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摂食障害の誤解や偏見を越えて

[2020.01.14]

ミュゼプラチナムと日本摂食障害協会が共同で行った「摂食障害に対する一般女性の認識調査」があります。

 

その結果を見ると、摂食障害の原因がダイエットであると考えている人が7割、拒食や過食を本人の意思の問題だと思う人の割合が全体の約3割など、摂食障害に対して誤解や偏見を持っている人が多くいたことが発表されています。

 

その他にも「摂食障害は母親の育て方が原因だと思う」「過食症の過食は強い意志があればやめられる」などの誤解や偏見は、インターネットをよく見る人の方が高いことが示されていました。

 

一番驚いたのは、専門家の書いた本や講演を見聞きしたことが「まったくない」「少しある」「よくある」の順で、「母親の育て方が原因」という誤解や偏見が高まっていたというデータです。

いまだに「母親の育て方が原因」と言ってはばからない自称・専門家(?)がいらっしゃることに唖然としてしまいます。

 

ジェニーさんもそのような「摂食障害治療の第一人者」と遭遇したことを書かれていますよね。

  

その医師は、摂食障害の治療では第一人者だ、と聞いていました。ベテランの医師で、今は有名な病院で摂食障害専門治療の医長を務めているという話でした。
(中略)
初めてその先生の診察室に足を踏み入れたときに、この先生が私に向けて言った言葉は、「君は、摂食障害には見えないなあ」という最悪のものでした。
(中略)
第一、その医師の診察を受けたとき、私は体重も含めて、摂食障害、拒食タイプの診断基準をすべて満たしていました。それでもその専門医にとっては、拒食症と言えるほどには十分に痩せてはいなかったようです。
(中略)
第二に、これはとても大切なことですが、摂食障害と診断されるために必要な、特定の体つきや外見などというものはありません。

摂食障害は、人種、年齢、背の高さ、体重とは関係なく、男性でも女性でも誰にでも起こりうる病気なのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

過食や過食嘔吐の治療を希望して、こころの健康クリニックの対人関係療法外来を受診される患者さんたちの中にも、ジェニーさんが体験したような経験をお持ちの方が何人もいらっしゃいます。

 

ジェニーさんが診療を受けた医師の心の内を推測してみると、一つには患者さんを安心させようという思いもあるのかもしれません。あるいは、医師自身が安心するために、この患者さんは重症ではないと言い聞かせているだけなのかもしれませんね。

 

過食症やむちゃ食い症に対して、ほとんどの精神科医が抗うつ薬やバルプロ酸などの気分安定薬、あるいは抗精神病薬や抗不安薬を処方しますよね。場合によっては大量のサプリメントを出すところもあります

 

感情を麻痺させたり、感情を感じないようにする過食や、感情や過食をなかったことにする嘔吐のように、食べ物や食行動で心の問題を解決しようとする摂食障害症状と、薬を使って心の問題を解決しようとする行為は、同じことのように感じられてしまいます。 

 

一般的に摂食障害に対する精神療法を行う場合、拒食における完全制御的な食行動や過食嘔吐を嗜癖行為と捉えると、嗜癖という痛みある情動を鎮める手段を保持している間は、メンタライジングという真の不安や生きづらさに直面するような作業に動機づけしにくい側面がある。

崔炯仁. 摂食障害とメンタライゼーション——外傷的育ちの生きづらさに光を届ける. こころの科学209: 58-63, 2020

 

心療内科への通院を決めた理由」で「心療内科や精神科などで処方されたお薬を飲み続けている人に良くなった人を見たことがなかった」とAkoさんが書かれているとおりですね。

 

Akoさんも書いていらっしゃるように、「心の病気。。。?私がそんなわけないし!友達だって、彼氏だっていて元気に日常生活も送っている、と認めたくない自分がいた」のように、現状に対する否認によって、過食や過食嘔吐の人は治療への一歩を踏み出すことをためらってしまいますよね。

 

多くの人は、摂食障害に苦しんでいるとしても、自分は摂食障害と言えるほど重症ではないのではないかと感じて、なかなか受診しようとしません。

しかし、実際に私のグループセラピーの参加者の中でも、一番身体的に危ない状態の人たちは、標準体重の人たち、ということもよくありました。

思い返してみれば、私の摂食障害症状が実際に一番ひどかったのは、極端に痩せていた時期よりも、むしろ体重が「普通」に戻っていた時期でした。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

病気かどうかはほんとうはそんなに大切なことではないのです。

Tamikoさんが『【治療記録1】治療を受けようと思ったきっかけ』や『【治療記録2】過食症と診断された!』で書かれているように、今の状態がこれからも続くことと、自分がほんとうに望んでいる生き方ができているのかどうかを振り返ってみてください。

 

自分の力で治すのは難しい」でAkoさんが書かれている「ある時、私のしている行動が尋常ではないとても恐ろしい力に支配されてしまっていることにハッとしました。もう自分自身の力で私をコントロールすることが完全に出来なくなっていると気づいたのです」このような瞬間こそ、摂食障害から回復するチャンスだということです。

 

このような時に、過食や過食嘔吐で自分の心をごまかしたり感じなかったことにしたりせずに、自分に正直になり、「行動変容の動機づけ」を高めて(『8つの秘訣』P.24〜)、摂食障害から自分の人生を取り戻すためのはじめの一歩を踏み出してくださいね。 

 

院長

 

※お知らせ

摂食障害専門外来』で紹介していただいている三田こころの健康クリニック新宿は、2019年6月に芝大門に移転し、こころの健康クリニック芝大門としてリニューアルしました。新宿御苑前の跡地に居抜きで入ったクリニックとは何の関連もありませんし、暖簾分けもしていませんので、お間違えのないようにお願いします。

こころの健康クリニック芝大門では、2020年4月から摂食障害の治療専門の女医さんに来ていただき、摂食障害の一般外来を始める予定です。

摂食障害の一般外来では、ワークブックを用いた摂食障害に対する心理教育的学習や、セルフ・モニタリングで生活リズムをととのえて症状軽減を試みるなど、対人関係療法による治療を導入する前にモチベーションを高め、維持していく治療を行います。 

こころの健康クリニック芝大門のHPであらためてお知らせしますので、お楽しみに。

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