乱れた食行動からの回復の段階で取り組むこと
こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタです。
こころの健康クリニック芝大門の過食・過食嘔吐の治療では、治療を開始する前にガイダンスを受けていただいています。ガイダンスでは回復の段階について説明していますが、今回は各段階でどういったことに取り組むかについて少し説明してみたいと思います。
一つ目のハードル
治療を申し込まれる方の多くは、回復の10の段階(「摂食障害から回復するための8つの秘訣」参照)のうち5段階目か6段階目にいらっしゃいます。自分なりにいろいろやってみたけどうまくいかない(5段階目)とか、少しは変えられた行動はあるけどそれ以外はなかなか難しい(6段階目)という感じです。
変化するために、変化を進めるために、医療機関にサポートを求めていらっしゃるわけですね。
摂食障害の回復の段階には難関とされるハードルの時期が二つあります。一つは、自分の問題だと自覚して、自分自身で変化を起こす必要性を受け入れる時期。これが5段階目に該当します。
それまで、自分は病気ではないとか、やめようと思えばいつでもやめられると思っていた時期から、このままではいけないと思うけど変わるのも怖いという時期を抜けて、自分自身と向き合う決心をするわけですから、難関と言われるのも納得ですよね。
二つ目のハードル
そして、もう一つは7段階目の「摂食障害行動は止められるけど、摂食障害思考が頭から離れない」という時期です。
6段階目でセルフモニタリングを通して乱れた食行動や回復を妨げている行動へと突き動かしている感情や考えを知ることに取り組むことで、摂食障害に関する行動が減少すると7段階目に入ります。
7段階目では、乱れた食行動や回復を妨げる行動はほとんどなくなりますが、その行動へ突き動かそうとする考えにはまだ翻弄されます。例えば、過食はほとんどしなくなったけど、過食したい気持ちは残っているとか、食事制限はしなくなったけどカロリー計算をして体重を減らしたいと思っているという感じです。
7段階目の課題は、過食したくなっている気持ちの裏にある考え(評価やジャッジメント)との向き合い方を身につけることです。これまでもブログで書いてきたような、出来事や自分の外見、自分の感情についてまでも評価やジャッジメントする「心的等価モード」に気づき・認め・手放す(否定するのではなく)ことに取り組んでいきます。
乱れた食行動に隠された本当の問題とは
例えば、仕事でミスをしたときに、自分の中で「こんなミスをするなんて自分はやっぱりダメ人間だ」と発する声がしたとします。その声を真に受けるのでもなく、否定するのでもなく、一つの考えとして受け止め、それまで仕事に取り組んできた自分を労い、ミスをしてがっかりしている自分に寄り添い、時にはミスをすることがあっても、今の仕事でもっとたくさんのスキルを身につけるために次はこういう風にやってみるのもいいのでは?と自分自身を導いてあげられるように。。
乱れた食行動や回復を妨げている行動へと突き動かそうとする声(べき思考や完璧主義、評価やジャッジメント)にあおられるように行動するのではなく、自分に優しさと慈しみの心で寄り添いながら、自分の人生を主体的に生きるスキルを磨く。この取り組みの中で、自己受容感や自己肯定感が高まっていくのです。
8段階目
7段階目の難関を抜けると、「行動からも思考からも解放されているときが多いが、常にというわけではない」という8段階目に入ります。
自分の人生を主体的に生きるということは、ライフゴール(人生の価値や目的)に向かって生きることです。自分は何を大切に生きたいのか、どんな目的に向かって生きたいのか、日常の事柄でもこんな結果になってほしいなとか、そういった期待を持ち、それに向かって行動を起こそうとすること。
自分の価値や目的を尊重しようとするとき、私たちはひとりでそれを行うことはできません。このときに私たちに必要なのは、周囲の人に助けを求めたり協力し合うスキルです。
例えば、あなたが「家族とのつながりを大切にしたい」という価値観を持っていて、ご主人に「週末家族でお出かけしよう」という提案をしたとき、ご主人が「週末は家でゆっくりしたい」と答えるかもしれません。
このとき、「家族のことなんてどうでもいいんだ」という評価やジャッジメントで受け取ってしまうと、家族とのつながりを大切にするという価値を大切にすることは難しくなってしまいますよね。
「週末は家でゆっくりしたい」と答えたご主人にも大切にしたい価値があります。ご主人もあなたと同様に「家族のつながりも大切」だけど「何事にも誠意をもって向き合いたい」という価値観も持っていて、来週の仕事に向けて体調を整えることを今は優先したいのかもしれしれません。もちろん、このことはご主人が言葉にしてくれて初めてわかることですが、今のご主人の大切にしたいことは何なんだろうと理解しようと向き合うことはできそうですよね。
このように8段階目では、7段階目までに身につけた「べき思考や完璧主義、評価やジャッジメントの声を冷静にモニターしながら、自分自身を温かく見守る自らの姿勢」を持ち、自らの期待(ライフゴール)を尊重すると同時に、相手の考えや気持ち、期待を理解しようとするスキルを身につけることになります。
自分へ優しいまなざしを向けることができるようになると、他者へも同様に接することができるようになります。その姿勢でお互いの気持ちや期待をすり合わせたり、折り合いをつけていく経験を重ねることで、さらに自分への信頼感と他者への信頼感を高めていくことができるのです。
さらにこの段階では、7段階目までに改善しきれていなかった自分のとの関係に気づくこともあるかもしれません。そいう言った意味でも、この時期は症状のぶり返しが起こりやすい時期です。それを乗り越えて、回復の段階を進んでいきます。
こころの健康クリニック芝大門の過食・過食嘔吐の治療では、回復の10の段階のうち、上記の6~8段階に取り組んでいきます。
これから治療を始めようと考えていらっしゃる方は、以上を参考にしていただければと思います。
現在通院されている方も回復の段階について思い出していただき、今の自分に必要な取り組みについて一緒に考えていく参考にしてくださいね。