過食や過食嘔吐から回復したある日
[こころの健康クリニック芝大門]の院長ブログ「聴心記」の中で、何といってもダントツの人気記事は『嘔吐をやめると体重はどうなるのか?』です。
そして『チューイング(噛み吐き行為)は摂食障害なのか』『摂食障害症状の再燃とその対処の仕方』が続きます。
風間副院長ブログ[星とたんぽぽ]では、『治るということ』『星とたんぽぽ』『甘いささやき』が人気のようです。
この傾向を見ると、皆さんは、不可解な摂食障害行動が起きるのはなぜか?、そしてどうやって回復していけばいいのか?に関心があるのですね。
新型コロナウイルス感染症の蔓延による外出自粛の影響で「過食」「嘔吐」「下剤の使用」が増えたとの回答が全体の7割あった、と摂食障害協会のアンケート結果がNHKのニュースで伝えられていました。
このような時だからこそ、摂食障害の治療が必要なのですよね。
対人関係療法による摂食障害の治療を申し込まれる人のほとんどが、「なんとか過食をしないようにしたい」「過食嘔吐をやめたい」と考えていらっしゃいますよね。
もちろん、それはそれで大切なモチベーションなのですが、その背景には「回復する10の段階」のうち、「4.変わりたいけどどうしたらいいのかわからないし怖い」「5.変わろうとしたけど私にはできなかった」など、プチ挫折体験がある人も多いのではないでしょうか。
「熟考期」の人たちに対して、対人関係療法の初診時に「過食や過食嘔吐をしなくなったら、代わりに何をしたいと思いますか? そして、1年後はどんな生活をしていたいですか?」と必ず質問していますよね。
もちろん、摂食障害から回復したいと思っているということが大前提ですが、あなたは、回復したときのあなたの姿を想像できますか。
摂食障害から回復すると考えるときに、どんな姿を念頭に置いていますか。
ご両親や兄弟や心理士さん、栄養士さんがこうあるべきだと考える姿ではありません。
こんな姿でありたいと、あなた自身がどう考えているのかを、ご自分でわかっているでしょうか。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
摂食障害から回復した状態についてお聞きすると、多くの人が「過食嘔吐をしていない」とか「健康的な生活をしている」と抽象的に答えられます。
「では、私が撮影隊を引き連れて1年後のあなたの1週間の生活のドキュメンタリーを撮影してきて、そのDVDをここで一緒に見ているとします。この映像の中に映っているあなたは、どんな気持ちでどんな生活をしていますか?」とお聞きしていますよね。
ほとんどの人が「う〜ん・・・よくわかりません・・」と、将来の自分の姿が想像できないようです。
『8つの秘訣』では、「秘訣8 人生の意味と目的を見つける」でもこの課題に取り組みますよね。
こころの健康クリニックの対人関係療法による治療では、「目的や価値に基づく行動を起こす準備:なりたい自分になる」として、動機づけを高めるために治療の最初に取り組んでもらっていますよね。
次の簡単な練習をして、あなたが回復への道で目指すゴールを描いてみましょう。
次の四つの分野において、回復したときにはこうなっていたいという特徴をそれぞれ書き出してみましょう。
精神面とは、生きる目的、人とのつながり、生きることの意味、心理面とは、あなたが何を考えているか、感情面とは、何を感じているか、身体面とは、食べ物や運動とどのように付き合っているか、ということです。
なるべく具体的に書いてみてください。
これはあなただけの個人的な回復の定義だということを念頭に置いておきましょう。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
『8つの秘訣』ではキャロリン・コスティンさんがさまざまな回復の定義を示してくれていますが、こころの健康クリニックでは、その中でも「摂食障害行動を使って、日常の他の問題に対処したり、問題を避けたりする必要はなくなる」ということを強調しています。
そのような「回復した」状態を、精神面、心理面、感情面、身体面から具体的に思い描いてみることが、「回復したときの私の一日」の練習にもあります。
少し時間をかけて、完全に回復したときの一日の様子を想像してみましょう。できるだけ細かい部分までイメージしてみてください。
どんなことをしているのか、どんな服を着ているのか、どんな人と一緒にいるのか、どんな風に人生をとらえているのか、身体の中にどんな感覚があって、どんな職業について、どんな趣味や活動を楽しんでいるのか、他にもぜひどうなっていたいと思うのかについて、考えてみてください。
覚えておいてほしいのは、何かを望んでいても、同時にそれを恐れている場合もあるということです。
コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
「何かを望んでいても、同時にそれを恐れている場合もある」というショッキングな一文があります。
ジェニーさんも、回復に向かって頑張りつつも、同時にエド(摂食障害思考)にしがみつこうとする部分があることを自覚されていますよね。これが「熟考期」の特徴なのです。
回復に向かってこれだけ私が頑張ってきていてもなお、私の中の何かが、いまだにエドのことを信じているのです。
冗談ではなくて、私の中の何かが、どうしてもエドを手放したがらないのです。死に物狂いでエドにしがみついています。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
この2つの部分、健康な部分と摂食障害の部分のせめぎ合いがあるからこそ、治療の途中で摂食障害行動の再燃や増悪が起きてくるのです。
ジェニーさんも取り組まれた健康な部分と摂食障害の部分(エド)との関係性を変えていくことは、とりもなおさず、健康な部分と摂食障害の部分を和解させ、統合していくプロセスなのです。
院長