対人関係療法による摂食障害の治療〜過食症〜
対人関係療法による摂食障害の治療は、国際的ガイドラインにも位置づけられている「神経性大食症(過食・過食嘔吐):BN」「むちゃ食い障害:BED」「非定型神経性大食症」「過食症スペクトラム障害」に対して行われます。
2004年に公開されたイギリスのNICE(National Institute for Clinical Excellence:国立医療技術評価機構)ガイドラインには、神経性大食症(過食症)の治療には、認知行動療法の代わりに対人関係療法を用いてもよいが、8〜12ヵ月かかることを知らせる必要がある。と書いてあります。
もともと、フェアバーンらのマニュアル(1997)では全19回だったので、NICEガイドラインはそれを踏襲したものと思われますが、2009年の水島広子先生作成の「神経性大食症用対人関係療法マニュアル日本語版」、あるいはデビー・ウェイトらの修正版(IPT-BN(m):2011)では他に合併症がない場合は、16回での治療がスタンダードになっています。
摂食障害のガイドラインでは、日本摂食障害学会が刊行した『摂食障害治療ガイドライン(2012)』が世界的にも、一番新しい知見を盛り込んでいますよね。
さて過食症に対する日本版の対人関係療法マニュアルは、2008〜2009年に行われたパイロット研究(厚生労働省科学研究)で、水島広子先生が報告されているように、神経性大食症に対する短期治療(16回)による寛解率が国際水準とほぼ同じであること、併存する気分障害や不安障害に対しても良好な影響を与えることが示されています。
これから5回にわけて、神経性大食症(過食・過食嘔吐)に対する対人関係療法による実際の治療の進め方について解説をしていきますね。
ちなみに。過食嘔吐があるから、過食症というのではなく、拒食症の場合もあるわけですから、その説明については、「過食嘔吐」をともなう摂食障害を読んで下さいね。
そもそも。
対人関係療法というと、「対人関係が苦手な性格を変えたい」「対人関係に問題があるので、なんとかしたい」ということで治療を申し込まれる方がいらっしゃいます。
あるいは医療関係者であっても、対人関係療法は摂食障害の原因を対人関係の困難にあると言っているとか、対人関係療法は心の中の考え方や悩み方を身につけていくなど、トンデモナイ曲解をされていることがよくあります。
精神的障害は、その原因がどれほど多元的であっても、通常は対人関係的な文脈のなかで起こりますよね。
発症や症状の経過は、患者と「重要な他者(家族や恋人、友人など)」との間の対人関係から影響を受けますし、また、症状が対人関係に影響を与えますよね。
たとえば。
風邪をひいた時のことを考えてみて下さい。
風邪そのものは、ウイルスが体内に入って炎症を起こしているという事象にしかすぎないんですけれども、風邪という疾患が存在することによって、まわりの人は手厚く看護してくれるかもしれませんし、風邪をうつさないように気をつかうということも起きますよね。
これが「対人関係的な文脈」ということなんですよ。
このような根拠にもとづき、対人関係療法は、
・重要な他者との現在の関係に焦点を当て、
・症状と対人関係問題との関係を学び、
・対人関係問題に対処する方法を学ぶことによって、
・結果として症状に対処出来るようになること
を目指します。
たとえば。
神経性大食症(過食・過食嘔吐)のある患者さんたちは、むしろ、対人関係に問題を起こさないようにして、気持ちを抱え込んで生きてきた人たちなのですよね。
水島先生はおっしゃいます。
これはイヤだな、と思ったときに、それを相手に伝えて変えてもらう、というようなことが苦手だと思いますが、その結果として、自分だけに負担を抱え込んできたのだと思います。
この治療では、自分だけがストレスを抱え込まないように、かつ、相手もイヤな気分にさせないように、という方法を、一緒に工夫していきたいと思います。
こういう、トラブルにならない言い方を知るということも、対人関係療法で目指していくことですよね。
次回は、初診(インテーク)面接について書きますね。
院長