対人関係療法による摂食障害の治療〜初診(インテイク)面接
対人関係療法のマニュアルでは、インテイク面接(初診時の診断面接)では、「神経性大食症(過食症)」に対して長期的なエビデンスがある対人関係療法と認知行動療法について説明する事になっています。
対人関係療法は認知行動療法と異なり、
・食症状に焦点を当てないこと(過食はストレスマーカーと認識し、コントロールの対象としない)
・対人関係療法では過食がなくなることを目指さないこと
を説明していますよね。
マニュアルでは、患者教育用の本(『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』など)を読んだ上で、この治療を受けたいと感じたら連絡をするようにと伝える事になっています。
このプロセスが心理療育と治療の焦点化につながるのですよね。
実際は、三田こころの健康クリニックに連絡をいただいた神経性大食症(過食症)の人たちは、水島先生の本を読み対人関係療法を知った上で、あるいは水島先生のクリニックからの紹介で対人関係療法による治療を希望されていますから、マニュアル通りではないケースも多々ありますよね。
そのため、三田こころの健康クリニックでの初診(インテーク面接)では、診療申し込みに記入していただいた病歴を補足質問し、心理テストを行っていますよね。
そもそも。
摂食障害の初診時には
を聴取することになっています。
さらに、身体面・精神面・食行動のアセスメントを行い、診断のための構造化面接と対人関係療法の説明で、60分はゆうに越えてしまうこともしばしばですよね。
診療申し込み票に記入していただくことで、摂食障害の発症と持続についてのある程度の「診立て(フォーミュレーション)」が出来るんですよ。
もちろん摂食障害という疾患があっても、対人関係療法の適応にならない場合がありますよね。
入院治療を含む身体治療を検討する目安としては、
①極端なるいそう(やせのこと):以下のいずれか
・BMIが14kg/m3以下
・標準体重の65%以下(例えば160cmで36kg以下)
・身長にかかわらず体重が30kg以下
②最近の低血糖発作
③歩行障害
④重度の低血圧・徐脈(収縮期血圧が80mmHg以下、脈拍が50/分以下)
となっています。
たとえば標準体重の75%以下になると入院治療が必要な身体合併症の頻度が高まりますし、標準体重の65%以下では、入院の上、厳重な栄養管理が必要になるということです。
三田こころの健康クリニックでは上記の日本摂食障害学会のガイドラインを参照し、標準体重の70%(−30%)を、対人関係療法という外来での通院精神療法に取り組める目安としています。
摂食障害の発症と維持に対人関係問題が強く関わっている場合は、対人関係療法による摂食障害の治療が適応になりますが、「過食」の症状があっても、摂食障害と診断されない場合もあり、なかには、思い込み(…にちがいない:空想と現実の認知フュージョン)、こだわり(…ねばならない:強迫症状)、回避傾向が強い場合は対人関係療法による治療は向いていないといわれています。
対人関係療法より他の治療が向いていると思われる人たちにも、この病気の難しさと、それでも治療に取り組むことで改善できるという希望を伝え、初診であっても、少しでも改善を感じていただくために
症状で対処しなくても済むような出来そうなところを見つける
患者さん自身がモニタリング出来るように促す
患者さんの文脈に添った治療目標を設定する
ということを、初診時に仮フォーミュレーションとして行っていますよね。
この「フォーミュレーション(定式化・概念化)」は対人関係用法のキモともいうべき部分で、
準備因子:もともとどんな人だったか(愛着(アタッチメント)スタイル、コミュニケーションスタイル)
誘発因子:発症のきっかけの出来事と対人関係の変化
持続因子:慢性化にかかわっている非適応的なパターン
を一緒に考えながら、出来事をどう体験したのかということで位置づけていきます。
フォーミュレーションを行うためには、「なにがどうなっているのか」「これはこういった意味だろうか」ということを具体的に丁寧になぞっていく作業を行っていくので、診療申し込みの電話の時点から治療がスタートしていると言っても過言ではないですよね。
次回は対人関係療法の治療導入について書きますね。
院長