摂食障害から回復するために心の健康な部分を使う
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』は、摂食障害から回復されたキャロリン・コンスティンさんとグエン・シューベルト・グラブさんの2人が、かつての摂食障害の患者としての視点と、現在の治療者としての視点の2つの視点から摂食障害からの回復までのガイドブックですから、すごく役に立ちます。
著者の一人であるグエンさんは、摂食障害の行動につながる自分の心の動きについて振り返っていらっしゃいました。
また、もともとあった、何事も自分の内に秘めておくという性格は、摂食障害の行動が再燃したり、ぶり返したときには、それをごまかそうとする不誠実さとなって機能しました。
そうした誰にも話していない行動は、害はないとか役に立っているなどと自分に都合よく解釈していましたが、実際には私に身動きを取れなくさせているだけだったのでした。
(中略)
回復への動機の段階ごとの質問に答えてみると、症状が再燃するときには必ず、始めに何か辛い体験があって、それに伴って辛い感情が表出し、しかもその感情について誰にも話していない、という点に気がつきました。
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』
それでも私が周りの人に自分の気持ちを話そうとしなかった理由はただひとつで、他の人に話せば、そうした気持ちをしっかり感じざるを得なくなり、自分の弱さをさらけ出しているような気持ちになるからです。
(中略)
食べものを制限することも、強迫的に運動することも、自分の弱さを周囲に見せないための方法の一つでした。
繰り返し摂食障害行動に振り回される過程で、この問題に気づいてみると、奥底にある未知のものへの恐怖、根本の存在自体が脅かされる感覚、何としても状況をもっとコントロールしなければという焦りといったものを誰にも話さないでいることで、摂食障害をむしろひどくして、抱え込む条件を自ら整えていることに気がつきました。
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』
グエンさんは自分の心と向き合うことを強調されていますよね。
対人関係療法では、グエンさんが述べているように「出来事」と「気持ち」、「症状」の関係を見ていきます。
そして病気や症状を維持させている要因の一つが「評価への過敏性」であり、治療焦点としますよね。
グエンさんの感じ方は「気分変調性障害」の人の感じ方に似ています。
しかし、考えてみれば、患者さんは「力強くなった」のではなく、もともと強かったのです。気分変調性障害という苦しい病気と共に長年生きてきたということそのものが、その人の強さです。
その力が、気分変調性障害という病気と人格が混同される中で、すっかり見えなくなっていたのです。
水島広子『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』創元社
さらに「病気と人格を区別する」という言い方で、対人関係療法では病気の部分と健康な部分を区別します。
患者さんはたしかに病気ですが、健康に育っているところもたくさんあります。
治療は患者さんの健康な部分の助けを借りなければ効果的に進めていけません。
『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』
この本でもクライエントさんの一人は
摂食障害の部分と健康な部分を区別できる力は、回復していく過程で、病気と闘い、癒しを得るためにとても大切なものです。
しかし、この考え方を初めて聞いたときには、ひどい怒りと抵抗を感じました。
摂食障害を自分そのものと感じているうちは、自分が一つにまとまっているような安心感があったのに、この考え方は、それを見事に打ち崩すものでした。
しかし、自分の中にふたつの部分があると認めることで、私には選択の余地があるということに気づかされました。
つまり、摂食障害の行動に縛られて言いなりになり続ける必要はなく、もう一つの部分があるのだから、そうしようと思えば別の振る舞い方を選べるはずだということです。
はじめは、この選択の余地があるということに恐怖を覚えました。
というのは、健康な部分を摂食障害の部分から区別すると、自分の存在そのもの、あるいは少なくともそのときには「自分」だと思っていたものを失ってしまうように思えたからです。
でも、皮肉にも、今ではこの考え方こそが、私が回復するための基盤になっています。
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』
と「自分の選択に自覚と責任を持つ」ことの重要性を話されています。
このように自分の心と向き合うというプロセスが、摂食障害から回復するためには必要になるのです。
グエンさんが書かれているように、自分と向き合おうとすると自分に都合のいい解釈だとか、向き合いたくない気持ちだとか、無意識的に「病気は良くない」というジャッジメントが忍び込んでしまう可能性があります。
ジャッジメントしてしまうと、抑圧された感情は大きくなるのと同様に、不安や過食症状は、ますます強くなる可能性があります。
対人関係療法では、症状につながった出来事と気持ちを振り返っていきますが
対人関係のストレスが軽くなり、自分のコミュニケーションにどうにか自信がついて、まず精神的に楽になります。
その後、だんだんと食行動が正常化してきます。
『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』
対人関係療法による過食症の治療では、まず、過食につながる対人関係上の出来事が減ってきます。
しかし「その後、だんだんと」の段階、つまり対人関係療法の中盤以降になると、頭の中で繰り広げられる「摂食障害のおしゃべり」にどう向き合うか、「自分の選択に自覚を持つ」という気づき(アウェアネス)を培うことが必要になってくるのです。
このことは、また詳しくみていきましょう。
院長