自分を知り、認めてあげること
長い間、気分変調性障害や社交不安障害という病気特有のパターンの中で生きてきた人が、16回(20回未満)という期間限定の対人関係療法の治療の中でどこまで変化できるかということについて、水島先生はこう書かれています。
本書をお読みいただいて、社交不安障害に対する対人関係療法のイメージを掴んでいただけたでしょうか。
おそらく、現時点での感想は、「考え方はわかったけれども、そんなにうまくいくとは思えない」というものでしょう。
それで十分です。実はきちんと対人関係療法を受けた人でも、十六回の治療を終えた時点では、それと大差ない程度の感じ方なのです。
社交不安障害に限らず、対人関係療法の効果は、治療終結後に伸びることが知られています。
治療期間中に必要なことを学んだら、あとは日常の人間関係の中でそれを繰り返し実践していくと、だんだんと実力になり、自信がついてくる、ということなのだと考えられています。
水島広子『対人関係療法でなおす 社交不安障害』創元社(2010)
その先はどうなるのか?どういうプロセスを辿れば治ったといえるのか?ということが疑問になってくると思います。
摂食障害の治療でも治るということは、「体型へのこだわりが生活を乱さなくなる」ということですし、
気分変調性障害からの回復は「病気の症状を客観的に見つめて対処する自分」という新たな視点が生まれること、とされているように、治っていくプロセスでは、症状にとらわれない(デフュージョン)と同時に、症状から自分のストレスに気づく(アウェアネス)と2つのパスが必要ということですよね。
そもそも治るとか回復するということを、医学用語で「寛解(レミッション:remission)」といいます。
寛解(レミッション)とは、re-(後に、元に、再び)+mittere(送る、投げ入れる、放り出す)+sionで和解とか借金や税金、刑罰などの免除、あるいは罪の赦しという意味であり、医学の分野では軽減とか軽快、緩和とも訳されます。
おそらく、精神疾患になったことで、家族や友人、社会生活、あるいは自分自身からもオミット(omit:離して放り出す)された人が、レミット(remit:再び投げ込まれ)し、コミット(commit:委ねる、関わりあう)していくプロセスが回復とか寛解ということなのでしょう。
この病気(摂食障害)の治療の大原則は、あくまでも、症状にとらわれないということであり、同時に、症状から自分のストレスに気づくことなのです。
もう一つ大切なのは、自分を知ることです。自分の「性格」をよく知って認めてあげることです。
水島広子『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店(2007)
つまり、治る・回復することは自分自身を知り、自分自身と折り合いをつける(和解する)プロセスであり、それが、症状にとらわれないということですよね。
自分自身と和解していくプロセスでは「なぜこのような病気になったのか」「この病気は今の自分にとってどんな意味があるのか」「この病気にかかった自分の未来はどうなのか」という問いによって過去と現在と未来を新たな形で結び直そうとします。
病気の意味について水島先生は
私は、すべての病気に何かしら学べる要素があると思っています。
うつ病からは、「休んでも大丈夫」「人に頼っても大丈夫」ということを学べますし、摂食障害からは「マイペースでも大丈夫」「人に自分の気持ちを話しても大丈夫」ということを学ぶことが出来ます。
病気は確かに苦しいものですが、病気にでもならない限り学べないことも確かにあるのです。
水島広子『対人関係療法でなおす 社交不安障害』創元社(2010)
と書いておられます。
三田こころの健康クリニックでの対人関係療法による20回未満の治療で関係性に開かれ、人を信じてもいいかも?と思えるようになってそんな自分を少しだけ認ることができて、多少、自信がついてくる(自尊心の回復)プロセスまで進まれた人にはオプションでインナーチャイルドのワークの仕方を教えることもあります。
この自分自身を癒やすインナーチャイルド・ワークで、過去と今、そして未来が新たなかたちで結び直され、患者さんは新たな人生を生きていかれるのですよね。
院長