摂食障害の言いなりになるか?吐かないことを選ぶか?
スウェーデンのエーレブルー大学から、17〜25歳の青年期の「神経やせ症」(平均BMI: 16.44)に対して、摂食障害に対する認知行動療法とモーズレイモデルに基づく家族ベースの治療を行った場合の、予後の予測因子を調べた研究が発表されています。
家族ベースの治療は、家族間の機能や家族との関係に焦点を当てる治療です。(『家族の力で拒食を乗り越える』参照)
神経性やせ症に対する家族ベースの治療では、「内界への気づき」の欠如が小さいほど、治療効果が上がったということです。
「内界への気づき」は、自分の思考や感情、身体感覚などに対する自覚と注意制御、あるいはそれらへの対処(身体感覚に注意を向けることで苦痛を調整する能力とか、苦痛を伴う体験を回避しない能力)などの要素からなります。
たしかに対人関係療法での過食症やむちゃ食い症の治療ですんなり治っていく人たちでは、考えや感情、身体感覚など、「内界への気づき」が保たれている方が治療効果が上がることは、臨床経験からも納得がいくところです。
こころの健康クリニックでは、「内界への気づき」困難のために、症状トークばかりが繰り広げられ治療に難渋する摂食障害の患者さんたちにも、対人関係療法の効果を実感してもらうために、心的内界に焦点を当てることを禁じる古典的な対人関係療法の制限を超えることを決断したのです。(『青年期から成人期の過食や過食嘔吐の治療』参照)
そして、「人の心の仕組みと動き方を知る」心理教育とともに、「セルフモニタリング」による「内界への気づき」困難への対処、「怒りや不安との向き合い方」などの感情調節障害への対処を、「自分自身との関係を改善する」「行動の仕方を変えていく」プロセスとして対人関係療法に拡大適用したのです。
このやり方にピッタリと合致していたのが『8つの秘訣』だったのです。
これらのモジュールを組み込むことによって、対人関係療法による過食症の治療効果が上がるようになってきたのでした。
ブレスレットに刻まれている文字を見ながら、私に言いました。
「自分に正直になる」と。
「私は、偽りたくない。自分に正直でありたい」とヘザーは続けました。この言葉は、彼女の大好きな先生がいつも口にする言葉で、ヘザーが回復への道を進んでいくことを応援するために、その先生が彼女にプレゼントしてくれた素敵な言葉だったのです。
「私が受診するたびに、先生が声をかけてくれるの。自分に正直に、偽らないで、って。自分に正直でいられたら、きっと私は回復できると言ってくれるの。エドを置き去りにできるってね」
「じゃあ、自分に正直であるためには、今夜は何をしないといけないと思う?」と私はヘザーに尋ねました。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
摂食障害のまっただ中では、「自分に正直になるってどんなことなのかよくわからない」という人がほとんどだと思います。
過食したいから過食をすることが自分の正直な気持ちだと思っていたり、自分の心と向き合うのは辛いから向き合いたくないとか、他者と会いたくないから会わないとか、「自分の(?)の気持ち」に正直(?真に受けて?)に回避的な行動を続けていると、生活はどんどん狭まり、摂食障害症状に費やす時間がますます増えてしまいますよね。
これらは本当に自分の正直な気持ちなのでしょうか?
自分の正直な気持ちかどうかを知るためにはどうしたらいいのでしょうか?
いろんなやり方がありますが、一番簡単なやり方は、「吐きたい」気持ちが高まっている自分に対して、ジェニーさんがヘザーさんに話しているように、「これが他者だったら自分はどんなアドバイスをするだろう?」と考えてみることです。
私たちは、エドがヘザーの人生をどうしようと企んでいるのかということと、ヘザー自身が自分の人生をどうしたいと思っているのかについて、その後もっと話し込みました。
ついにヘザーは、「やめるわ。吐くのをやめる。今日は我慢する。今夜は、エドがこれ以上私の人生を台無しにするのを許せないわ。今夜も、そしてこれからの私の人生でも、吐くことよりもずっと大切なことが山ほどあるもの」と言うことができました。
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
ジェニーさんとヘザーさんは、嘔吐をするかどうかのメリットとデメリットを考えることから、人生をどう生きたいのかという長期的なメリットに話の焦点を移しました。
『8つの秘訣』では「秘訣8 人生の意味と目的を見つける」に相当しますよね。
こころの健康クリニックでは、クロニンジャーの「自己志向」の説明で、「自己受容」とともに「人生の価値や目的の創造」「価値や目的に沿った行動」と説明していますよね。
(ちなみに、ある本ではクロニンジャーの「自己志向」を、誤って自尊心と説明されていますので、注意してくださいね)
その晩、ヘザーは、自分で吐かないことを選びました。
吐きたいという強い衝動から、少し立ち止まって考えてみることができ、自分自身の考えをエドから引き離すことができたのです。
ヘザーは、エドがこれまでどのような嘘をついてきたのかを思い返してみて、今回もエドが自分のことを操作しようとしているのだと、最終的に悟ることができました。
ヘザーは、あえて困難な道の方を選んだのです。
電話をした私に嘘をついて急いで電話を切り、エドの言うとおりにする方が、どれほど簡単なことだったでしょう。
でもヘザーは自分自身に正直になることを選びました。
あなただったらどうでしょうか。どちらを選ぶでしょうか?
シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店
ヘザーさんのように「吐かない」ことを選ぶと、「体重が増えてしまう!」「太ってしまう!」など摂食障害(エド)の声が大きくなってしまうという短期的なデメリットがあります。
(『嘔吐をやめると体重はどうなるのか?』や「No.23 摂食障害と3人の回復者」を参照してください)
しかし、摂食障害(エド)からの解放という長期的なメリットを考えると、明らかに「吐かない」ことを選んだ方が、短期的なデメリットよりも大きいことは明らかですよね。
だからこそ、ヘザーさんがジェニーさんに助けを求めたように、こういうときこそ「摂食障害にではなく人々に助けを求める」必要があるのですよね。
さて、こんなとき、「吐きたい」衝動が高まったとき、皆さんはどうしますか?
摂食障害(エド)の言いなりになるか、自分の心に正直になって吐かないことを選ぶか。
そして、1年後の自分はどうしているでしょう?食べ吐きを続けていますか?それとも摂食障害(エド)とはキッパリと縁を切っているでしょうか?
3年後、5年後の自分はどうでしょう?どんな生活をしていますか?自分の人生の目的(ライフ・ゴール)に沿った充実した生き方ができていますか?
自分でも「衝動の波に乗り」ながら、心に聴いてみてくださいね。
院長
※2019年のブログはこれで終了です。2020年は1月6日に更新しますのでお楽しみに。
今年も多くの人に読んでいただき、ありがとうございました。