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重要な他者に病気を理解してもらう

[2019.08.05]

ladybug-574971_1920摂食障害ホープジャパンの安田さんは『摂食障害から回復するための8つの秘訣ワークブック』を紹介したメーリングリストで、「あえて、認知療法とか対人関係療法という言葉は使っていませんが、でも、このワークブックの内容こそが、今の摂食障害治療に有効な治療方法なのです!!」と書かれていました。

 

まさにその通り!!と思います。
過食症の治療では、エビデンスのある治療法をマニュアル通りに行えば治るというものではなく、一人ひとりに合わせたアレンジが必要なのです。

この『8つの秘訣ワークブック』は、過食症にエビデンスのある認知行動療法や対人関係療法などの治療法を、その人に合わせて補強してくれる強力なツールだと思います。

 

さて、摂食障害の患者さんの母親にはかなりの割合で、過食(むちゃ食い)、食べ吐き(自己誘発嘔吐)、過食嘔吐などの食行動障害の既往歴や現病歴があると言われています。

実際、患者さんからもそのような話をお聞きすることも多いのです。

「自分は自然に治まったから、あなたの場合も自然に良くなると思っていた」と母親に言われたことがある患者さんもいらっしゃいますよね。

中期から慢性期の過食や過食嘔吐の治療』を参照していただくと、皆さんと皆さんの親とでは、病期の進展の段階(病期)が異なるのかもしれません。

 

食行動障害や摂食障害は、自分の親のように自然に治ったり、自分の力で治すことが可能なのでしょうか?それとも、誰かの助けが必要なのでしょうか?

 

患者さんたちは、重要な他者(両親やパートナー)に病気のことを理解して欲しいと思っていらっしゃいますよね。
そして、理解してもらえたら自分の苦しみが少しは楽になるのではないかと、期待していますよね。

 

たしかにその通りで、誰かにわかってもらえる、あるいは、完全に理解することは難しいけれども「わかろうとしてくれている」と感じられた時には、その人たちが自分の味方のように感じられますよね。

 

ジェニーさんも両親との間で同じような感覚を体験されています。

 

摂食障害に罹っている人々がどういうことを体験しているのかを、一般の人にすべてわかってもらえるとは思っていません。

事実、私が回復してきた過程において、両親には、エドが私をどう支配しようとしているのかという事実はわかりえないんだ、とお互いに理解し合えたとき、私は両親から本当の意味での支えを得られるようになったと思っています。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

過食や過食嘔吐の混乱と迷妄から回復する』で、「摂食障害行動にかりそめの安心感と満足感を求める感情体験の回避の段階」「摂食障害と自分を同一視するアイデンティティの形成段階」「自分自身の存在を否定する段階」という、3つの段階を説明したことがありますね。

 

自分の心の中の感情を感じないようにするために過食や過食嘔吐を使っていると、かりそめの安心感と満足感が得られますが、同時に、自分の心をどんどん狭めてしまうことになます。

そうなると、自分が考えているはずの考えは、すべて摂食障害特有の思考で占められてしまいます。

 

ジェニーさん自身も「不思議なことに、私はエドのことはとてもよくわかっていたのですが、これまで自分自身であるジェニーに会ったことがないのか、と思えることがたびたびありました」と書かれているように、自分自身がよくわからないと感じられるのです。

 

自分=摂食障害(エド)の状態になると、自分でも自分の中に何が起きているのかわからないのですから、他者に理解してもらうことはすごく難しくなってしまいます。

 

「何が実際に起きているのかはよくわからないけれど、でもいつでも助けになるよ」と、私の両親はよく言ってました。

私たちのことを、本当の意味で理解できなくてもいいんです。ただ、私たちのことを信用してくれればいいのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは摂食障害の部分にエドと名前をつけ、「エドと自分自身とを切り離す」ことと「本当の自分自身に初めて、あるいは再び出会う」ことにとり組まれました。

 

そのプロセスで、ジェニーさんは両親に摂食障害(エド)のことを話したのです。

ジェニーさんの両親は、ジェニーさんが話した内容ではなくて、ジェニーさんの心の状態を受け止めてくれました。

 

たとえば、私が母に向かって、「太っている感じがするの」と言ったとしても、母は、私が太っていないと説得しようとしなくていいのです。

その代わりに、母には、私は本当に太っていると「感じているんだ」という事実を認めてほしいのです。

母には、それがどういう気持ちなのかということは理解できないけれど、でも母は、私の言うことをそのまま受け入れてくれます。それが私には必要なことなのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

このジェニーさんの両親の対応が、「自分や他者のこころの状態に思いを馳せること」「自分や他者の取る言動をその人のこころの状態と関連づけて考えること」というメンタライゼーションなのです。

 

モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』で、家族にぜひ身につけて欲しい「エモーショナル・インテリジェンス(情動知能)」が、このメンタライジング能力のことなのです。

 

「こころの状態」「行動の背景」を省みるメンタライジング・アプローチを付加することによって、『8つの秘訣』や『8つの秘訣ワークブック』にもとり組みやすくなりますし、何よりも、対人関係療法の治療効果は格段に上がるのですよ。

 

院長

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