メニュー

摂食障害の一般外来について

[2020.12.04]

こころの健康クリニック芝大門には、摂食障害の治療として院長による摂食障害の専門治療(対人関係療法)と、私が担当させていただいている一般外来の二つがあります。

受診を検討されている患者さんの問い合わせでも、この二つの違いに関するご質問が多いようです。今日は、その疑問に少しお答えできればと思っています。

 

こころの健康クリニック芝大門での専門治療をご希望される方は、ホームページ上でも説明している通り、「行動変容を動機づける5段階」のうち準備期まで進んでいることが前提となります。

一方、私が担当する一般外来には様々なステージの患者さんがいらっしゃいます。特に、前熟考期や熟考期、その二つの間で揺れ動いている患者さんがとても多い印象があります。そのため、一般外来ではまず患者さんが今どの段階にいるのかを一緒に確認したうえで、その人に合ったアプローチの仕方でまずは準備期まで進めていくということを目標としています。

 

ここで大切なことは、「その人に合った」という部分です。特に準備期以前の患者さんは、私自身もそうでしたが「治したい(良くなりたい)」という気持ちと「治したくない(このままでいたい)」という相反する二つの気持ちがどちらも同じくらいあると感じていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。一般外来では初診に1時間お取りしていますが、お話を伺っていくとそういった患者さんの本音が見えてきます。例えばこうです。

・自分では病気とは思っていないけれど、親にしつこく病院に行けと言われて仕方なく受診してみた。

・過食嘔吐はやめたくないけれど気分の落ち込みを何とかしてほしい。

・症状を止めたいけれどどうしたらいいか分からない。

・摂食障害が治るなんてとても信じられないけれどこのままではまずいと思うので受診してみた。

・自分は病気ではない、もしくは病気だとしても軽症だと言ってほしい。

 

いずれも前熟考期から熟考期の段階と言えるでしょう。私はまず、この段階で受診を考え、実際に受診してくださった患者さんたちの勇気と行動力に感謝したいと思います。

そのうえで、私が一般外来で大切にしているのは、やはり患者さん本人の真の「主訴」は何なのかということです。その人が今どんなことに困っているのか、なぜ困っているのか、どうなりたいと思っているのかを、むしろ摂食障害をいったん脇に置いて掘り下げてみるのです。

 

なぜなら、「治りたいけど治りたくない」という気持ちの間で揺れ動いている患者さんに対して、「これは回復できる病気ですから一緒に治療していきましょう」と治療者が前のめりになることは患者さんにとっても治療者にとっても得策ではないと思うからです。

ですから、まずは「摂食障害行動」そのものに焦点を当てるのではなく、症状の裏に隠された患者さんの本当の「なりたい姿」を一緒に彫りおこすことから始まるのだと思います。その中で、少しずつ摂食障害の症状は原因ではなく結果であること、自分自身との関係性を改善させることなどを理解してもらえればと考えています。

つまり、前熟考期や熟考期の患者さんに対して一般外来で取り組んでいることは、一言でいえば「今の状態を変えたい(準備期)」という芽が出る前の「土壌づくり」なのかもしれませんね。

 

自分自身のことを振り返ると、私が摂食障害を発症してから治療を受けようと実際に行動を起こすまでにはなんと17年もかかりました。なぜそんなにも長い時間がかかってしまったのでしょうか。

今思い返してみると、受診するまでの私は「この状態を続けているのはしんどいけれど、過食嘔吐は手放せない。」と感じていました。過食嘔吐をやめたいという気持ちもあるけれど、やめたくない。やめられるはずもないと。そうしている間に17年もの年月がたってしまったのでした。

 

けれども、病気を続けながら生きていくことがあまりにしんどく、もう無理だというところまできたことがきっかけで私は初めて受診という決断をしました。ですが、治療を始めた当初は「何とか楽になりたい」という気持ちはあったものの、私の摂食障害が治るということについては全く信じられませんでした。それでもここまでたどり着くことができたのです。

 

ジェニーさんも著書の中でこんな風におっしゃっていますよね。

私は、他のみんなが回復できても自分だけはできないと考えていた時期がありました。自分は特別なケースで、他の人はともかく、自分だけは決してエドから離れられないのだ、と思っていました。だって、こんなに長い間一緒に暮らしてきてしまったからです。覚えているかぎり、エドはずっと私の考えや行動を支配してきました。今さら何かが変わるなんて、とても思えませんでした。

ジェニー・シェーファー、トム・ルートレッジ著 「私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した」より

私もまったく同じでした。そこで私は「治るか治らないか」という問いをいったん脇に置くことにしました。まずは目の前で起こった出来事に対して、私がどう感じたのか。自分に正直になって、今までブラックボックスだった自分の心の中を見てみようと思いました。

この方法は私にとってとても役立ちました。「治るか治らないか」という考えに固執することは、私にとっては不安を増強させるだけだったからです。

 

最後に、一般外来は初診60分、2回目以降は15分(ご希望があれば25分または50分枠もお取りできます。)という予約枠になっています。そこで限られた時間を有効に使うためにおすすめしていることがあります。

一つは治療ノートを用意していただくこと。ここに出来事や気持ち、診察の中で大事だと思ったことなどを書き留めてほしいと思います。二つ目は、診察の前に今日話したいことを考えておいていただくことです。

 

今日はこころの健康クリニック芝大門で行っている摂食障害の一般外来と専門外来の違いについてお話させていただきました。

あなたの中の「なりたい自分」を一緒に彫りおこしてみませんか?

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME