母親と娘の摂食障害との関係
新型コロナウイルス感染症の影響で、外出自粛要請や緊急事態宣言で、在宅勤務やテレワークが推奨され、普段家に居ないはずのご主人が家にいらっしゃるだけで、なんとなく息が詰まるような感覚を感じていらっしゃるお母さん方も多いのではないでしょうか。
おまけに摂食障害のお子さんをお持ちのお母さん方は、過ごす時間が増えたことで、どう対処したらわからないと途方に暮れたりしているかもしれません。
日本摂食障害協会のHPで摂食障害をお持ちの方と同居されているご家族は、普段以上に一緒に過ごす時間が増えるので、家族自身も自分の時間割を作り、無理のないように過ごすことを勧められています。
一方、摂食障害の娘さんは、病気が進行するにつれて、極端で実現不可能な目標を立てることが増え、目標が達成できなければすべて失敗だと考える「べき思考」「白黒思考」が強くなる一方で、「摂食障害のお蔭で私は特別でいられる」「拒食症は苦しみを周りの人に伝えてくれる」など、病気に対する肯定的な考えが生じます。
『モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』には、「どのタイプの摂食障害であろうと、家族の対応は似たようなものになります。好ましい対応と好ましくない対応が入り混じったものになるのです」と、援助者(サポーター)である家族との対人関係要因によって、摂食障害が維持されてしまうことに注意を促し、サポーターである家族の自動操縦反応を変えていくことを勧めています。
しかし残念ながら、家族が症状を「軽減させ」ようとすることは、かえって問題を大きくしたり膠着する方向に働いてしまう。その結果、本人の疎外感は強まり、ますます摂食障害の行動へと走ることもある。
トレジャー、他『モーズレイ摂食障害支援マニュアル』金剛出版
摂食障害のわが子に対して、落ち着かせたり、子どものために生活を変えたりすることで、生活の大部分が摂食障害のことで占められ、摂食障害行動が維持されてしまいます。
あるいは、摂食障害行動にともなう衝突を減らすために、過食の片づけや嘔吐後のトイレの問題に取り組み、もっと食べ物を買ってあげることで、摂食障害行動が維持されてしまうのです。
過度に感情的になったり、反対にほとんど感情を示さなかったり、あるいは、過度に指示的になったり、援助者や家族が被る影響を度外視して患者さんのために何でもしてあげようとするような対応に陥ってしまいます。
もしあなたが適切なバランスを保てないなら、容易に落とし穴にはまってしまい、その結果、摂食障害を維持させてしまうことになります。
トレジャー、他『モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』新水社
対応の仕方によっては、娘さんの摂食障害を維持してしまうことになりかねないとしても、「家族が原因ではない」、娘さんの摂食障害症状は「周囲の人の感情反応の影響を受けてそれが維持因子になっている」という正しい理解が必要になります。
摂食障害の原因は誰にもわからない。
家族が原因であるという証拠はなく、小さな遺伝的リスクがあるとも考えられるが、親がどうこうできるものではない。
このため、罪悪感や自責の念を抱いたところでどうしようもなく、そのような感情自体が適切なものではない。
しかし、自然的研究では、摂食障害の転機は、維持因子として機能する身近な者たちの感情反応の影響を受けていることを示す証拠が得られている。
家族一人一人が、摂食障害の行動に応じてそれに対する反応のパターンを変えることが必要になることが多い。
トレジャー、他『モーズレイ摂食障害支援マニュアル』金剛出版
ご家族が、摂食障害の娘さんのことに対して「罪悪感や自責の念を抱いたところでどうしようもない」のです。それでは何も変わらないどころか、ますます悪循環を生み出してしまいます。
「周囲の人の感情反応」が娘さんの摂食障害の維持因子になっているので、娘さんの摂食障害行動に対する反応の仕方を変えていく必要がありますよね。そのために、家族が、自らの特有な感情反応についてじっくりと振り返ることに取り組んでいく必要があるのです。
援助者であるあなた自身が、自分のことを大事にしているお手本を見せてあげましょう。
(中略)
摂食障害に当てはめて言えば、これは、大切な人に最大のサポートを提供するためには、まずあなた自身が助けを求めてください、ということになります。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
これが『相手は変えられない、ならば自分が変わればいい』ということなのです。
ちなみに、この本は互恵的な対等の関係である夫婦・パートナー関係を扱っていますから、もし摂食障害の配偶者やパートナーをお持ちの方であれば、役に立つかもしれません。
モーズレイ・モデルでは、ご家族の反応のタイプを、過保護で強迫的なカンガルー、感情をほとんど表さず回避的なダチョウ、感情的になりすぎるクラゲ、責任感過剰で指示的すぎるサイ、など、動物になぞらえて説明してありますよね。
この反応のタイプはどれか一つが当てはまる場合も、すべてを持っている場合もありますので、ご家族は自分はどれとどれに当てはまるのか、考えながら読んでみてくださいね。
院長