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体型の確認を手放すことと摂食障害からの回復

[2020.01.27]

第22回日本摂食障害学術集会で、西園先生が「摂食障害当事者の仕事体験と就労支援〜実態調査の結果から〜」というシンポジウムを主催されました。

 

その中で、摂食障害の当事者は、職場でさまざまな問題を抱え、人と一緒に昼食を摂れない、おやつが苦痛なので離職している人も少なくないこと、摂食障害について周囲に話したことで不利益を被っている人も見られたことを述べられました。

 

摂食障害はうつ病・うつ状態や適応障害と違って、休職したり休学したりあるいは離職したりして環境から離れたら改善するわけではなく、逆に1日中、過食や過食嘔吐を繰り返してしまいます。

 

HALT(ハルト)の(何もすることがない/孤独感)が「体型や体重あるいは食べ物のことに没頭」するトリガーの1つになることが、摂食障害治療で職場復帰を考える上で難しい点でもあるのです。

 

多くの施設で行われているような、うつ病に特化した職場復帰支援プログラム(リワーク)に通って孤独感を低減させようとしても、摂食障害を抱える人にとってはプログラムの内容がピンとこないだけでなく、逆に、「自分は他の利用者と違う」という孤独感(HALTのL)を増強させてしまうことにもなってしまいます。

 

ジェニーさんは、摂食障害のグループセラピーについて、心の中で起きていたことを見事に描写してくれています。

 

摂食障害のグループセラピーの仲間たちからの助けほど、私にとって力強いものはありません。

しかし、彼女たち一人ひとりの中に感じる競争心は、とても独特なものです。

お互い比べ合って、競い合っているのは、誰が他の人を一番助けられるかでも、誰が一番回復しているかでも、誰が一番きれいかでもありません。

この競争で高得点を取るのは、食べた量が一番少なかった人、一番長い間拒食していた人、そして一番体重が減った人なのです。ついでに、体重計の数値が一番小さかった人にはボーナス得点が贈られます。

(中略)

今では、この競争というものは、グループの参加者と私との間の競争なのではなくて、それぞれのエド同士の競争なのだということがわかるようになりました。

(中略)

エドは、誰の腕が一番細いか、誰の服のサイズが一番小さいか、誰が一番少ししか食べなかったかを見極めるのに余念がありませんでした。もちろん、エドはこと細かにその情報を私に伝えてきます。

でも私は、そんなことに気を配っている余裕なんてありません。

人生の中でもっと大事なこと、笑うこと、人の話を聞くこと、そして自分の人生を生きること、に集中したいと思うのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害思考(エド)がそそのかす「体型や体重あるいは食べ物のことに没頭」することのうち大きな問題になるのは、「体型/身体の確認」や「他者との比較」です。

 

ジェニーさんも鏡に映る自分の姿を、摂食障害思考(エド)がどのように情報操作をして、歪んだ姿を見せていたのかを書いていますよね。

 

タッカー先生を信頼しようと決めたからと言って、鏡を見たときに、「ジェニー、あなたはとても痩せているわ」とは自分ではとても思えません。

どの鏡の中にもエドが隠れていて、私の皮下脂肪や贅肉について、ことごとく指摘してくるのです。

そして、もちろん身体中にお肉がたくさんついているかのような錯覚にもしょっちゅう襲われます。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

「どんな時に体型/身体を確認したくなるのか?」、「鏡を見て何を見つけようとしているのか?」、「実際にそれを見つけることができるのか?」、「ネガティブな自己評価を始める危険はないのか?」などを自分に問いかけてみてくださいね。

 

こころの健康クリニックの対人関係療法の中で教えているように、視覚情報は容易に思考や解釈の影響を受けてしまいます。

それだけでなく、その解釈や思考を拡大し、それが現実だと思い込み、とらわれてしまいますよね。

つまり、鏡をどんな目的で使うかによって、私たちが鏡の中に見出すものは大きく変わってくるのです。

 

たとえば、念入りに体型/身体を確認することによって、摂食障害の人たちは鏡に映る自分の姿の中に不満を見出し、摂食障害行動を維持することにつながっているのです。

 

ジェニーさんは鏡との向き合い方で、自分が解釈した姿よりも、タッカー先生の意見を信じようとしていますよね。

 

でも、エドのコメントよりもタッカー先生の意見を信頼するのと同じように、私は自分の目に見える私自身の姿よりも、タッカー先生の方を信頼しようと思っています。

それは私には、まだ鏡の中に映る体型が歪んで見えているということだからです。

たとえ贅肉がついているように見えたとしても、本当は太っていないとわかるようになったのです。 

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは、鏡の中に映る体型に贅肉がついているように見えたとしても、それは「頭の中の考え(解釈)」であって、「現実とは違う(本当は太っているわけではない)」ことがわかるようになりました。

 

ジェニーさんが取ったタッカー先生の意見を信頼すると言うやり方は、『摂食障害と気分変調症の脳内劇場からの抜け出し方』で書いた「他者の立場で感じてみる方法」に近いですよね。

 

みなさんもこうやって、「自分の考えを吟味する」方法に取り組んでみて、過食や過食嘔吐からの回復の道を歩き始めてくださいね。

 

院長

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