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摂食障害と対人関係とアタッチメント

[2020.03.02]

摂食障害ではさまざまな人間関係の困難が生じます。

モーズレイ・モデルによる『家族のための摂食障害こころのケア』には、養育者のスタイルを動物になぞらえてあります。

 

理屈で説得しようと頑張ってしまうサイ・タイプ、過保護にしすぎるカンガルー・タイプ、感情的になりすぎてしまうクラゲ・タイプ、あるいは、感情をほとんど出さないダチョウ・タイプなど、さまざまなタイプの養育者を説明してあります。

 

子どもは養育者との関係を生き延びるために、軽視/回避型、とらわれ/アンビバレント型、未解決/無秩序・無方向型など、「不安定型」と呼ばれるアタッチメント・スタイルを身につけます。

これらのアタッチメント・スタイルは、関係を生き延びるための適応的な方略なので、毒親の本に書いてあるように、安定型が良くて不安定型が良くないということではないですから注意してくださいね。

 

さらに思春期・青年期から成人期には「同級生・同僚の誕生という社会変化に対し、神経性過食症を含めた摂食障害患者が増加し、その病理も変化(山下. こころの科学209: 42-46, 2020)」します。

 

人間の「食」は、動物とは異なり、食費を手に入れること、食事を準備すること、食事をすることといったあらゆる局面に人間関係の影響がある。

そのため、食の問題は人間関係の問題と絡み合った生きづらさをもたらす。

西園マーハ文. 摂食障害と認知行動療法、ガイデッドセルフヘルプ——baby stepで生きづらさを乗り越える. こころの科学209: 47-51, 2020

 

アタッチメントの動的成熟から考えると、思春期・青年期には養育者である両親との関係は対称性をめぐる争い(反抗期)を迎え、ギブ&テイクの関係ではなくなり、「自分との関係」「二者関係」「集団との関係」の自己固有性(アイデンティティ)の確立がテーマになります。

 

また、成人期初期には「二者関係」が拡張し、恋愛パートナーとの関係性は対称的で互恵的になっていく親密性がテーマになります。

 

ジェニーさんは、対人関係(二者関係)の問題を緩和してくれるクッションとして摂食障害を使っていたようですね。

 

ブレッドの嫉妬深くて支配的な性質に対して感じた怒りをどうにかするために、私はエドを人生の全面に押し出しました。

だから、ブレッドは私の日々の活動を支配できていると感じていたかもしれないけれど、私が何を食べるかまでは支配できていませんでした。

私は、拒食して怒りを追い払おうとしました。食べなければ何も感じません。

逆に、過食して怒りを深く押し込めるときもありました。何か私が動揺するようなことをブレッドがしたときには、状況が許せばすぐにキッチンに行って過食したのをはっきりと覚えています。

(中略)

エドに注意を向けてさえいれば、デートや人間関係を真剣に考えなくて済んだのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが書いているように、摂食障害の症状である拒食は感情を感じないですむように感じられますし、過食は感情を押し込める(麻痺させる)ことに役に立っているようです。

しかしよく考えてみると、ジェニーさんは、サイとクラゲの両方の要素をもつブレッドとの関係に対処するスキルが身についてなかったとも考えられますよね。

 

もう一つ、ジェニーさんのエピソードがあります。

 

スコットと初めてのデートの約束をしていた日、エドは私の心を射止めようとして、スコットが迎えに来る前に過食してはどうかと提案しました。

その晩、私もデートのことで少し緊張していたので、つい過食してしまいました。私はエドの腕の中に戻ってみて、本の少しの間だけど、不安を感じずに済みました。

一度なんて、エドのアドバイスに従って、スコットとのデートを実際にキャンセルして、エドと一晩中一緒に過ごしてしまったこともありました。

好きな人と一緒に出かけて楽しい時間を過ごす代わりに、大嫌いな人と一晩中惨めにのたうち回っているなんて、誰がそんなことをしたいでしょうか。そんな人いませんよね。 

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは初めてのデートで緊張するという、誰しも感じる当たり前の感情を抱えておくことができなかっただけでなく、その緊張とじっくり向き合うことに苦痛を感じ、過食症状を使って、緊張を感じないようにしたようですよね。 

しかしジェニーさんも書いているように、一時的な「感情体験の回避」であったはずの過食は、残念ながら「大嫌いな人と一晩中惨めにのたうち回っている」という大きな代償につながってしまいました。

 

瀧井は、摂食障害の「回避」は、食べることや体重が増加することからの回避だけでなく、自分自身に向き合うことや現実世界、将来などすべてのことからの回避に及ぶことがしばしばあると述べている。

また、米国の精神科医であるキャサリン・J・ゼルベも、摂食障害は人生の困難への一つの対処法であると述べている。

彼女らはそれが病的であると(薄々?)わかりながら、このような対処法に頼らざるを得ないのはなぜだろうか?

ゼルベは、成長の過程で、健康的な対処法やいわゆる「防衛機制」が身についていないためではないか、としている。

高倉、小牧. 摂食障害の精神病理——歴史と現在. こころの科学209: 18-24, 2020

 

摂食障害からの回復は、摂食障害症状に頼ることなく、人生の中で起こり得る問題や自分の中のどうしようもない感情への対処方法を身につけていくこと、といえますよね。

 

そのような新しい健康的な生き方を身につけるために必要なのが、治療者との信頼関係を基盤にして、自分と他者のこころの状態を理解していく協働作業(メンタライゼーション)であり、これが実は獲得安定型のアタッチメントの構築にもつながるのですよ。

 

院長

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