マインドフルネスで関係性に開かれる
『マインドフルネスで現実に戻る』で、シャマタ(止)とヴィパサナ(観)という2つのマインドフルネスは、ヴィパサナ(観)は認知行動療法とシャマタ(止)は対人関係療法と相性がいいことを書きました。
実際、三田こころの健康クリニックで対人関係療法による社交不安障害や気分変調性障害の治療を行っていると、どうしても『「想像上の」相手との関係で頭がいっぱい』な状態から抜けられないこともよくあります。
また気分変調性障害では
気分変調性障害の人のほとんどが、自分のことを「弱い」と観じています。
そして、弱い自分がこの社会で生きていくためには、弱音を吐かず、歯を食いしばっていかなければならないと思っているものです。
そんな姿勢で生きていると、どんな人でも病気になってしまいます。気分変調性障害の人が二重うつ病になりやすいのも、それが大きな理由です。
本人は、自分が弱いから大うつ病になるのだと感じるものですが、実際には、ストレスへの「弱さ」を作っているのは、「自分の弱さを認められない」という姿勢そのものだと言えます。
水島広子『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』創元社(2010)
上記の引用のように、自分との折り合いがつけられないこともよくありますよね。
水島先生は
なお、本書で述べてきた対人関係療法は、まだまだどこででも受けられる治療法ではありません。
そんな限界を何とかするために、本書では、私が治療の中で実際に患者さんに申し上げることのほとんどを書いたつもりです。
私の患者さんも、まずは十六回の面接の中で、本書に書かれているようなことを、うるさいくらいに聞かされます。
かなり頑固な気分変調性障害の方でも、さすがにこれだけうるさく言われると、「もしかしたらそうかな」と思うようになってきます。
ご家族にも同じことを説明していきますから、周りの頭も同じような内容になってきます。そんな状態を作ることが、治療の最も重要な部分なのです。
ですから、本書を、できればご家族と共に、それこそうるさいくらいに繰り返し読んでいただきたいと思います。
水島広子『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』創元社(2010)
と書いておられるように、気分変調性障害の考え方や感じ方は「病気の症状」だと位置づけを繰り返し行い、それを周囲の人たち(家族)と共有することが大切なのです。
しかしながら、対人関係療法の治療の中で、十六回の期間限定という「そんな限界を何とかするために」三田こころの健康クリニックでは、対人関係療法からちょっと離れて内的体験と現実を切り分けるマインドフルネスを行うことがあります。(『天使の梯子(はしご)の向こう側』参照)
そうやって対人関係療法のなかでマインドフルネスを使うと、自分 vs. 相手(もしくは自分自身)という折り合いの次元だけではなく、「関係性という次元に開かれる」ということが起きてきます。
今、ここに「酸素」という男性と「水素」という女性がいたとします。
この二人の「酸素」と「水素」というパーソナリティ(性質)はまったく違います。しかし、この二人はお互いに惹かれあって結婚することになりました。
この時、近代主義者は、この一対の男女の結婚生活を「酸素」と「水素」がお互いに折り合いをつけながら暮らすものだと考えるわけです。
これに対して、吉本さんは「酸素」と「水素」が結婚すると「水」が生まれると考えるわけです。
この「水」が対幻想なのです。
「水」という対幻想の性質は「酸素」と「水素」という個人幻想の性質には還元することができないのです。
「水」の性質を、いわゆるポジティブな側面からいえば、それはたとえば[愛着][信頼][共感][絆][つながり]であり、いわゆるネガティブな側面からいえば、それはたとえば[憎悪][怖れ][縛り][しがらみ]であるということになります。
これが近代主義者と吉本さんの考え方の決定的な違いなのです。
宇田亮一・著『吉本隆明『共同幻想論』の読み方』菊谷文庫;2013、P.29「“共同幻想”って何だろう」
「関係性という次元に開かれる」とは、個人幻想(自分自身との折り合い)とともに対幻想(二者関係)も体験している状態、つまり、「「水」の次元(いま現在)」にコミットし(同時に「個人幻想」も自覚(わかる・ふかまる)しつつ)、ポジティブとネガティブの「評価」を脇に置き、「主体的に関わる」ということですよね。
このように「いま・ここ」に「在る」ことが出来るようになってくると、人との関係が楽しくなり「人が好きになる治療法」という対人関係療法の効果が明らかになってくるんですよ。
院長