自分に必要なリワークプログラムは何か
休職中の社員さんと産業医として面談していると、さまざまな過ごし方が見えてきます。
以前は自宅で静養したのち、散歩や図書館通いを少しずつ始めて、職場復帰の準備を進めていくことが主流でしたが、最近ではリワークを利用する人も増えてきました。
リワークとは、「リ(再び)+ワーク(働く)」という造語で、職場復帰や復職を支援するプログラムのことです。
一口にリワークと言っても千差万別で、医療機関で行われていたり、地域障害者職業センターで行われていたり、あるいは企業内で行われていたりとさまざまです。
企業内で行われる職場リワークは、主治医から復職可能の診断書が提出された後、通常業務への復帰までの流れを策定するための「職場復帰支援プラン」として行われることが多いようです。
試し出勤で業務負荷を少しずつ増やしていき、復職後に安定して働けるかどうかを判断することが目的となっていますが、職場リワークは問題なく遂行することができるものの、復職するとまもなく休職してしまう経過を反復する社員が存在することが問題になっています。
主治医が判断する復職可能のレベルと、実務で要求されるレベルの間にギャップがあることが以前より指摘されており、そのギャップを埋めるために考え出されたのが、後述の「医療リワーク」です。
地域障害者職業センターや各地のリワークセンターで無料で行われている職リハ・リワークは、おおむね3ヵ月の「職業リハビリテーション」です。最近では在宅で行うプログラムもあるようです。
リワークセンターと呼ばれていますが、「目的は職場への適応に向けた本人と雇用主への支援であり、病状を回復させるための治療ではない点が医療機関のプログラムとの最も大きな違いです」とうつ病リワーク協会のサイトでは注意を促してあります。
利用は無料なので、ある社員さんが通っていらっしゃいましたが、3ヵ月の利用期間が終了しても復職準備性が改善しなくて復職できず、結局、この社員さんは退職を選ばれてしまいました。
医療リワークと異なり、職リハ・リワークでは復職準備性を的確に評価することができないことがその一因でもあるようです。
極端な言い方をすれば、職業的なスキル不足のために休職した方が、復職に向けてスキルを身につけ、本人に合った適切な業務を考えていくのが職リハ・リワークの目的と考えるといいかもしれません。
医療機関で行われている医療リワークは、「復職支援と再発・再休職防止に特化したプログラム」を行う精神療法的な医学的リハビリテーションです。
こころの健康クリニック芝大門のリワークは、医療リワークに該当します。
しかし中には、統合失調症の患者さんの昼間の居場所としてのデイケアをリワークと呼んでいるところもあるようです。
このようにさまざまなリワークの形態がありますので、どのリワーク・プログラムが適切なのか、自分の復職のためにはどのようなモジュールが必要なのかを考えたうえで、それぞれのリワークに問い合わせてみるのが必要でしょう。
相談センターみたいなところに行ったら、医療専門職でも何でもない人から診断名を告げられたり、治療法を示唆されたり(医師法に抵触する)、関連の医療機関を受診するよう誘導された、との話を患者さんからお聞きしていますので、注意が必要かもしれません。
うつ病リワーク協会の会員が運営するリワーク施設が提供する医療サービスの質の向上とリワーク施設間での専門指導等を標準化することを目的として、スタッフ認定制度を定めています。
うつ病リワーク協会には、こころの健康クリニックも施設会員として登録しており、院長である私は認定スタッフとして認定されています。
通常の診療をしているとなかなか実地研修を受けに行けないため、私自身はリワーク認定スタッフで止まってますが。。。
「こころの健康クリニックのリワークでは、どのようなプログラムを行っているんですか?」との問合せを多くいただいていますので、どのようなコンセプトでリワーク・リワークプログラムを行っているのかについて書いてみたいと思います。
多くのリワーク施設では、適応障害や、うつ病・うつ状態の患者さん向けに、うつ病の認知行動療法や、簡単な計算、あるいはパソコンを使った作業プログラムを行っているところがほとんどです。
あるいは、統合失調症のデイケアのノリで、コミュニケーションのトレーニングと称してゲームや卓球などのレクリエーションを行っているところもあるようです。
職場への復帰と会社での業務や職務を考えた場合に、ゲームや卓球がどのように役に立つのか、私自身は疑問を持っています。
一方、こころの健康クリニックの院長である私は、産業医として活動もしている中で、職場の人間関係の問題を抱えた社員さんと多く面談しています。受ける相談は、上司や同僚、あるいは部下との人間関係の問題が圧倒的に多く、仕事の量あるいは質に関する問題もよく聞くところです。
そういう経緯もあって、職場の対人関係の問題で休職された方たちにも有効な職場復帰(復職)プログラムとして、対人関係療法を中心にしたリワークを始めたのです。
こころの健康クリニックのリワークでは、適応障害、うつ病・うつ状態の患者さんだけに限定せず、気分変調症や双極性障害、パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害、混合性不安抑うつ障害など、さまざまな不安障害、神経性過食症や過食性障害など摂食障害の患者さんなどを、診断名にとらわれずに受け入れています。(詳細は『リワーク(職場復帰支援)外来』をご覧ください)
診断名によらないリワークを行うために、元々どういう人がどのような契機で休職するに至ったのかについて、① 自分自身との折り合いの問題なのか、② 上司や同僚などとの対人関係の問題なのか、あるいは、③ 社会や集団との関係が問題なのか、の3つの軸から診立てを行い、リワークでの治療方針を考えます。(『うつ状態や適応障害と診断されたときに考えること』も参照してください)
リワーク・プログラムの内容として、「社会リズム療法」を用いた睡眠覚醒リズム、生活リズムの安定と、刺激のコントロールによって身体とのつきあい方を学び生物学的な土台を安定させます。
その上で、心の仕組みと動き方を理解する「セルフモニタリング」や「メタ認知療法」で自分自身との折り合いのつけ方を学び、そして「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」によって行動の仕方を変えていく、など心理学的な安定を目指します。
そして、自他の心理状態を理解する「メンタラージング・アプローチ(メンタライゼーション)」と「対人関係療法」で、対人関係の改善はかることができるよう、疾患共通プログラムを組んだのです。
さらに、うつ病リワーク協会の職場復帰準備性評価シートを用いて、毎月どの程度復職準備性が高まったかをチェックしています。
個別面接治療で、その人の課題と治療目標の達成度合いを検討し、課題を出したり必要な心理的スキルを伸ばすことを毎週行っています。上記の疾患共通プログラムが基礎的な学習とすれば、この疾患別(個別)プログラムが実践応用編です。
疾患共通プログラムと疾患別(個別)プログラムを組み合わせることで、診断名によらずにさまざまな患者さんを受け入れることを可能にしているのです。
院長