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気分変調性障害の精神病理

[2015.11.02]

三田こころの健康クリニックで対人関係療法を導入する際に、クロニンジャーの「気質」と「性格」を検査することがありますよね。

「気質」のうち「新奇性追求」は心のアクセル、「損害回避」は心のブレーキ、そして対人希求性である「報酬依存」はクラッチに喩えられます。

 

対人希求性に関連して『アタッチメント神話の行方』で、アタッチメントシステムは母親に働きかけて、母親を敏感にさせる子ども側の力の方が重要ということを書きました。

「だれかにかまわれたい、理解されたい」と承認欲求が作動したとき、愛着希求に関係するのが「新奇性追求」と「報酬依存」です。

しかし、養育者が情動調律することもなく、無視されたり、誤解されたり、叱責され続けたりすると、脳は調節回路に強くブレーキをかけます。
このブレーキの強さを決めるのが「損害回避」です。

他者から無視されたり、叱責されるなど、混乱したシグナルでリアルタイムで苦痛を自覚できなくても、心身は萎縮し、この感覚は「恥」として経験されます。

生存のためには、「親は信頼できない。いつ捨てられるかわからない」と思うよりも、「自分が悪い」と思う方が安全に感じられます。
子どもは愛着対象に対して「危険で信頼できない、頼ってはいけない」と思うのではなく、「自分には欠陥があるからこのような仕打ちを受けるのだ」と納得したいのです。こうして、子どもは「恥」のシステムが生み出す「安全と安心の幻影」に守られて、正気を保つことができるのです。
シーゲル『脳をみる心、心をみる脳』星和書店

 

「自分は人間としてどこか欠けている」という感じ方』で触れた気分変調性障害の「基底欠損」の起源がここにあるようです。

 

隠れた「恥の感覚」が「自分には欠陥がある」という信念と結びつき、がむしゃらに自分の欠陥のなさを証明しようとしても、脳は「おまえには欠陥がある」とささやき続けます。

幼いころから深く刻み込まれたネガティブな信念は、ささいなストレスや失敗で表面化してしまうため、他者を遠ざけておくために他者の言動に敏感になります。
暗い過去を隠し、自分がダメな人間であることがばれないように。
社会的なペルソナに隠されたほんとうの自分にだれかが近づけば、自分は傷つくことになるかもしれない、自分の欠陥に気づかれるかもしれない……そんな怖れから、だれかと親密な関係になるのは二の次になってしまいます。
シーゲル『脳をみる心、心をみる脳』星和書店

このような状態であれば「自己志向」も「協調性」も低いままですよね。

 

「自分は傷つくかもしれない」「自分の欠陥に気づかれるかもしれない」と自分の評価が下がる「かもしれない評価」を気にするのが「気分変調性障害」の「自己志向」「協調性」の低さであり、葛藤を欠く「無力型気分変調症」との鑑別点になるのです。

 

また自分のダメさ加減がばれるのではないか、という「気分変調性障害」の中核症状の1つである「評価への過敏性(対人関係過敏)」は、想像上の隊手が自分をどうみているかということをその都度、想像の中で思い描いている、ということが起きています。

 

「過食症」や「むちゃ食い障害(過食性障害)」でも、自分の価値を下げそうな評価を怖れる「評価への過敏性」として治療焦点にしますよね。

 

人目が気になるなど「見られている感」が強い人は、自分を「見られている側」と認識していますから、「能動的にただ見る」というマインドフルネスで「自分が見ている」という「見る側」の主体を培っていくことで他者の評価に自分を委ねてしまう受動感は減ってきます。

 

これが三田こころの健康クリニックで気分変調性障害の対人関係療法のときに「気分変調性障害の症状に気づく」課題とともに強調している「症状に力を与えない」というやり方の1つなのです。

この方法は、決まったやり方ではなく、患者さんに応じてアレンジが必要な部分がありますから、直接指導を受けてくださいね。

院長

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