大切な相手に病気のことを伝える
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』には、「秘訣7 摂食障害ではなく人々に助けを求めよう」がありますが、さまざまな理由で他者に話すことが困難と感じられることがあります。
◎助けを求めたくない
周りの人に助けをもとめることがなぜこれほど大変なのかということについては、すでにいろいろ考えてみたかもしれません。
私たちも、長年の治療経験の中でクライエントさんたちの理由を数えきれないほど聞いてきました。以下にいくつか紹介しましょう。
と、他者に病気のことを話すことを躊躇う理由が列挙してありますので、一緒にみてみましょう。
1.どれほど助けを必要としているかを周囲に知られたくない。
2.助けてもらいたいと思っていることが恥ずかしい。
3.困ったことになったと気がついたときには、手遅れになっている。
4.何と言って助けを求めたらよいのかわからない。
5.誰かに話して何の薬に立つのかがわからない。
6.電話をかけられる人がいない。
7.助けを求めても、求められた人は何と言ってよいかわからないと思う。
8.これまで誰も助けてくれなかった。
9.周りの人の重荷になりたくない。
10.いつでもその人がいてくれるとはかぎらないので、頼るのが怖い。
11.摂食障害行動をやめたいと本当に思っているのかどうかが、自分でもわからない。
12.助けを求めてみて効果がなかったらもっと嫌な気持ちになりそう。
13.試したけど、うまくいかなかった。
14.自分だけでできるはず。
コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
『8つの秘訣』に挙げられている理由は、どれも皆さん、思い当たることばかりだと思います。
では、人に話す・助けを求めることをやりたくないときは、どうしたらいいのでしょう?
私の治療は、まず大切な相手に自分が病気であることをきちんと打ち明けることから始まります。
(中略)
私は対人関係療法を行いますので、「重要な他者」の協力が得られないと治療ができません。
また、「叱られるから」「管理されるから」「心配されるから」「嫌われるから」「軽蔑されるから」と言う理由で相手に肝心なことが話せないという行動パターン(「心配性」によるパターン)を扱うことが治療の中心になります。
ですから、治療の第一歩として、必ず「重要な他者」に病気のことを伝えてもらいます。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店
伝えるか/伝えないかなど、「することモード」が問題なのではなく、内面に目を向け「伝える」という行動を邪魔している考えは何か?を知る「あることモード」のプロセスこそが重要なのです。
『8つの秘訣』にも「その意味を理解した上で行動できなければ効果は上がりません。」とあるように、「伝える」ことの意味を理解した上で「伝え」ないと効果が上がらないのです。
まず自分自身を観察して、表面に浮かぶ「叱られる」「管理される」「心配される」「嫌われる」「軽蔑される」という考えの裏にあって、それを支えている「思考を現実と思ってしまう心の働き(脳内劇場)」を見つける「自己対話」のプロセスが大切です。
自分が思い描く自己イメージは憧れや怖れの対象を投影した空想や結論に彩られていて、それは必ずしも事実とは限らず、長年にわたって自分や他者から受け入れてきた単なる意見や評価に過ぎない(これが「自尊心」の正体です)のだと気づく必要があります。
このような脳内劇場を同定できたら、バイロン・ケイティの4つの質問「ザ・ワーク」を使って、その思考が現実ではないことを理解・納得するプロセスが必要なのです。
たとえば「叱られるから」「管理されるから」「心配されるから」「嫌われるから」「軽蔑されるから」という内面の声(考え)が、摂食障害の考えであれば、健康な部分を使って摂食障害の部分と対話してみることになります。
秘訣2で紹介した対話法を使って、あなたの中の健康な部分と摂食障害の部分に対話をさせると、回復への過程で自分の心と向き合うことができるようになり、自分自身を頼れるようになります。
しかし対話をするたびに、どうも摂食障害の部分が必ず勝ち、健康な部分が小さくなって何と反論してよいのかわからなくなっているようでしたら、いよいよ他の誰かに助けを求める時期だと思いましょう。
コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
『8つの秘訣』にも書いてあるように、「大切なことは、周りの人を頼りつつ、自分自身をも頼りながら、ちょうど良いバランスを見つけることです。」
そのために、苦痛に満ちた感覚や不愉快な思考や感情、自己概念そのものは自分とイコールな存在ではなく、空に浮かぶ雲や心のさざ波にすぎないことが体感的に理解できれば、そこが愛着(アタッチメント)でいう安全基地(セキュア・ベース)となって自分自身に思いやりを向けることができるようになります。
ですから、自分自身を観察する自己の視点を育むことが何よりも大切なのですよね。
院長