摂食障害にではなく人々に助けを求めよう
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「秘訣7」では、周りの人を頼り、また自分を頼ることの大切さと、それが上手にできるようになれば、摂食障害の出る幕がなくなることが書いてあります。
あなたにとって、必要な時に周りの人に助けを求めることがどれだけ大切かということが明らかになってきたでしょうか。
しかし、一方で私たちは、周りの人だけを頼りすぎないようにとも話しています。
(中略)
大切なことは、周りの人を頼りつつ、自分自身をも頼りながら、ちょうど良いバランスを見つけることです。
コスティン・他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
重要な他者とのコミュニケーションを介して摂食障害を治療していく対人関係療法からみると、他者との関係に焦点を当てることが「秘訣7」と最後の方にあることに不思議な感じがするかもしれませんね。
対人関係療法の治療初期からコミュニケーションを勧めると、患者さん自身が、自分の気持ちや相手に対する期待が明らかでなく、さらに、婉曲な表現や間接的な表現になっている自覚が乏しいため、何を言ってもわかってもらえた感がないことに加えて、承認不満や怒りを感じて、それをサポーターにぶつけ、逆にそのことがきっかけとなり過食や過食嘔吐が増えることが多いのです。
また周囲の人も、毎回患者さんと衝突するのを避けるため、患者さんに気を遣って言いたいことを先回りして理解してあげたり、逆に、患者さんの言いなりになって隷属してしまったりで、患者さん自身が「自分自身をふり返る」機会がますます失われてしまいます。
過食症に対する対人関係療法と認知行動療法の比較研究を行ったフェアバーンの報告の中に、フェアバーンが患者さんの振る舞い方を指摘する場面があります。
指摘されたことで患者さんは、自分の振る舞いを自覚することができ、相手の反応は自分の振る舞いを反映していることに気がついたんですね。
周りの人に助けを求めることは簡単だと思っていましたが、「彼ら」の側の対応がどこか間違っているといつも考えていました。
でもそのうち、周りの人に頼りすぎて、自分自身と向き合うことを避けている「私」に気がつきました。
(中略)
不幸にして、私は多くを求めすぎ、支えようとしてくれる人たちを疲れさせたあげく、常時気にかけてくれていてくれないからといって、その人たちにたいして怒りをも感じていました。
(中略)
皮肉にも、愛情を受け取りつつ、みんなを遠くに押しやらないでいられるただひとつの方法は、周りの人たちだけでなく、同時に自分自身をも頼れるようになるということでした。
周りの人に何もかもを頼りきっていた頃は、そもそも無理な期待をしていたので、必ず失望していました。
今は、他の人を頼り、自分自身をも頼って、健康なバランスを維持しています。
コスティン・他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
「自分の性格を知り受け容れる」こととも関係していて、クロニンジャーの「自己志向性」の3つの要素のうち「人や境遇のせいにすることがない」、つまり「自分の行動や選択に自覚と責任をもつ」「自己受容」なのです。
自分自身に助けを求めるということは、あなたの中の健康な部分が他の人に言葉をかけ、励まし、安心させてあげるように、あなた自身に対しても、その同じ方法を用いる、ということなのです。
コスティン・他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
自分自身との折り合いと対人関係はフラクタル(相似)な関係にあるのです。
食べ物で自分を麻痺させるのではなく、自分の気持ちに注意してはっきりつかめるようになる、つまり自分自身との関係を改善し、他人との関係を改善できれば、ネガティブな気持ちをコントロールするために食べ物を利用しなくてすむようになるでしょう。
自分の気持ちがうまく扱え、他人との関係もうまくいくようになるほど、過食はへっていくでしょう。
ウィルフリィ『グループ対人関係療法』創元社
ということですよね。
肌寒さを感じるようになってくると過食が増えてきます。
過食のスイッチが入ったときに何を考えているのか、摂食障害の声があなたに何と言っているのか、ちょっとだけ自分自身の内側をふり返って対話してみると、対人関係療法による治療も進みやすいですよ。
院長