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自分の中の摂食障害(エド)との関係を改善する

[2023.06.14]

こんにちは。

こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタです。

 

対人関係療法は症状の維持に関わっている問題領域に焦点を当てて治療をすすめていきます。

問題領域は「役割期待の不一致(不和)」、「役割の変化」、「悲哀」、「対人関係の欠如」のいずれかです。

 

以前、院長が「摂食障害(エド)との対人関係)」で摂食障害の問題領域について、自分の中の摂食障害(エド)との関係は「役割期待の不一致(不和)」であり、現実の対人関係は「親密さの回避と対人関係の不足(対人関係の欠如)」であると書いています。

 

今回は、自分の中の摂食障害(エド)との関係が「役割期待の不一致(不和)」であるということについて書いてみたいと思います。

 

そもそも「役割期待の不一致(不和)」は、患者さんと重要な他者のお互いに対する期待がずれてしまっていることが症状の維持に関係している場合に選択される問題領域です。

役割期待の不一致を扱う場合に、治療で行われることの一つに期待の整理があります。

期待の整理とは、自分が相手に(相手が自分に)どういう期待を持っているのか、それは妥当か、伝わっているか、など期待の内容や伝え方などについて整理していくことです。

このとき、自分が相手にどういう期待を持っているのかが明確になっていないと期待のずれを扱うことが困難になります。

 

ある患者さん(Bさん)を例に挙げてみます。

 

Bさんはご主人と家事を分担しているのですが、ご主人の行う家事に納得がいかないようです。ご主人の洗った食器に汚れが残っていることに気づくと、ご主人に怒りをぶつけて、ちゃんと汚れを落とすように言うと言います。ご主人は「わかった」と言い、きれいに洗ってくれる時もあります。でも、汚れが残っている時もあり、するとBさんは「全然わかってくれない」と思うのです。

 

お二人のやり取りを見る限り、Bさんの期待は明確になっているように見えますし、言葉で伝えてもいます。

ご主人がBさんのように細かいことに気が付くタイプではなく、家事も得意ではないこともBさんは理解しています。

また、ご主人なりにやってくれているんだということも思えているため、自分が気が付いたときに伝えればやってくれるという期待を変えるという試みもやってこられました。

それでもやっぱりすっきりしないのです。

 

Bさんとこの出来事について話し合っていると、こんなことがわかってきました。

汚れが残っている食器を見た時、「何度も言ってるのにまたやってくれてない」「洗いなおさなきゃ。疲れてるのに。」と思い、そしてご主人に対してこう思うそうです。

 

「私のことを大切にしてくれていない」

 

Bさんは、普段からご主人(に限らないかもしれませんが)に対して期待を伝えることができず、一人で抱え込むことがよくあります。

例えば、体を壊して不安で心細いときでも黙って一人で病院に行きます。職場でミスをして落ち込んでいるときでも家では何もなかったように気丈にふるまうのです。

そういうことを繰り返していると孤独な気持ちになるかもしれませんね。

Bさんはそんな気持ちを“大切にされていない感じ”として心の中に押し込めていったようです。

 

そして、その「大切にされていない」という考えやイメージを通してご主人の言動を見てしまうことで、何かを期待通りにやってくれないと「やっぱり大切に思っていないんだ」と思ったり、「私のことなんてどうでもいいんだ。お願いしてもどうせやってくれないに違いない」と思ってしまい、ますます期待を伝えることが難しくなり、一人で抱える(気丈にふるまう)という悪循環が作られていったのです。

 

この「大切にされていない」という声を発しているのが、自分の中の摂食障害の部分(エド)なのです。

こうして「大切にされていない」という摂食障害(エド)の声を信じることで、Bさんはご主人に対する期待を表現する機会を失い抑え込むことになりました。

これって、Bさん自身が自分の期待を無視したことになりますよね。

このようにしてBさんはいろんな場面でエドの言いなりになり、本当はどうなってほしいのかどうしたいのかを尊重できなくなっているようです。

ここが院長の言う摂食障害(エド)との不和なのです。

摂食障害(エド)の声はこのようにして、本当の問題に向き合うことを邪魔してきます。

そして、いつの間にか自分が本当に必要としていること(期待)がわからなくなっていくのです。

 

こんなことが起こっていては、Bさんがご主人に期待を伝えることができなくても無理もないですよね。

ですから、治療で最初に取り組むことは「自分との関係(摂食障害との関係)を改善」するということになります。

摂食障害の声(今回のBさんの場合は、「大切にされていない。どうせわかってくれない」という考え)に振り回されることなく、自分がどんな気持ちなのかどんな期待を持っているのかを自分がちゃんとわかってあげるところから始めていきます。

 

もっと詳しい内容は対人関係療法導入前の個別ガイダンスで説明していきますね。

摂食障害の一般外来でも面接の中で少しずつ説明していきます。

治療を希望される方はメールフォームかお電話でお申し込みください。

 

 

ところで、Bさんに「ご主人が完璧に食器を洗ってくれるようになったら納得できそうですか?」と尋ねたことがあるのですが、その時Bさんは「他のことが気になりだすと思う」とおっしゃいました。

 

「摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語」の中に、食べ物や体型へのとらわれは、本当の問題を隠す目くらましですということが書いてあります。

本当の問題に向き合うより、食べ物や体型をコントロールする方がわかりやすいし、より簡単に感じられるからです。

Bさんがご主人の食器の洗い方にこだわっていたのは、自分が大切にされたい(でもそれを伝えてもうまくいかないかもしれない)という気持ちに向き合うことから目をそらすための目くらましだったのかもしれないですね。

 

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