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発達障害特性とトラウマと適応障害

[2023.02.27]

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」や「急性ストレス障害」などの「トラウマ関連障害」と、「適応障害」などの「ストレス関連障害」は、出来事基準によって区別されます。

 

たとえば、「実際に、または、危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける」などの出来事は、DSM-5では「心的外傷的出来事(traumatic events)」とされ、通常のストレス因と区別されています。

 

トラウマ関連障害とストレス関連障害

「心的外傷的出来事(traumatic events)」への曝露によって発症するのが、「急性ストレス障害」と「心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder:PTSD)」です。

「急性ストレス障害」と「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」はともに、「侵入(再体験)症状」「回避症状(急性ストレス障害では回避努力)」「覚醒症状」「気分と認知の陰性変化」「解離症状」と症状はほぼ同じですが、「急性ストレス障害」は症状の持続期間が3日〜1ヶ月で、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」は症状および障害が1ヶ月以上持続している場合に診断されます。

 

一方、「心的外傷的出来事(traumatic events)」の基準を満たさない出来事によって、情緒面または行動面の症状が引き起こされた状態は「適応障害」と診断されます。

 

心的外傷的出来事の基準(基準A)を満たさないその他のストレス因に反応して、情緒面または行動面の症状が出現する精神疾患が適応障害である。

精神症状は、抑うつ気分、不安、素行の障害と多岐にわたるが、症状が一定の期間持続し一定の重症度であり、うつ病、不安症、反抗挑発症(Oppositional Defiant Disorder:ODD)など特定の精神疾患の診断基準を満たしたら、診断は変更される。

ストレス因の始まりから3ヶ月以内の発症、ストレス因の終結後に症状が6ヶ月以上持続しないことが適応障害の期間の基準である。

(中略)

ここで診断上の注意が必要なのは、適応障害とPTSDとの区別で、基準Aを満たすストレス因への反応がPTSDの基準を満たさない場合と、基準Aを満たさないストレス因への反応でPTSD症状の基準を満たす場合、いずれも適応障害と診断されることである。

さらに、適応障害は期間で診断が制限されるが、ストレス因から3ヶ月を超えた遅延発症、ストレス因の終結後症状が6ヶ月を超えた場合には、他の特定される心的外傷およびストレス因関連障害に類適応障害として分類される。

桑原. ASとトラウマ. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

容易に診断されるきらいがある「適応障害」は、ストレス因への曝露から3ヶ月以内に発症し、ストレス因の終結から6ヶ月以上持続しない、と定義されています。

 

「心的外傷的出来事」に該当しない出来事によってPTSD様の症状を呈する場合も、「心的外傷的出来事」を体験してもPTSDの症状基準を満たさない場合も、いずれも「適応障害」と診断されるということです。

 

それらの症状が6ヶ月を超えて遷延する「類適応障害」は、『複雑性PTSDと解離』で触れた「依存症や発達障害特性、パーソナリティの問題を含めて検討する必要がある場合」に相当します。

 

発達障害特性とPTSD類似症状

発達障害特性を持つ人は、日常的なトラウマ体験(「心的外傷的出来事」に該当しない体験)によってPTSD類似症状を発症することがあることもよく知られています。

そのような理由で、ASDの人やAS特性を持った人は「トラウマ関連障害(PTSDや複雑性PTSD)ではないか?」と考える傾向があるのかもしれません。

 

ASDの人やAS特性を持った人が以下のような状態を呈した場合、「トラウマ関連障害(PTSDや複雑性PTSD)」と間違われやすいのです。

 

具体的には幼少期のいじめ体験(暴言が主で、身体的暴力は伴わない)や職場の上司の叱責など、基準Aを満たさない程度のストレス因への曝露から10〜20年間にわたり、侵入症状(フラッシュバックほど明確に体験されるわけではないが、反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶を認めることが多い)と回避症状(学校や職場の回避による、社会適応の低下や、結果としての長期間の引きこもり)、陰性気分(学校や職場のせいで人生が破綻したという持続的でゆがんだ認識、学校や職場は危険だという過剰に否定的な信念)、覚醒症状(時に攻撃的行動を認める、他者をいつも警戒している)を認めるケースが思い出される。

