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過食症(むちゃ食い・過食嘔吐)の強迫性

[2019.03.04]

近頃は「オルトレキシア」と呼ばれる状態が増えているといわれています。

『身体に「良い/悪い」食べ物』という考えによる極端な健康へのこだわりによって、逆に健康を損なう人たちのことを「オルトレキシア(orthorexia nervosa)」と呼ぶようです。

 

「オルトレキシア」の医学的な定義はありませんが、グレート・オーモンド・ストリート・ホスピタルで提唱された分類(GOSC)で考えてみると、食べ物に対する強迫観念による「選択的摂食(著しい偏食)」と、「機能性嚥下障害と他の恐怖症」による自我親和的な(苦痛に乏しい)「食物回避(強迫行為)」のように考えられます。

 

食行動障害および摂食障害群では、ダイエットや体重・体型へのこだわりのような「強迫性」がよく見られます。
最近では強迫傾向を有する人が、糖質制限ダイエット後に飢餓大食から過食症(むちゃ食いや過食嘔吐)を発症することもよく見かけます。これなども糖質(炭水化物)は体に悪い、あるいは炭水化物は太るという、全か無かの強迫的思考にともなうオルトレキシアの一種なのかもしれません。

1990年代の研究では、50〜100%に強迫症が併存していたという報告があります。
そもそも摂食障害が「強迫スペクトラム」に包含されていた経緯を考えれば、「ストレス耐性」が低下していくことで、時間とともに食行動の病像が変化していくことも理解しやすくなります。

 

そもそも単なるダイエットがどうして嗜癖にまで発展してしまうのだろうか。

嗜癖行動が苦痛に対する対処手段であることを考えれば、摂食障害が長期化してストレス耐性が徐々に低下してきているか、あるいは、幼少期の虐待やトラウマ体験、または日常的なストレス状況のために発症前からストレス耐性が低くなっていたかのいずれかが考えられる。

野間「摂食障害における嗜癖性の臨床的意義」精神科治療学 33(11): 1321-1325, 2018

 

さて、14歳の思春期に全寮制の学校に入学したリンジーさんは、他の子たちと自分を比べ「自分が幸せに感じられないのは身体のせいと思い始め、食べること自体わがままな意地悪い行為」とみなして、罪悪感を強めていきました。

「表向きにはもはや不幸そうには見えなかった」リンジーさんは、「自分がダメ人間と感じられる状況を避け」、コーヒーヨーグルトやビーナッツバターで内面の苦しさを紛らわすようになり(エモーショナル・イーティング)、また「鏡の前で繰り返し脱ぎ着」する「体重・体型へのこだわり(強迫性)」に囚われはじめたのです。

 

とはいえ、私の気持ちの中で最悪だったのは、他の子たちは食べても太らないのに、自分はそうではない、ということでした。

一番痩せていて、とても綺麗な子の行動を観察してみると、毎朝トーストにブラウンシュガーとバターを塗っていて、それでも決して太らないし、食べていること自体に罪悪感を持っているようにさえ見えないのでした!

あのような世界、自分が醜いと思わなくていい・・・・・・・世界に住むというのは、どのような感じなのでしょう?私は人と距離を置き始め、自分より痩せているすべての人をうらやましく思い始めました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

そしてリンジーさんは「吐くこと」について考え始めました。
自己誘発嘔吐から始まる食行動障害は「排出性障害」と呼ばれます。

自己誘発嘔吐(排出性障害)から始まるタイプの摂食障害は、「強迫性」ともにさまざまな「衝動行為」を伴うことがあり、神経性過食症と診断されてしまうことがほとんどです。

しかし、自己誘発嘔吐(排出性障害)から始まり、吐くための大食・過食を伴うようになる摂食障害は、拒食・不食による痩せから飢餓大食、そして過食と自己誘発嘔吐の繰り返しに移行する典型的な神経性過食症とは、背景にある精神病理がかなり異なります。

