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摂食障害を抱えながら働くということ

[2023.03.27]

摂食障害(神経性過食症、過食性障害、排出性障害)の患者さんで、学生さん、就労中の方、休職中の方など、さまざまな人がこころの健康クリニック芝大門に通院されています。

 

2018年に日本摂食障害協会により、仕事探しの困難や仕事を続ける上での困難についての就労に関する調査が行われました。

 

調査では、「摂食障害のために就労上の困難を感じている人が79.9%と多数であった」と報告されています。

 

摂食障害当事者の仕事探しの困難

仕事探しの困難としては、「どのような仕事が向いているかわからない」など、摂食障害以外の人にも共通する問題も多かった。

「仕事条件についての相談の際、症状や通院について話すか迷った」は、他の疾患にももちろんみられる悩みだが、摂食障害では、病状の否認や症状への恥の感覚が強く、自分の病状を他者に対して言語化できる状態になっていないことも多い。

「自分の長所をアピールするのが苦手」というのは、自己評価の低い摂食障害の当事者にしばしばみられる課題である。

そして、症状を人に話すのを迷ったり、自己アピールができないことと、やせ願望や無力感とは相関していた。摂食障害のことを人に話せない当事者に、摂食障害特有の心理が強く残りがちであるならば、再発リスクのある人が誰にも相談できずに悪化するケースも少なくないと推測される。

西園. 摂食障害と就労−働くことの意味と課題. こころの臨床 225(9): 37-41. 2022

 

今年、就職した新社会人の方や、現在就活中、あるいはこれから就職活動を始める大学生で、摂食障害を抱えている方にとっては、症状をどうするかだけではなく、社会の中でどう生きていくかに関わる切実な問題と思います。

 

働くことの意味

摂食障害の当事者が仕事をする意味は何だろうか。当然ながら、働く理由の一つは収入を得ることである。

とくに神経性過食症ではかなりの食費がかかるため、過食代を親に出してもらうか自分で出すかによって、症状の意味が違ってくる。

親から出してもらっていながら、親への不満を言葉で言えないために「怒り食い」「怒り吐き」のようになっている人もいる。親のお金を食べて吐くことに使いながら、親のお金で治療を受け、親との関係について話をしても、治療効果は限定的だろう。

症状を自分のものとしてみずから責任をもつためには、少なくとも部分的には、自分で得た収入を「症状代」や治療費にあてるほうがよい。

症状が激しいときに完全に自活できる人は少ないが、部分的にでも自分で負担できることは、本人の自信になり、親に対して意見を言いやすくなる。

西園. 摂食障害と就労−働くことの意味と課題. こころの臨床 225(9): 37-41. 2022

 

摂食障害の不安に向きあう(現在は創元社こころ文庫から発売されています)では、過食費や治療費は親が支出すると書いてあり、私も一時期は、その方針にならって対人関係療法による過食症の治療を行っていたことがありました。

 

しかし上記で指摘されているように、過食症状を支える過食費の支出を親が行い、同時に、過食症の治療費も親が支払うという矛盾した状態では、役割をめぐる不和の解消が困難であるケースがほとんどであったため、現在ではこのやり方は行っていません。

 

学生さんの場合は、お小遣いの額について両親と相談した上で、過食費と治療費を区別する意味を明確にしています。

 

他者と接するということ

そしてもちろん、働くことには収入を得る以外の意味もある。

生活リズムが整うことだけでなく、家族以外の人との接点ができ、居場所ができるという社会的意義は非常に大きい。

学校を卒業したり中退した後、仕事をしていない人は社会との接点が乏しくなる。家族としか会話せず、その家族から否定的なことを言われ続けると自己評価は下がる一方である。

職場でさまざまなタイプの人に接すると、自分が人の役に立てることを発見する場面が必ずある。回復途上の就労の意義としてはこれが最も大きいと言っても過言ではない。

(中略)

こうしたことは、「すべて自分のコントロールどおり」の世界にとどまりがちな摂食障害の当事者にとっては大きな体験となる。

西園. 摂食障害と就労−働くことの意味と課題. こころの臨床 225(9): 37-41. 2022

 

摂食障害から回復するための8つの秘訣』の【秘訣7 摂食障害にではなく人々に助けを求めよう】にもあるように、「周りの人だけを頼りすぎるのではなく、同時に自分自身を頼る方法をも身につける必要がある」のです。

 

近しい人がかかわると「人の心の仕組みと動き方を知る」というメンタライジング能力は低下します。

近しい人との関わりの中では、ちょっとした見解の齟齬によって怒りが爆発することに加えて、第三者をメンタライズすることも難しくなってしまうのです。

 

そのことに関連して、以下のような報告があります。

 

神経性過食症の場合、社会的引きこもり状態では症状が再燃し、歯止めを掛けにくくなる。

Clausenの研究では、神経性過食症でまず改善しやすい症状は過食嘔吐とされているが、いったんこれらが改善して社会復帰しても、そこでの挫折により再び過食嘔吐が増悪するケースも少なくない。

社会復帰ができる程度の症状の改善がまず必要だが、その後は社会生活のなかで、どの程度安定して過ごせるかが重要になる。

(中略)

Reissらは、神経性過食症経験者のその後の社会適応の諸形態について報告している。
対象となったのは、初診時に平均罹病期間が5.7年の成人例で、これをさらに5年間観察した。

(中略)

予後良好群の16人は全員、友人に会うなどの社会生活の機会が充分あり、そのことに満足していたが、予後不良群のうち5人は友人関係が充実していないことに対して非常に不満を抱いていた。

就労中の24人のうち20人は仕事に満足していた、仕事に不満をもつ4人は全員予後不良であった。

仕事に対する不満足と予後不良との関連については、症状があるために仕事ができず不満なのか、あるいはその逆なのか、因果関係は記述されていない。

西園.『摂食障害の精神医学―「心の病気」としての理解と治療』日本評論社

 

上記の引用を読むと、①社会復帰ができる程度の症状の改善、②どの程度安定して過ごせるか(仕事に満足できるかどうか)が重要であり、その根底には、③【秘訣8 人生の意味と目的を見つける】がありそうですよね。

 

院長

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