摂食障害と抑うつ
水島先生が『拒食症・過食症の正しい治し方と知識』で
実は、摂食障害の人は、先に気分変調性障害にかかっていて、それをなんとかしようとした結果として摂食障害になることが少なくありません。気分変調性障害による落ち込みや自信のなさが長く続いていて、それが治療すべき病気ではなく「性格の問題」として考えられている場合、「ダイエットをしてやせれば自信がつくのではないか」というふうに考えるようになるのも不思議ではありません。そしてうつ病特有のネガディブな認知により、摂食障害のプロセス自体が加速されていくのです。
水島広子『焦らなくてもいい 拒食症・過食症の正しい治し方と知識』日東書院 p.141
と書いておられるように、摂食障害にはうつ病の併存が多く、またうつ病を合併していなくても、摂食障害では抑うつ状態を呈することがよく見られます。
摂食障害とうつ病が合併した場合には、治療意欲そのものが失われるため、フェアバーンの認知行動療法・拡大版(CBT-E)では合併するうつ病に対して薬物療法が推奨されています。
中でも「摂食障害が晩発(30歳以降など)」は、「摂食障害と女性のライフスタイル」や「さまざまな年齢での摂食障害の発症」でも触れたように、働く女性、既婚女性ではライフスタイルの多様化の一方で、伝統的なジェンダー役割分担との価値観との葛藤、夫婦間の問題や育児の問題など対人関係療法でいうさまざまな「役割の変化」に直面し、そのことが抑うつ状態やうつ病の合併と関係していそうです。
また「CBT-Eの第一段階」は、規則正しい食事のリズムを作るという行動変容を行い、その中で少しずつ「体重や体型、そのコントロールへの過大評価」という認知の歪みを修正していきますから、行動変容が起きなければ、治療が進められない、ということもあるのだそうです。
摂食障害とうつ病などの気分障害は、薬物療法によって摂食障害が改善することもありますし、逆に不安障害やうつ病が改善しても摂食障害が残存することもあります。
摂食障害に対する治療の中心は精神療法ですから、三田こころの健康クリニックで専門に行っている対人関係療法で治療を行うときには、まず、うつ病などの気分障害や不安障害に焦点を当てます。
対人関係療法によってうつ病や不安障害が改善したあとに、摂食障害の治療を始める場合もありますし、逆に、摂食障害が改善しても不安障害が残り(うつ病は改善)、認知行動療法を紹介することもあります。
結局のところ、摂食障害といってもかなりの多様性があるため、どのような臨床的特徴を持った患者にどの治療法が最も良く効くかという鑑別治療学の視点が必要になりますよね。
鑑別治療学については「鑑別治療学1」「鑑別治療学2」を参照して下さいね。
院長