摂食障害からの回復を妨げていること2
こんにちは。
こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタです。
前回の『摂食障害からの回復を妨げていること』では、摂食障害からの回復を妨げているものとして食事制限についてお話しました。
お読みいただいた方々はどのように感じられたでしょうか。
実は、食事制限についてお伝えすることは、すごく躊躇した部分もありました。
今回のブログの前半では私のそのような気持ちについて振り返りながら、回復を妨げていることとの向き合い方についてお話してみたいと思います。
後半は食事制限についての取り組みの一例をお伝えします。
躊躇していたときの私の頭の中では、このような考えがありました。
「ブログを読まれた方が、そんなことできないと思い、できない自分を責めてしまうかもしれない。怒りを感じる方もいらっしゃるかもしれない。あるいは、食べなければならないという“べき思考”で苦しくなってしまう方もいらっしゃるかもしれない。。。」
受診相談で食事をバランスよく摂ることの必要性についてお話ししたときに、「それができていたら治ってるのではないんですか?」とおっしゃった方が少なからずいらっしゃいました。その言葉を聞いたときに、やはり「無茶なことを言っているのだろうか?」と思ったこともあります。
「治療を受けるためには栄養状態が改善している必要があります」とお伝えするたびに、がっかりされる声を聞いて、「いっそのこと食事制限しているままでも治療を始めてしまってもいいのではないか」思ったこともあります。
摂食障害の治療をお引き受けできない申し訳なさや、食事を摂ることの不安に向き合うよう伝える心苦しさから、私自身が逃れたくなっていたのです。
それでもお伝えすることにしたのは、一時的な(不安定な)安心感に留まっていては、皆さんが摂食障害から回復することをサポートするガイド役は務まらないと思ったからです。
私たちが生きていくことは、いつも心地よいことばかりではありません。
自分の大切にしたいことのために何かをあきらめないといけないこともあります。
自分の目標のために、一時的につらいことに向き合わなければならないときも訪れます。
「回復を妨げるものに取り組む」ということは、変化しないことで得られる安心感を手放し、一時的に感じる「なるべく避けたい感情」と向きあって、それを引き受けるということなのだと思います。
摂食障害から回復した後も、自分自身の人生を歩んでいくことになります。
「自分の人生の価値や目的に沿った生き方(ライフゴール)」のために、苦難を乗り越えるスキルを身に着けておくことで、再び摂食障害の力を借りずに済むのです。
「回復を妨げているものに取り組む」ということは、そのスキルを身に着ける最初の一歩なのかもしれません。
私が食事制限についてお伝えする決心ができたのは、「摂食障害からの回復を目指している方々のガイドを務めたい」というライフゴールのための行動だと思えたからなのです。
ここからは食事制限という回復を妨げている行動に変化を起こすことについて、例を挙げながら少し具体的にお伝えしたいと思います。
食事制限をやめられない方は、どんなに説明を受けても「食べたら太る」という考えを手放せないかもしれません。
あるいは、頭で理解できて「普通の食事を摂れるようになれたらどんなに楽か」と思う一方で、「やはり普通に食べたら太るのではないか」という考えは消えないかもしれません。
食事制限せずに食事を摂ることは、とてつもなく大変なことに取り組むイメージなのだろうと思います。
「考え」と「イメージ」。。。
乱れた食行動に苦しんでいる方々に限らず、人は自分の考えやイメージに影響を受けます。
考えやイメージを。「本当のことのように(現実に起こっているかののように)」思い込んでしまうことがあるのです。
「食事をとることはとてつもなく大変なことだ」というイメージのままでは、変化を起こすことはとても難しく感じられることと思います。
ではどうすればいいのでしょう。
まずは自分の現在の状況を客観的に見て、何が起こっているのか気づくことが必要です。
そのうえで変化を起こすために具体的に何が必要か、何ができそうか考え、少しずつ行動に移していきます。
ここで、受診相談でとてもよく聞かれるケースを振り返ってみたいと思います。
昨日の夜に過食嘔吐したから、朝は食べられないという方々のケースです。
そして、昼ご飯は普通に食べるけど、夜は食べ始めると食べ過ぎてしまって過食嘔吐になってしまうといいます。
そして翌朝はまた食べられない。。。
こういった方々の場合、夕飯を食べているように見えますが、食べ始めると過食嘔吐に転じてしまっていますので、きちんとした食事が摂れているのはお昼だけです。
「過食嘔吐をしたら次の食事は抜かなければならない」とか、「翌日は絶食しなければならない」と思ってしまう人が多いようですが、これでは前回のブログでお伝えした飢餓過食につながってしまいます。
では、変化を起こすためにはどうすればよいのでしょうか。
基本的なポイントは二つあります。
一つ目は朝食をとること。
朝食を摂ることで空腹になる時間を減らし、飢餓状態を作らないことを目指します。
そしてもう一つは食事と過食嘔吐を区別すること。
食事は一食分を用意して一旦ごちそうさまをします。
食事の流れで過食をするのではなく、ごちそうさまの後に時間を空けてどうしても過食したければする。
こうして食事をきちんと摂ることで飢餓状態を作らないことを目指します。
こうした取り組みは、実際の治療にとても役に立つことになります。どのように役立つかはまた改めてお伝えしますね。
このポイントに取り組んで飢餓過食がなくなってくると、過食の頻度や量が減っていきます。
中には通院が始まって数か月間症状が出なかった方もいらっしゃいます。
ここまで栄養状態の改善について一つの例をお示ししながらお伝えしてきましたが、中には栄養指導が必要な方もいらっしゃいます。
ご自分で取り組むことが難しいと感じられる場合は、栄養指導をされている医療機関に相談してみることも一つの方法かもしれません。
いかがでしょうか。
このように自分の状況についての気づきが、変化を起こすことにつながります。
今回取り上げたケースは一つの例であり、どの方にも当てはまるものではありません。それぞれの方で状況が違いますから取り組み方も違ってきます。
皆さんはご自分の食生活を振り返って何か気づきがあったでしょうか?
なかなか気づきが見つからない方もいらっしゃるかもしれません。
自分のことはかなり意識しないと気づきにくいものです。
「変化を起こしたほうがよさそうだと思うけど、自分の状態のどこから変えていけばいいかわからない」という方は、一度受診相談に申し込んでみてくださいね。
以下、院長から摂食障害協会からの案内の転送です。
【オンライン講座】新・家族ができる神経性やせ症の食事支援/90分ダイジェスト版2020年の開催時に多くのご家族や専門家から大変ご好評をいただきました「家族ができる神経性やせ症の食事支援」が、90分のダイジェスト版として戻ってまいりました。前回取り上げたテーマの中でも特に反響の大きかった、「摂食障害を抱える人はどのように病気を体験しているのか」「病気や回復について、家族はどのように患者と話せばいいのか」「家族ができる食事場面の工夫にはどのようなものがあるか」という3つのポイントについて、摂食障害の治療に長年関わってきた管理栄養士の染原風生と心理士の荻原かおりがお話しします。
▼講義(ライブ配信)2023年4月23日(日)13:00~14:30※講義録画は、準備が出来次第、アーカイヴ配信します。▼料金3,000円(税込)▼本講座の対象摂食障害の方を支えるご家族、摂食障害治療にかかわる専門職の方▼講師染原風生(DDD Centre for Recovery 代表、ダンサー・アスリート専門管理栄養士、摂食障害治療専門管理栄養士 https://dddcfr.com.au/)荻原かおり(東京インターナショナルサイコセラピー・二子玉川オフィス、臨床心理士、公認心理師 https://www.tip-nikotama.com)