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職場や学校での困りごとと発達障害(神経発達症)特性

[2022.10.03]

特集 成人精神疾患の背景に潜む神経発達症のインパクト─いかに見抜き,いかに対応するか─(精神科治療学 37(1), 2022, 星和書店)、この刺激的なタイトルを冠する特集号の中で、「成人うつ病患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─」(栗原, 大江, 渡邊., 精神科治療学 37(1): 35-40. 2022)という論文から引用しながら、「発達障害(神経発達症)特性」の説明をしていきます。

 

この論文では、「発達障害(神経発達症)特性」として、以下の5つが抽出されています。

(1) コミュニケーションや社会性の問題
(2) 想像力の問題
(3) こだわりの強さ
(4) 不注意
(5) 衝動性

栗原, 大江, 渡邊. 成人うつ病患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 41-46. 2022

 

まず、「(1) コミュニケーションや社会性の問題」では、よくある以下の3つの困難がピックアップされています。

・冗談がくみ取れない
・空気が読めない
・話しかけるタイミングがわからない

 

これらの「(1) コミュニケーションや社会性の問題」の困難さに基づいて、実際に生じる問題として、以下が挙げられています。

○ゼミや職場など集団における対人関係トラブル

○部下をもった際に指示を出したり、業務を割り振ったりできない

○わからないことがあっても周りに聞けず、未解決のままにしてしまい手がつけられなくなる

 

他の医療機関で「適応障害」と診断されて、こころの健康クリニック芝大門のリワークに参加した人に比較的多い問題ですよね。

 

次の「(2) 想像力の問題」は、会社員や学生さんを問わず直面する困難のようです。

・イメージを働かせることが苦手
・創造的な課題が苦手でテーマを決めることができない
・計画を立てることができない
・見通しを持つことやペース配分が苦手

 

「(2) 想像力の問題」によって生じる問題としては以下が挙げられています。

○卒業論文の未完成

○マニュアルや規則性のない仕事をこなせない

○キャパシティ以上の課題や業務を詰めこみ破綻する

○期限を守れない

 

休職までには至らない会社員さんや、休学するかどうか迷っている学生さんに多い悩みのようです。WAIS-IVでみると、知覚推理(PRI)の下位項目にばらつきが多いタイプです。

 

学生さんであれば、学生相談室や障害学生支援センター等とつながっていただき、大学生活のサポートをお願いすることが多いのですが、会社員のサポートはなかなか難しいようです。

かといって医療機関を受診しても問題が解決する訳ではないですから、周囲の協力を得ながら地道にセルフケアを続けていく他はなさそうです。

 

次の「(3) こだわりの強さ」による困難も、よく診る内容です。

・新規な作業に慣れることが難しい
・周りに柔軟に合わせることができない

 

「(3) こだわりの強さ」による問題は、複数回の休職歴のある「発達障害(神経発達症)特性」がやや強いグレーゾーンを超える人たちによく診られます。

○業務内容の変化に対応できない

○自分のやり方で推し進めてしまい問題が生じる

○上司の交代(理解者がいなくなる)で体調不良

 

「気分変調症ではないか?」と自己診断をしてこころの健康クリニック芝大門を受診した患者さんの中にも、診断基準を見せて心理テストの結果と照らし合わせながら説明を行っても、こだわりというか思いこみが強すぎて、気分変調症ではないことがどうしても受け入れられない人もいらっしゃいました。

 

「(4) 不注意」による困難さは、多少なりとも多くの人が感じる内容ですね。

・気をつけていてもミスをしてしまう
・大事な点に気づけない

 

会社員では、「(4) 不注意」による問題は、事例性(パフォーマンスの問題)として休職につながってしまうこともあります。

○指示を忘れたり、ミスを重ねたりするため、叱責される

○優先順位をつけられなかったり、ミスを恐れ過剰に時間をかけたりするため、残業が多くなる

 

この「不注意」は、不注意優位型のADHD(注意欠如/多動症)の特徴と考えられがちですが、ASD(自閉スペクトラム症)でもよく認められます。

 

「時間的な見通しの苦手さや、空間的な認識の障害も、この注意の障害から生じている」として、以下のように説明されています。杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房

 

ASD/ADHDは注意の障害がその中心である。この注意の障害の中核は、注意の転導性ではなく、臨床的な視点からみる限り注意のロック機能(sustained attention)の障害と考えられる。

注意の固定が困難で、さらに固定をした時に今度はそれを外すのが難しいという病理がその中心にある。この両者は同時に起きてくるが、前者が優位のものをADHD、後者が優位のものをASDと呼んでいるに過ぎない。

両者とも二つのことが一緒にできないことが最も基本的な臨床上の困難になってくる。ASD/ADHDのパースペクティブの障害も、実はこの二つのことが一緒にできないことから生じる。

一つのことがらに注意が向けられていると、時間的、空間的な他の情報が入らなくなってしまうのである。

杉山. 発達障害の「併存症」. そだちの科学(35); 13-20. 2020.

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークでWAIS-IVを受検してもらうと、ワーキングメモリー(WMI)と処理速度(PSI)が低い人たちが一定数いらっしゃいます。

このような人たちは「やる気が出ない」と訴えられることが多く、気が向かないと仕事に取りかかれないなど、注意の障害(ロック機能の障害)と、同時に二つのことができないマルチタスクの困難として表現されることが多いようです。

 

「(5) 衝動性」に伴う困難として以下が挙げられています。

・思いこみで物事を進めてしまう
・失言をしてしまう
・さまざまな衝動コントロールが難しい

 

「(5) 衝動性」に伴う問題は、会社外での問題も引き起こしかねません。

○熟慮なく転職もしくは進学をしてしまう

○上司や同僚との衝突

○借金

 

実はこの「衝動性」は多動・衝動型ADHD(注意欠如/多動症)だけでなく、ASD(自閉スペクトラム症)でもよく診られます。

また、食行動異常の中で自己誘発嘔吐が病態の中心になっている「排出性障害」では、性急自動衝動性(状況判断なしにすぐに行動してしまう:食行動異常衝動性)や衝動過敏性(早く報酬を得られるならば少なくてもかまわない:摂食嗜癖行動の習慣性)など、衝動性が関与していることが多いようです。(『過食と嘔吐の衝動性』参照)

 

衝動性の問題も、行動のみに注意が振り向けられ、他の情動処理が止まった状態になると考えられる」「この注意の障害によって生じる非社会的行動に注目すればASDとなり、衝動性に注目すればADHDになる(前掲書)と考えられています。

 

つまり「発達障害(神経発達症)特性」として、ASD/ADHDを同じものととらえた方が良いということですね。

 

余談ですが、WAISを行っている医療機関もあるようですが、言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PSI)の下位項目が算出されていないことがほとんどで、これでは情報不足と感じることが少なくありませんでした。

 

WAISでは発達障害(神経発達症)特性の診断はできませんが、自分の特性を知るには最適の検査です。

こころの健康クリニック芝大門では、WAIS検査は詳細なレポートを書いてくださるメンタル・キャリア・ライドさんにお願いしています。

WAISを受けてみたい方は、是非、メンタル・キャリア・ライドにお申し込みください。

 

院長

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