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摂食障害の自己中心性から抜け出す

[2020.08.24]

先日、対人関係療法による治療の中で、ある患者さんがこうおっしゃいました。

摂食障害の考えを手放して、自分に優しくしてしまったら、私は手に負えないほど自己中心的でわがままな人間になってしまいそうな気がします。

このブログを読んでくださっている方の中にも、同じように感じている方がいらっしゃるかもしれませんね。

もしかすると、その考えは摂食障害思考(エド)のものなのかもしれません。

 

エドは、摂食障害から回復したいと考えること自体、身勝手だと何度でもあなたにささやきかけてくることでしょう。

実際は、回復することではなく、エドこそが身勝手さの縮図なのです。

自分の欲を満たすためなら、嘘をついたり、ごまかしたり、盗みにまで手を出したりするのは、実はエドなのです。

他の人の気持ちなどは無視して、自分の目標だけを達成させようとするのは、エドなのです。

他の人をみんな犠牲にしてまで、自分の欲望だけを必ず最優先にするのは、いつでもエドなのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんの血を吐くような(と私には感じられる)言葉の裏に、エドに対する悔しさとジェニーさん自身の苦悩が伝わってくるようです。

 

ジェニーさんは、エドは狡猾で理不尽で、さらにエド中心的だと怒りを顕わにしていますよね。

その一例として、摂食障害の合併症の一つである骨粗鬆症がわかったときのことが書かれています。

 

自分の骨がいかにもろい状態になっているのかを自覚して、先々に待ち受けているかもしれない運命を思うと、まず、自分に対して怒りがこみあげてきました。

「どうして自分をもっと大切にしなかったのかしら。強い骨の家系のはずなのに、自分で骨を傷めてしまったんだわ。どうしてこんなに何年間も拒食し続けて、必要な栄養を身体にあげてこなかったのかしら」と。

でも、はたと気がつきました。

こうした質問は私自身にではなくエドにするべきです。
身体を傷めるように行動させたのは、エドです。痩せているのは何よりも重要だと考えていたのはエドです。明らかに、エドは痩せていることの方が骨よりも大事だと考えていました。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんはエド(摂食障害思考)の特徴を、批判的と言っています。

エドはまさに、身勝手でワガママで強引で傲慢な自己中心的な考えの集まりのようです。
(『摂食障害思考と自己批判』参照)

 

治療を始めたばかりの頃は、ジェニーさんと同じように、摂食障害の部分(エド)が大きいため、それが本当の自分自身の考えだと思い込んでいます。

ですからまず、自分の心をよくふり返ってみて、健康な部分と摂食障害の部分を区別することから始めるのです。

 

摂食障害から自分を切り離せるようになって、摂食障害の思考や感情や信念と自分とを区別できるようになってきたら、次はあなた自身の姿勢をはっきりと打ち出す段階です。

摂食障害があなたに何をするようにと伝えてきているかに耳を澄まして、まずそれをしっかりと聞き取って、それから拒否するのです!

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

この時期のジェニーさんはエドに対して、痛烈な対決姿勢で臨んでいますよね。

8つの秘訣』での摂食障害の部分(エド)との対話では、健康な部分(本当の自分)の意見を選択することで終わることが多いですよね。

 

こころの健康クリニックで行っている摂食障害(過食症・むちゃ食い症)の対人関係療法による治療では、自分自身との関係に使う自己内対話と、非暴力コミュニケーションの2種類の自己内対話の仕方を教えています。

もちろん、自分自身との関係に使う自己内対話も、対人関係の振り返りにも実際のコミュニケーションにも使えます。

 

たとえば、こんな感じです。

○「摂⾷障害の部分(エド)」に対する共感
 ・そういう考え方もあるのね。

○別の受け⽌め⽅
 ・私(健康な部分)は、○○を△△と感じている。

○「摂⾷障害の部分(エド)」に対する悪循環の指摘
 ・それだと「エド(摂⾷障害の部分)」も⾟くなると思うし、損だと思う。

○提案(期待を明確にする)
 ・私(健康な部分)は、○○は◇◇になって欲しいと思っている。
 ・そのために□□してみよう。

 

非暴力コミュニケーションでは、こんな感じになります。

○私は何を観察しているのだろうか?何が起きたのか?
(出来事を具体的にふり返る)

○私は何を感じているのだろうか?
 ⾃分の独り⾔が批判的か判断的であるかに気づく。
 (べき思考、推測、⾃⼰否定、反すう)

 もう一人の自分が発する厳しい⾔葉の裏にある感情に⽿を傾ける。

○私は今、何を必要としているのだろうか?
 もう一人の自分の反応を駆り⽴てている、満たされない要求を検証する。
 (期待を明確にする)

○私⾃⾝、あるいは他者に対する要求は何だろうか?
 ⾃分⾃⾝、あるいは他者の要求を満たすもの、必要なものを考える。

 

この非暴力コミュニケーションは、『8つの秘訣』の「衝動の波に乗る」に似ていますよね。

 

このような自己内対話によって自分自身との関係を改善していくことで、エド(摂食障害思考)の自己中心性から、健康な部分の自分中心性、つまり、「自己受容(深い自己肯定感=どんな自分も認める)」し、行動の仕方を変え、自分への優しさを育んでいくことが、過食症やむちゃ食い症からの回復の原動力になるのです。

 

院長

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