適応反応症(適応障害)と心的外傷後ストレス症
ICD-11 platformの「心的外傷後ストレス症(PTSD)」の鑑別診断に、「適応障害(適応反応症)」が挙げられています。
意外に思われるかもしれませんが、ICD-11での「適応障害(適応反応症)」は、「ストレス因とその結果にひどくとらわれており、過剰な心配や苦痛な思考、その意味についての反芻的思考がみられる。そうした症状はストレス因の想起刺激によって悪化し、結果として回避が生じる」と定義されています。
つまり、「軽度の出来事によってPTSD的な症状が生じた者を適応反応症と診断することを容易にする」のです。(金, ICD-11におけるストレス関連症群と解離症群の診断動向. 精神神経学雑誌 123: 676-683, 2021)
早速、ICD-11 platformで「適応反応症(適応障害)」を読んでみましょう。
6B43 適応障害
説明
適応障害は、特定可能な心理社会的ストレッサーまたは複数のストレッサー(離婚、病気または障害、社会経済的問題、自宅または職場での葛藤など)に対する不適応な反応であり、通常、ストレッサーから1か月以内に現れます。
この障害は、過度の心労、ストレッサーについての再発性および苦痛を伴う考え、またはその影響についての絶え間ない反芻を含む、ストレッサーまたはその結果へのとらわれ、ならびに個人、家族的、社会的、教育的、職業的またはその他の重要な機能分野に重大な障害を引き起こすストレッサーへの適応の失敗によって特徴付けられます。
症状は別の精神障害(例えば、気分障害、特にストレスに関連する別の障害)によってよりよく説明されず、ストレッサーがより長く持続しない限り、通常6ヶ月以内に解決します。
不可欠(必須)な特徴
識別可能な心理社会的ストレッサーまたは複数のストレッサーに対する不適応反応(例えば、単一のストレスの多い出来事、進行中の心理社会的困難、またはストレスの多い生活状況の組み合わせ)は、通常、ストレッサーから1か月以内に現れます。例としては、離婚や人間関係の喪失、仕事の喪失、病気の診断、最近の障害の発症、自宅や職場での葛藤などがあります。
ストレッサーへの反応は、ストレッサーへのとらわれまたはストレッサーについての過度の心配、再発性および苦痛を伴う考え、またはその影響についての絶え間ない反芻を含むその結果によって特徴づけられます。
ストレッサーとその結果が終了すると、症状は6か月以内に解決します。
出来事へのとらわれと反芻思考があり、想起刺激によって過剰な心配や苦痛を引き起こすため回避するようになり、ストレス因に適応できないことが社会的な不利益をもたらす、ことが「適応反応症(適応障害)」の特徴のようです。
では、「適応反応症(適応障害)」は「心的外傷後ストレス症(PTSD)」からどのように鑑別されるのか、について見てみましょう。
「適応反応症(適応障害)」では、ストレッサーはあらゆる重症度、またはあらゆるタイプである可能性があり、必ずしも極端に脅迫的または恐ろしい性質のものである必要はありません。
「心的外傷後ストレス症(PTSD)」の症状要件を満たす、それほど深刻ではないイベントまたは状況への反応は、「適応反応症(適応障害)」と診断する必要があります。
さらに、非常に脅迫的または恐ろしい出来事を経験した多くの人々は、その余波で「心的外傷後ストレス症(PTSD)」ではなく、「適応反応症(適応障害)」を発症します。
ストレッサーの種類だけに基づくのではなく、いずれかの障害の完全な診断要件が満たされているかどうかに基づいて区別する必要があります。
『失恋とPTSD』で書いたように「心的外傷後ストレス症(PTSD)」の症状があったとしても、外傷性イベントの基準を満たさないそれほど深刻ではないイベントまたは状況への反応は、「適応反応症(適応障害)」と診断するということです。
失恋とPTSD