また、発症と維持に対人関係問題が関与しないため、重要な他者とのコミュニケーションに焦点を当てる従来の対人関係療法のやり方では治療がうまくいかないのです。

そのため『8つの秘訣』にある健康な部分と病気の部分の対話や、三田こころの健康クリニックで行っているセルフモニタリングに焦点を当てた対人関係療法のすすめ方など、治療には患者さん一人ひとりにあわせた工夫が必要になってくるのです。

 

Boone(ブーン)は、460名の青年期の症例において、強迫性、とくに完璧性と衝動性が摂食障害の症状とどのように関連しているかを調べた。

  1. 完璧性と衝動性が低いタイプ
  2. 衝動性のみが高いタイプ
  3. 完璧性が高いタイプ
  4. 完璧性と衝動性の両方が高いタイプ

に分けたところ、4. 完璧性と衝動性の両方が高いタイプにおける摂食障害の症状が最も重度であった。

Booneは高い衝動性を持つ患者は、その衝動を完璧性で制御しようとするが、それがうまくいかず摂食障害の症状が重症化する可能性を示唆している。

吉村、山田、松永「摂食障害における強迫性と衝動性」精神科治療学 33(11): 1313-1319, 2018

 

「体重・体型へのこだわり(強迫性)」に囚われたリンジーさんは、「自己誘発嘔吐」と「吐くための過食」という、感情コントロールのために食べ物を使う「食行動障害および摂食障害という行動嗜癖(衝動性)」にも囚われてしまったのでした。

 

これが九年間に及ぶ強迫的な過食と嘔吐の始まりでした。

私は自分がしていることを誰にも言いませんでしたし、やめようともしませんでした。他の何よりも、私は麻痺状態になれることに執着していて、恋人や学業や仕事が過食嘔吐症状から気持ちを逸らしてはくれましたが、最後には食べ物に戻っていきました。

私は、過食嘔吐はダイエットの一方法であると確信していました。それに、たとえ毎日やったとしても、何ら悪いことがあるとは思っていなかったのです。

私は自分の奇異な行動を根本にある問題と結びつけず、いつでもやめられる自信があったので、自分が依存状態に陥っているとも思いませんでした。何度も「この過食が最後の過食だ」と自分自身に約束して、その「最後の一回」の嘔吐が終わるやいなや、魔法のように、そして容易に、「普通の」人になれるだろうと考えていました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

食べるという行為と吐くという行為は、自分の心の中の「根本にある問題」と向き合わずに済み、「麻痺状態になれる」ので、過食あるいは吐くという行為に「執着」してしまいます。

これが「摂食行動嗜癖(イーティング・アディクション)」という状態です。

 

私が両親に書く手紙は、自分が大学にいることに疑問を感じていること、そして健康についてのぼんやりした訴えとの間を行ったり来たりしていました。手紙に次ぐ手紙が同じことを言っていたようです。

「不安だけれど、私のことは心配しないで。具合が悪いけれど、なんとかやっているし、よくなってきています。たぶん、そういう時期なのでしょう。」

注目してほしいと言った直後に、関心を持ってもらう必要はないとわざわざ言い直していたのです。
家族には、一人でいて、不安でいることがどのような感じなのか質問してほしかったけれど、そのような感情は無意識に否定していたのでしょう。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

「孤独」と「自己嫌悪」と「不安」。これがリンジーさんが抱える「根本にある問題」でした。
誰しも感じるはずのそれらの感情を回避していると、次第に自分が何を必要として何を望んでいるのか?という「価値」を見失うようになってしまいます。
(Tamikoさんの「【治療記録1】治療を受けようと思ったきっかけ」「【治療記録4】体の声を聞く練習」なども参照してくださいね。)

 

リンジーさんの「対人恐怖的回避型アタッチメント」から生み出された「強迫性」と「衝動性」は、「ストレス耐性の低下」からさらなる問題を引き起こします。どのようにしてリンジーさんがこれらの問題から回復されたのか、その足取りをたどってみましょう。

 

院長

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