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気分変調症と混合性不安抑うつ障害

[2022.03.28]

気分変調症かもしれない」と、こころの健康クリニック芝大門を受診された方の中には、の帯に書いてある「自分は人間としてどこか欠けている、自分は何をやってもうまくいかない、何かを言って波風を立てるくらいなら、黙って我慢したほうがずっとましだ、人生がうまくいかないのは、今まで自分がちゃんと生きてこなかったからだ―と感じていませんか? 実は、慢性のうつ病かもしれません」というフレーズに反応した方も多いようです。

 

上記の方々以外にも、他の精神科、心療内科、メンタルクリニックから転院して来られた患者さんの中に、「気分変調症」の診断を受けられている患者さんがいらっしゃいます。

 

無力型気分変調症

確かにこれらの患者さんたちには、「アンヘドニア(喜びの喪失)」と呼ばれる完了行動に対する喜びの喪失、気分の無反応・非反応性がみられ、内因性うつ病の範疇にあるものとも考えられます。

 

しかしながら、「他者との積極的なかかわりが透かして見えるような,同調性や役割遂行的な色合いがあれば,うつ病親和的な性格に由来するものとしても差し支えないと思われる」メランコリー気質を認める人はほとんどいらっしゃいませんでした。

 

その一方で、多くのケースでは「従順さや主体性のなさといった「鈍感」の要素が基調として混入」しており、内向的・まじめ・人見知りなどの「非社交性」、神経質・内気・考えすぎるなどの「敏感」の要素を併せもち、回避傾向が目立つケースがほとんどでした。(田中. 統合失調症様の微細な異質性がみられた遷延性うつ病―多次元精神医学の見地から―. 精神神経学雑誌 116: 15-45, 2014.)

 

これらの気質や病前性格は、「スキゾイド(統合失調症質)」あるいは「スキゾタイパル(統合失調症型)」と呼ばれ、一見些細にも思えるストレス状況下で過敏性が刺激され、破綻を来すパターンが多いようでした。

つまり、ニクレスクとアキスカルが提唱した「無力型気分変調症」に合致するケースが多かったのです。

 

気分変調症の症状クラスターと併存疾患

そもそもDSM-5で規定される「気分変調症」は、抑うつ神経症・神経症性抑うつおよび抑うつパーソナリティを基盤とした気分変調症と、2年以上続く慢性の大うつ病を合わせた、「持続性抑うつ障害(気分変調症)」とされています。

 

気分変調症では、「抑うつ気分の持続(すなわち2年以上)で,一日のほとんどの時間にみられ,抑うつ気分のある日はない日よりも多い」ことが特徴とされ、抑うつエピソードを構成する7つの症状から抑うつ気分,精神運動焦燥または制止,自殺念慮を除外したいくつかの症状を伴うとされています。

 

さらに、気分変調症では他の精神疾患の併存が多いことも特徴で、たとえば、不安障害または恐怖関連症群、身体表現性障害、強迫性障害または関連症群、物質使用症群または嗜癖行動症群、食行動障害および摂食障害群などが挙げられています。

 

こころの健康クリニック芝大門を受診された気分変調症(?)の人たちは、ICD-11でいう「感情クラスター」では気分の落ち込みや意欲低下、アンヘドニアにともなう億劫感や倦怠感、「認知行動クラスター」では集中力低下、罪責感や自己評価の低下、死に関する反復思考、「自律神経クラスター」では、入眠困難と中途覚醒が目立ちました。

 

上記でも触れたように気分変調症では不安関連症候群の合併も多く、感情面では対人緊張が目立ち、認知行動面では強迫観念や確認強迫行為、被害念慮、侵入思考や評価に対する過敏性が多く、自律神経面では音過敏や匂い過敏もほぼ全例に認められました。

さらに、抑うつ症状が制止にとどまらず、思考の暴走(あれこれ考えすぎること)により不安障害または恐怖関連症群を併存していることが特徴のようでした。

 

他の医療機関で診断された気分変調症、あるいは自分でそうではないかと思った気分変調症、あるいはに書かれている気分変調症は、「思春期うつ病」や「遷延性大うつ病」などの「気分変調症」中核群ではないようです。

つまり、「不全型の気分変調症(無力型気分変調症)」に不安障害または恐怖関連症群を合併した状態、もしくは、「混合性不安抑うつ障害」ではないかと考えることができるわけです。

これらの特徴からは、無力型気分変調症の背景に「発達障害(神経発達症)特性」が浮かび上がってきます。

 

気分変調症と混合性不安抑うつ障害

ICD-10で「F41:他の不安障害」のカテゴリーに入れられていた「F41.2:混合性不安抑うつ障害」は、ICD-11では「抑うつ症群」に追加され、名称も「混合性抑うつ不安症」と変更されました。

 

混合性不安抑うつ障害(混合性抑うつ不安症)」は、2週間以上の期間、抑うつ症状と不安症状をどちらも部分的に有していながら、うつ病や不安障害のどちらの診断基準も満たさない一群を指しています。

 

抑うつ症状は、抑うつ気分や活動に対する興味または喜びの著しい減少を含み、不安症状は、神経質、不安、またはピリピリしているという感覚、あるいは心配の原因となっている考えをコントロールできない、何かひどいことが起きるのではないかという恐怖、リラックスできない、運動性の緊張、または交感神経症状を含むとされています。

「混合性不安抑うつ障害(混合性抑うつ不安症)」は、不全型の気分変調症(無力型気分変調症)と全般性不安障害が合併したもののようです。

 

ICD-10でも、あらたに改訂されたICD-11でも、「混合性不安抑うつ障害(混合性抑うつ不安症)」は、特にプライマリーケアの場でしばしばみかけられること、多くの者が未治療のまま生活していることなどが記載されています。

「気分変調症はそれだけで治療を求めることはほとんどない」と、本に書かれていることと一致しますよね。

 

なお、「混合性不安抑うつ障害(混合性抑うつ不安症)」に類似の病態水準でも、心的ストレスが誘因として明白な場合には、「適応反応症(適応障害)」と診断することになります。

 

ICD-11で「混合性不安抑うつ障害」が気分症群(抑うつ症群)に入れられて「気分変調症」との境界が曖昧になった印象があります。

「気分変調症」などの抑うつ症と不安を伴う「混合性不安抑うつ障害(混合性抑うつ不安症)」は鑑別が難しく、また、今回記載したようなスキゾイド傾向を有するタイプでは抗うつ薬の効果は不十分であり、抗精神病薬による治療が必要であることが知られていますので、こころの健康クリニック芝大門に相談してみてくださいね。

 

※ICD-11に準拠した【気分変調症】と【合性抑うつ不安症】の解説(アップデート版)は、こちらをお読みください。⇒『気分変調症と混合性抑うつ不安症(アップデート版)

院長

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