過食症の対人関係療法で食べ物のことを扱う
[2016.02.01]
過食症の維持因子の考え方には
(1) 体重や体型のコントロール感へのこだわり (2) ネガティブな情動や思考への接触回避方略(気分解消行動としての過食)の2つがあります。 (1) は認知行動モデルとして知られていて、認知行動療法では、やせ願望や体型不満に焦点を当てた治療が行われます。 しかしこのモデルは、治療への動機づけが高くないと脱落しやすく、治療への抵抗が起きやすいという指摘もあります。 (2) の情動制御モデルは、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、弁証法的行動療法(DBT)などが有名ですが、対人関係療法もこの見解をとっています。
根底にある本当の気持ちにまったく注意を払わないでいれば、それらは何度でも問題として表面化してきます。 どんな気持ちに対しても「改善する」ために衝動に任せて食べものにエネルギーを注いだり、また食べることを避けたりしているかぎり、結局はその試みは失敗に終わるでしょう。 (中略) しかし、気持ちをしっかりと感じて健康で効果的な方法でそれを表現できるようになると、あなたの心の中の気持ちは、行動を支配しようとするよりも、むしろ適切な行動を見極めるための指針となり始めるでしょう。 『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店「根底にある本当の気持ち」を感じないで済む方略として、過食が使われているため、対人関係療法では
○ 自分の気持ちをよく振り返り、言葉にしてみる。 ○ 自分のまわりの状況(とくに対人関係に関するもの)に変化を起こすよう試みる。という2つの軸で治療に取り組みます。 「自分の気持ちをよく振り返る」自分と向き合うプロセスを土台に、コミュニケーション・スタイルを改善することで、愛着スタイルを含む対人関係パターンに変化を起こし、「まぁ何とかなる」自己効力感(コントロール感)と「自分はこれでいい」自己肯定感を高め、過食症を治療していきますよね。 ここでいう「根底にある本当の気持ち」とは、過食症の典型例でみられる完璧主義だけでなく、抑うつや社交不安、転換、失感情、衝動性、嗜癖、トラウマ、など個々のケースでのバリエーションが非常に多いため、一つの治療法が全例に有効であるとは言えないのです。 ですから、過食症の治療に対人関係療法を適応する場合は、多少、対人関係療法の原則を逸脱したとしても、患者さんの状況に合わせたやり方を優先するのが鑑別治療学の考え方ですよね。 さて『8つの秘訣』では、いよいよ食べ物との関係と 行動を統制するという最難関の課題への取り組みにさしかかります。
3つめの秘訣では、摂食障害は食べものの問題ではないと説明しました。 理由は、 a) 食べものそれ自体が問題を引き起こしているのではなく、 b) 摂食障害には食べものと体重の問題以外にも関連する他の側面がたくさんあるから です。 実際には、摂食障害の原因となっているそうした根底の問題がとうとう理解されず対処もなされないままになっても、摂食障害からは回復できるのです。 しかし、食べものとのつきあい方を変えなければ、残念ながら決して回復できません。 『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店対人関係療法では食行動に焦点を当てませんから、『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』にも書いてあるように「習慣としての過食は少々残」ってしまうのです。 しかし、対人関係療法で扱うような「患者さんが直視しなければならない対人関係の問題」をある程度コントロールできるようになれば、「情動や思考への接触回避方略(気分解消行動としての過食)」が減ってきますから、次は食べ物との関係(食べる主体としての自分)と向き合うプロセスが必要になってきますよね。 それが『自分で取り組む過食(むちゃ食い)や過食嘔吐の治し方』で書いた
・感情受容と調節スキルを高める ・食事摂取方法(栄養回復)という治療プロセスなのです。 これが『クセになった過食や過食嘔吐とどう取り組むか』で書いた、習慣になった過食や過食嘔吐を減らしていくために三田こころの健康クリニックでの過食症の対人関係療法による治療で行っている自分自身と向き合うというプロセスなのですよね。 院長