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適応障害とは何だろうか?

[2022.04.04]

4月になり、進学や就職、あるいは部署異動などで新しい環境への適応期(順応期)に問題になってくるのが、「適応障害」です。

 

別の医療機関に通院していたけれど、症状がなかなか良くならないとこころの健康クリニック芝大門に転院を希望された方や、あるいは職場復帰支援プログラム(リワーク)を希望し、こころの健康クリニック芝大門を受診された方にも、「適応障害」という診断名を頻繁に目にします。

 

また、産業医をやっていると、休職した社員さんから「適応障害」の診断書が提出されたけれども、どう対応したらいいのか?、と上司から相談を受けることもあります。

新たに産業医契約をした会社で、「適応障害」で1年以上休職している社員さんがいらっしゃるということで産業医面談をお願いされたのですが、結局、その社員さんは産業医面談の前に退職してしまわれたという経験もあります。

 

2021年には某・有名女優さんが診断され、18年ほど前には皇室のやんごとなき御方も罹患された「適応障害」とは、一体どんな病気なのでしょうか?

 

「F43 重度ストレス反応[重度ストレスへの反応]および適応障害」のなかで、「F43.1 心的外傷後ストレス障害」におけるような圧倒的な出来事ではなく、地位の変化、死別、身体疾患罹患などの比較的日常的な出来事に対する順応期に、抑うつ・不安症状、あるいは、行為面の障害などが生じることによって規定される、F43の下位分類である。

(中略)

本症は、ストレス因によって症状が出現するが、どの診断基準も満たさないようなケースに該当するもので、ある意味、「ごみ箱診断」的な要素が強い概念であった。

しかしながら実際には(これは多分に想像であるが)、臨床的には安易に用いられ、心因性・反応性の軽いうつ状態や不安状態(本来は、適応障害ではない!)に対して過剰にあてはめられていたようであり、7年後のDSM-Ⅲ-Rの改訂では、上記の基準Dが「不適応反応は、6ヶ月以上持続しない」と期間を限定するに至った。

ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

上記の解説を読むと、「適応障害」は日常的な出来事に対する「順応期」に、抑うつ・不安症状、行為面の障害などの「不適応反応」が生じる状態と考えることができます。

 

上記の引用は世界保健機関(WHO)の診断基準であるICD-10の解説ですが、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5でも診断基準はほぼ同じようなものとなっています。

 

つまり「適応障害」は以下の特徴をもつものです。

  1. ストレス因に対する反応であること(必ずしも「圧倒される」ような質とは限らない「日常のストレス」)
  2. ストレス因が始まってから速やかに発症するもの(DSM-5では3ヵ月以内、ICD-10では1ヵ月以内)
  3. ストレス因がなくなれば速やかに軽快すること(DSM-5、ICD-10ともに6ヵ月以内)
  4. その症状の程度や強度は通常考えられるものよりも著しい苦痛をもたらしていること

さらに「障害(disorder)」の診断に欠かせない、「個人の機能不全」が認められることも要件の1つとされています。

 

上記の「適応障害」の特徴では6ヶ月以内に軽快するとされていますが、冒頭に書いたような「適応障害」の診断で1年以上休職している人は、「適応障害」ではないのでしょうか?

 

ストレス因の終息に伴うように症状も速やかに消失することが適応障害の診断の原則であるが、長期間続くストレス因に曝露された場合,慢性化することがあるとしている。

ICD-10の亜型分類では「持続は2年を超えない」という但し書きをつけた「遷延性抑うつ反応」をコード化しているが、これは十分な実証研究に裏書きされたものとは言い難い。

平島. 適応障害の診断と治療. 精神神経学雑誌 120: 514-520, 2018

 

「適応障害」は日常的な出来事に対する「順応期」に生じる「不適応反応」ですが、「不適応反応」が6ヶ月以上続く場合は、慢性的にストレス因(状況因)への曝露が続いているか、あるいは、ストレス反応が持続してしまう個体側の要因を考慮する必要があるようです。

 

診断上の問題点は、ストレスがなくなって半年経っても症状が改善しない状態に対して、本症の過剰診断・誤診断がなされやすいことである。

実際、わが国でも遅ればせながらこのような傾向がここ10年、生じているように思われる。

(中略)

ICD-10が6ヶ月以内に新たな適応水準に到達できない患者も含めていることであり、言い換えれば、ストレス因子に対する心理的反応であっても人格特性等の患者側の要因によっては経過が長期化してしまう点に注目している点である。

ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店

 

今年(2022年)に日本語版が公開される予定のICD-11で、「適応障害」は「適応反応症」という名称になります。

 

ICD-10やDSM-5では「適応障害」の症状は、「他の診断基準に当てはまらない、生活上の困難に対する情緒的(不安)、認知的(抑うつ)、行動的問題」という不均一な臨床像が混在したゴミ箱診断的なカテゴリーでした。

一方、ICD-11の「適応反応症」の症状は、「反芻的思考,想起刺激による悪化、回避などが中心」とされています。

 

ストレス因とその結果にひどくとらわれており、過剰な心配や苦痛な思考、その意味についての反芻的思考がみられる。

そうした症状はストレス因の想起刺激によって悪化し、結果として回避が生じる。抑うつ、不安症状や、衝動的な外在化症状、喫煙、飲酒、物質依存などを伴うことがある.

金. ICD-11におけるストレス関連症群と解離症群の診断動向. 精神神経学雑誌 123: 676-683, 2021

 

ストレス因の想起刺激による過剰な心配や苦痛な思考、回避、不安症状や、衝動的な外在化症状は、PTSDの再体験・回避・過覚醒などの症状と似通っています。

 

前掲論文でも、「軽度の出来事によってPTSD的な症状が生じた者を適応反応症と診断することを容易にする」とされていますから、「生命に関わる外傷的エピソード」に該当しない、一般的な意味でのトラウマによるPTSDに類似した症状は、ICD-11では「適応反応症」と診断されることになりますね。

 

院長

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