しかしこの場合は、『さまざまなうつ病・うつ状態と適応障害の治療とリワーク』で解説した「反応性の抑うつ状態」や「パーソナリティの偏りに由来する抑うつ状態」ですから、治療ではなく困難状況への取り組みを優先させ、時の流れが癒してくれるのを待つ、あるいは、治療というよりは自分の心とのつきあい方を学ぶ、といった向き合い方が必要になります。
さまざまなうつ病・うつ状態と適応障害の治療とリワーク
一方、命にかかわるような「外傷性イベント」を体験した人も、「心的外傷後ストレス症(PTSD)」ではなく、「適応反応症(適応障害)」を発症することがある、との説明は、6ヶ月を超えない「急性ストレス反応」は「適応反応症(適応障害)」に含めるということのようです。
では逆に、「心的外傷後ストレス症(PTSD)」は「適応反応症(適応障害)」と、どのように鑑別するのかについて見てみましょう。
「適応反応症(適応障害)」では、ストレッサーはあらゆる重症度またはあらゆるタイプである可能性があり、必ずしも極端に脅迫的または恐ろしい性質のものである必要はありません。
「心的外傷後ストレス症(PTSD)」の症状要件を満たしているが、「急性ストレス反応」に適切な期間を超えている、それほど深刻ではないイベントまたは状況への対応は、「適応反応症(適応障害)」と診断する必要があります。
さらに、非常に脅迫的または恐ろしい出来事を経験する多くの人々は、「心的外傷後ストレス症(PTSD)」の完全な診断要件を満たさない症状を発症します。これらの反応は、一般的に「適応反応症(適応障害)」としてよりよく診断されます。
「適応反応症(適応障害)」とほぼ同じような説明ですが、命にかかわるような「外傷性イベント」は「心的外傷後ストレス症(PTSD)」の必要条件ではあるものの十分条件ではなく、不全型の「心的外傷後ストレス症(PTSD)」は「適応反応症(適応障害)」と診断する、と定義されていますね。
『複雑性PTSDと発達障害(神経発達症)特性』で以下の部分を引用しました。
脱出が困難または不可能である極端で長期的または反復的な性質のストレッサーへの曝露の履歴は、それ自体が複雑性PTSDの存在を示すものではありません。多くの人が無秩序を発症することなくそのようなストレッサーを経験します。
虐待があった、外傷性イベントがあった、傷つき体験をしたことが、そのままPTSDや複雑性PTSDの発症につながるのではなく、多くの人は「外傷後ストレス症(PTSD)」を発症しない、つまり「適応反応症(適応障害)」と診断する、ということです。
さらに、「適応反応症(適応障害)」では、「抑うつ症状または不安症状、ならびに衝動的な「外在化」症状、特にタバコ、アルコール、または他の物質の使用の増加が含まれる場合がある」とされています。
子どもや青年はストレスの多い出来事と自分の症状や行動との関係を明確に言葉で表現できない可能性があること、特に子どもでは、体性症状(例えば、腹痛または頭痛)、破壊的または反対の行動、活動亢進、かんしゃく、集中力の問題、過敏性、およびしがみつきの増加、退行、おねしょ、睡眠障害などの症状として現れるとされています。
一方、高齢者では、身体的愁訴へのこだわりが強くなり健康不安により抑うつ的になることが示されています。
これらの症状を説明できる別の精神障害(例:原発性精神障害、気分障害、特にストレスに関連する別の障害、パーソナリティ障害、強迫性障害または関連障害、全般性不安障害、分離不安障害、自閉スペクトラム症)が存在する場合、ストレスの多いライフイベントや状況の変化が症状の悪化につながったとしても、一般的に適応障害の個別の診断は割り当てられるべきではありません。
先行する診断がある場合は「適応反応症(適応障害)」と診断しない、つまり「発達障害(神経発達症)」特性を持った人が、仕事が続けられなくなったとしても「適応反応症(適応障害)」と診断しないということですよね。
院長