桑原. ASとトラウマ. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

上記で記述された症状だけを読むと、ほとんどの精神科医や臨床心理士が、「PTSDあるいは複雑性PTSDではないか?」と早合点してしまいそうな内容ですよね。

 

医療機関やカウンセリングなどでPTSDや複雑性PTSDと言われた人は、症状を診断尺度や評価尺度によって診断されたのかどうかを振り返ってみてください。

このような誤診(?)が起きるのは、本来、客観的に診断しなければならないトラウマ関連疾患を、症状を吟味することなく、さらに診断尺度や評価尺度を用いず、主観のみで判断してしまう臨床の在り方が問題のようです。

 

上記で説明されている出来事(いじめや叱責)は「心的外傷的出来事」に該当しませんから、PTSD様あるいは複雑性PTSD様の症状があったとしても、「適応障害(6ヶ月以上遷延すれば類適応障害)」と診断されるのです。

 

トラウマ関連障害の疾患イメージ:機能障害

実際、PTSDや複雑性PTSDの診断については、精神科医の中でも曖昧な理解にとどまっていらっしゃる先生方も多くいらっしゃるのが現状です。

精神科臨床の現場では、出来事基準だけ、あるいは症状の一部だけによる安易なPTSDや複雑性PTSDの診断がまかり通ってしまっているのが、残念ですが現実なのです。

 

PTSDや複雑性PTSDの診断には出来事基準によって引き起こされたPTSD症状に加えて、機能障害が認められることが必須です。

複雑性PTSDの場合は、これに「自己組織化の障害」が加わります。

「心的外傷的出来事」だけ、あるいは「PTSD症状(侵入症状・回避症状・過覚醒症状)」の一部だけでは、PTSDあるいは複雑性PTSDとは診断されないのです。

 

心的外傷的出来事+PTSD症状(+自己組織化障害症状)+機能障害=PTSD(複雑性PTSD)

 

心的外傷的出来事に該当しない出来事により引き起こされた「適応障害」や「類適応障害」も、診断する上では症状に加えて「機能障害」を伴うことが必要不可欠です。

 

筆者は、ASDの中核症状である限定された反復的な行動様式(Restricted and Repetitive Behavior:RRB)と関連した脳機能が、ストレス因の認識を歪め、危うく死ぬ、重症を負う、性暴力を受ける出来事と同様の心的外傷的出来事(traumatic events)として体験されているのではないかと推測している。

(中略)

筆者は、このような状態を他の特定される心的外傷およびストレス因関連障害(基準Aを満たさないストレス因への反応でPTSDの基準を満たし、ストレス因の終結後症状が6カ月を超えた病状)として検討する価値があると考えており、この病状がASDに特異的に(高い比率で)出現するのであればその機序をASDとの関連で検討し、治療法を探索できるのではないかと思う。

桑原. ASとトラウマ. in 『おとなの自閉スペクトラム』金剛出版

 

ASDあるいはAS特性に伴う認知の歪みは、「反復的な行動様式」と関連している可能性があり、このことは、フラッシュバックに似た「反芻思考にともなうタイムスリップ現象」とも関連がありそうです。

 

あるいは、ASDやAS特性をもった人では、「あたかも正常に見える人格部分(ANP)」の機能が乏しく生活上の出来事に圧倒されることがあり、生活上のさまざまな活動に対して複数のANPと複数の「情動的な人格部分(EP)」が現れます。

 

それに加えて、SDやAS特性をもった人では、自我対向(自己/対象関係)や時間的一貫性が成立しないことも、ストレス因の認識を歪めることに関与しているのかもしれないと考えています。

このことはいつか、ASDやAS特性と解離の話で解説することを考えています。

 

一方、「適応障害」の治療方針は、情緒面または行動面の症状が引き起こしたストレス因の除去・解消が根本的な治療になります。

 

根本的な治療となるストレス因の除去に関連して、「学校や職場がストレス因になっている場合には、学校・職場を欠席すれば、抑うつ気分・不安などの精神症状は改善するが、学校・職場を欠席することで教育・就労の機会を失うことになり、長期化すると留年や無職が新たなストレス因になることもある」と言われます。

 

しかし同時に、安易な休職や休学指示は取り返しのつかないことになるリスクが大きいですから、休職や休学の判断はそのメリットが認められる場合にのみ選択する慎重な判断が必要ということです。

 

院長

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