休職・復職とリワークプログラム
「定時起床(勤怠)」「疲労回復(安全)」「集中力の持続(パフォーマンス)」が遂行できず、給与に見合った労働力を提供できない状態は「事例性」と呼ばれます。
「事例性」とは、普段どおり働けないことで、職場での休職判断についても事例性を中心とした検討となります。
「事例性」の背景に、メンタルヘルス不調が疑われた場合は、医療機関への受診を勧められますよね。
精神科や心療内科などの医療機関やメンタルクリニックでは、診断というプロセスで精神科疾患による病状(疾病性)を明らかにしていきます。
職場の考える休業が必要な状態として、他人に迷惑をかける行動を認めるなど身体的・精神的症状が重篤で業務遂行に困難を認める状態、業務への意欲がみられない状態、服薬遵守など病気の自己管理ができない状態、などが挙げられる。
それを避けるための労働者に対する保健指導として、病気を正しく理解し服薬遵守性を向上するよう指導し、眠気や過鎮静の少ない薬剤選択などを主治医に相談させることなどがなされていることが多い。
井上. 産業現場に対し精神科主治医ができること、できないこと. 精神神経学雑誌 116: 697-701, 2014
「疾病性」が明らかになると、メンタルヘルス不調を引き起こした精神科疾患の「作業関連性」を明らかにする必要があります。
例えば、「作業上疾病」の可能性が乏しい気分障害(うつ病や双極性障害)などの「内因性精神疾患」、つまり「私傷病」と考えられる場合は、職場は基本的には傷病手当金申請など、労働契約(就業規則)に応じた対応を取ることになります。(『生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)』参照)
生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)
「私傷病」であっても、職場は増悪防止のための「安全配慮義務」や「配転可能性」、障害者雇用促進法に基づく「合理的配慮」の提供義務を果たす必要があります。
さらに、上記の対応を行っても十分に労務を提供できない場合には、降格、減給、懲戒などの不利益措置も可能、とされています。(三柴. メンタルヘルス問題に法はどうかかわっていくか. 安全と健康 14: 73-77, 2013)
一方、「業務上疾病(労災)」の可能性がある場合は、労働協定(就業規則)を超えて、基本的に本人の希望を重視した最大限の配慮が行われることになっています。
「業務上疾病(労災)」で業務遂行困難の場合は、軽減業務や休業措置(休業補償も必要)が十分なされるべきであり、労働基準法では、解雇や退職勧告などの措置は原則的に不可とされています。
「業務上疾病(労災)」と認定されていない場合でも、その可能性が高い場合(80~100時間/月を超える残業やハラスメント)や、反応性うつ病や適応障害、PTSDなど「作業関連性」が疑わしい「心因性精神疾患」の場合も、「業務上疾病(労災)」に準じた対応が望まれます。(田中. 精神科医による職域メンタルヘルス活動-知っておきたい法務と対応の型-. 精神神経学雑誌 117: 788-795, 2015)
いずれにしても、労働者が休職を余儀なくされると、経済的な面でさまざまな補償が行われますが、収入面での不安は拭えません。
休職は会社にとってもダメージがあります。
メンタルヘルスに限らず労働者が病気になると、どのような職務配慮が必要なのか、減少する労働力をいかに補うのかなどを考える必要が生じる。
(中略)
メンタルヘルス対策は労働者の健康保持など安全配慮義務的観点と、企業の危機管理(註:会社に損失を与えないようにする)の両面から重要なのである。
井上. 産業現場に対し精神科主治医ができること、できないこと. 精神神経学雑誌 116: 697-701, 2014
そのため、休職者に対しては、できるだけ早期に「疾病性の改善」と再発防止策を講じて、復職のプロセスを進める必要があります。
リワークを行っていない医療機関では、復職可能の判断には以下の3点が必要と考えられています。
①医学的側面(就業に耐える状態、治癒している必要はない)
②本人の側面(職場復帰の意思がありかつ準備が整っている)
③職場の側面(職場復帰を支援する準備が整っている)
企業によっては短縮勤務期間などの軽減の設定があることもありますが、就業に耐えられる状態の目安として、所定労働時間(一般的には1日8時間)は職場に滞在し続けられる必要があるとされます。
しかし、「休業によるAbsenteeism(アブセンティズム:休業による労働力損失、企業コスト)以上にPresenteeism(プレゼンティーズム:就業しているが労働力が十分に発揮できない状態での損失、企業コスト)のほうが大きい」という報告もあります。(髙野. 休復職者の現状と実践的な対策. 精神神経学雑誌 123: 87-93, 2021)
症状を完全になくすこと(疾病性の消失)が重要ではなく、症状が存在(疾病性の改善)しても事例性がなければそれを受容していく(症状の回復≠業務遂行能力の回復)という視点で「事例性」を中心に就労継続を検討すると、「職場復帰支援プログラム(リワーク)」での心理社会的治療が必須と考えられます。
実際、リワークプログラムを利用せずに復職した労働者は、リワークプログラム利用者と比較して再発・再休職のリスクが2〜6倍高い、というデータもあります。(大木. リワークプログラム利用者の復職後の就労継続性に関する効果研究. 産業保健 20: 4, 2012)
医療機関で行われる「職場復帰支援プログラム(リワーク)」は、集中力や作業能力の向上を図る「オフィスワーク(個人作業)」や内省(休職原因の振り返りなど)、グループワークやミーティングなど対人スキルの向上を目指す「集団プログラム」、疾患教育や心理教育などの「教育プログラム」、認知行動療法・SST・アサーションなどの「特定の心理プログラム」、その他、軽スポーツ、筋弛緩法などのリラクセーション、作業療法、芸術療法などからなります。
こころの健康クリニック芝大門のリワークでは、セルフモニタリングやメンタライジングなどの「心理社会的治療」をプログラムの中心にしています。(『生物心理社会モデルで考えるうつ状態の治療とリワーク』参照)
さまざまなうつ病・うつ状態と適応障害の治療とリワーク
その上で、生活リズムを整える社会リズム療法、認知行動療法やメタ認知療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピーなどのセルフケアやストレスコーピング、アサーションや対人関係療法などの対人関係コーピングなど、心との向き合い方を学び、「疾病性」を改善していきます。
それらのスキルを土台にして、休職経緯の振り返りと対処法(コーピング・リスト)を作成し、復職準備性を高めて「事例性の消失」を図り、3ヶ月程度での復職を目指していくのです。
院長