仕事を休みたい
診断書に関連して、非常に困ることがあるのが、1ヶ月に1回、あるいは久しぶりに受診された患者さんが、来院時に突然「会社に行けずに休んでいるので、休職の診断書を書いてください」とおっしゃる場合です。
受診されていない期間のことを詳しくお聞きするには時間が足りませんし、また、疾病性の評価のために、症状の強度と機能障害の程度をアセスメントする必要があります。
「来週、もう一度いらっしゃっていただいて、その時に検査をして、休職の必要性を考えましょう」とお伝えすると、「診断書は今日はもらえないということですか?!」と不機嫌になってしまわれます。
『休職診断書をめぐるトラブル〜会社指示』で診断書の発行を拒むことができる正当な理由として、以下4つの項目を紹介しました。
- 患者に病名を知らせることが好ましくない時(がん告知が拒否されている場合など)
- 診断書が恐喝や詐欺など不正使用される恐れがある時
- 雇用者や家族など第三者が請求してきた時
- 医学判断が不可能な時
今日診断書を書いてください!
「今日、診断書を書いて欲しい」場合、当日に診断書を発行することが難しいのは、上記の(4)に該当しますよね。
そもそも、「仕事を休みたい」とおっしゃる患者さんは、休職は労働契約違反であり解雇猶予であることをご存じなく、有給休暇と同じような労働者の権利である、と誤解していらっしゃることが多いように思えます。(『休職の意味と課題』参照)
働くことは、多くの場合、被雇用者(労働者)が労務を提供し、雇用主(会社)が賃金を支払うことを軸とした、労働契約によって成り立っています。
この契約において被雇用者には自己保健義務があり、労働契約に基づいて労務提供できるように、心身を健康に維持することが求められています。
(中略)
そこで、心身の不調を抱える労働者が、治療や休養に専念して不調を回復し、再び働けるようになるために、疾病休暇や休職といった制度が設けられています。
つまり、休職とは、再び働くために必要な猶予を与えるものであり、その制度の中で、休職者は回復に努めることが求められているのです。
中村『復職のためのセルフ・トレーニング・ワークブック』金剛出版
労働契約に基づいて、労働力を提供できるように心身を健康に維持しなければならない「自己保健義務」では、休職する場合は、(1)回復に努めること、(2)復職すること、という2つに取り組む義務が生じます。
「会社に行けずに休んでいる」場合、仕事に行こうとしても様々な症状に邪魔されて困っている、などの理由以外にも、やる気が出ない、起床時間に目が覚めない、目は覚めるけど体を動かせない、寝るのが嫌なので昼夜逆転している、などなど、さまざまな理由を訴えられます。
そのような場合、解決志向アプローチのミラクル・クエスチョンを自分に問いかけてみてください。
今晩あなたが眠っている間に、奇跡が起こったと想像してください。
奇跡とはあなたが抱えている問題がすべて解決してしまうというものです。ただ、あなたは、眠っていたので問題が解決していることに気が付きません。
明日の朝、どのような違いがあることで、奇跡が起こって問題が解決したことが分かるでしょうか。
上記のミラクル・クエスチョンに対して、「あぁ、これでまた頑張る力が出てきた」と感じられたらOKです。
理想的な状態と今の状態の違い、そして、理想的な状態になるには具体的に何が必要か?ということがわかったからです。
そうであれば、上記の引用にある「再び働けるようになるために」「回復に努めること」、つまり職場復帰支援プログラム(リワーク)などに取り組むという未来志向の問題解決が見えてくるはずです。
一方、「でも、そんな奇跡なんて起きるはずがない」とか「それでもやっぱり、仕事は向いていない気がする」などの答を出した人もいらっしゃるのではないでしょうか。
「朝、起きることができない」という訴えには、起床困難が回避を支える理由づけ(言い訳)で、疾病利得を得ているものもある、ということですよね。
このような人に対して、「しばらく有給休暇を使って休んでみたらどうですか?」とお伝えすると、「有給(有休)は使いたくありません!休職の診断書が欲しいんです」と拒否されることがほとんどです。
有給休暇(年次有給休暇)は、労働者が人間らしく生きるために、休日以外に権利として有給で休暇をとることができる制度、とされています。
「それでは、休職してリワークでトレーニングしてから復職しましょうか?」と言うと、「しばらく休養したいんです!」とリワークは拒否されます。「では、有給休暇でもいいのではないですか?」と、上の会話が繰り返されることになるわけです。
パーソンズの「病人役割」
- 通常の社会的役割を免除される。
- 病気という現在の状態に関して責任を問われない。
- 回復に向けて努力する義務がある。
- 専門的援助を求め医師に協力する義務がある。
「休職とは、再び働くために必要な猶予を与えるものであり、その制度の中で、休職者は回復に努めることが求められている」ため、通常と異なる健康状態(病気)に対し、一定の権利(社会的義務責任の免除)と義務(回復すること)を与え、役割を転換するというのが「病人役割」です。
そう考えると、起床困難を回避を支える理由づけ(言い訳)として使い疾病利得を得ている方は、権利は主張しても義務は引き受けない、ということになります。
そもそもの労働契約に対して診断書が不正使用されることになるため、診断書の発行を拒むことができる正当な理由の(2)にも該当するということにもなりますよね。
「休職したいから診断書を書いて欲しい」と考えていらっしゃる方は、もう一度、仕事をすることの意味を自分に問い直してくださいね。
院長