法をとらざるを得なくなります。 その1つが「気分解消行動としての不適切な摂食行動」でストレスから気をそらし見ないことにする「麻痺させるための過食/むちゃ食い」が相当します。 また、自分の価値を下げるような評価を怖れるため、自己の容姿(体型・体重)を統制するダイエット行動などにつながり、摂食障害の発症と進展を助長することになります。 その過程で自己誘発嘔吐など気分解消行動が起きてくるのですが、「嘔吐は過食と違って、帳消しにする衝動行為」と位置づけられます。   一方、「未解決型(おそれ/回避型)」は、対人関係を避けてひきこもろうとする人間嫌いの面と、人の反応に敏感で見捨てられ不安が強いという2つの側面があり、対人関係は錯綜し、不安定なものになりやすいとされます。 この「未解決型(おそれ/回避型)」の傷つきやすさと不安定さは、養育者との関係において深く傷ついた経験に由来していることが多いとされています。   しかし、どんなに複雑な家庭環境で育ったとしても、摂食障害を発症するどうかは「安定(SECURE)」の関与が知られており、愛着対象(養育者など)との関係の中で内部に形成される愛着対象および自己に関する心的表象がどれだけ「安定」として位置づけられるかという児側の要因も関与していることが知られているのです。   上記の「未解決型(おそれ/回避型)」では、生まれつき「報酬依存」が低く、さらに成長過程で形成される「協調性」も低いことがよくみられますから、もともと、対人学習の稚拙さという素因の関与も大きいようです。 『愛着スタイルと社会適応』でも触れたように高い「自己志向性」や「協調性」という周囲の人たちとの関係や環境によって培われた「性格」が摂食障害などの精神疾患の発症を抑えるのです。 これまでは「個」の病として把握されてきた摂食障害は、「関係性」の視点で理解しなおすことで、「その人の人生にとってその体験がどういう意味を持っていたのか」という獲得された性格の一つである「協調性」がもともとの気質の持つ力(サリアンス)を調節することができるということですよね。  
トラウマ体験が患者にとってどういう意味を持ったのか、いったいどういう形でつながりを取り戻していくことが患者にとって最も回復を促進するのか、ということは、患者の文脈を理解することでしか認識することができない。 (中略) どんな精神科的障害においても患者にとっての文脈の理解は重要であるが、トラウマの場合、ことにその重要性を強調する必要があるのは、どうしてもトラウマ体験そのものに注意が向きがちだからである。 (中略) 必要なことは、本人の文脈の中にトラウマ体験を位置づけることである。 それがトラウマという離断の体験を繋ぎ直す第一歩となる。 その人の人生にとってその体験がどういう意味を持っていたのか、という理解を本人と共有していくことができると、コントロール感覚の回復にもつながっていく。 水島広子『トラウマの現実に向き合う』岩崎学術出版
トラウマの現実に向き合う』の中の「トラウマ」や「トラウマ体験」を「過食」や「過食症」と置き換えて読むと、「とらわれ型(不安/アンビバレント型)」や「未解決型(おそれ/回避型)」の愛着スタイルの患者さんにとって「コントロール感覚」の回復を目指す文脈の治療としての対人関係療法が明瞭になりますよね。 院長
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