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摂食障害からの回復に「太っている気がする」を使う

[2020.03.09]

摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』に「ファットアタック」という言葉が紹介されています。

ファットアタックって何?』で説明しましたので、もう一度読んでいただければ幸いです。

 

摂食障害から回復するための8つの秘訣』には『「太っている気がする」は本当に気持ち?』のセクション(p.136〜p.137)がありますよね。

外見の何かを変えれば内面の問題が解決するはずだと信じている間は、深い部分にある問題は潜んだままで、解決されることもないでしょう。(中略)「太っている気がする」と言うほうが、「寂しい」、「一生誰も愛せないのが怖い」などと言うよりも安全に感じられるからです』と、「太っている気がする(ファットアタック)」は「何か他に気分を害することが起こっているサイン」であることが説明されています。

 

素敵な物語』では、さらに重要なことが指摘されていました。

 

過食や嘔吐、無茶食いや拒食、食べ物や痩せることへの執着、そしてファットアタックを引き起こしているのは感情そのものではないと理解することが大切です。私たちが感情を感じないようにしていることが原因なのです。 

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

食行動ややせへの執着、そしてファットアタックを引き起こしているのは、感情そのものではないと指摘されています。

それらを引き起こすのは摂食障害特有の思考ではなく、「自分はダメだ」という誰しも一度ならずとも考えたことのある何の変哲もない思考です。

 

ところが摂食障害の患者さんたちは、この思考が現実だと思いこみ(心的等価モード)、そう考えると当たり前のことですが、辛くて不快な気持ちになります。

 

誰しも感じる当たり前の感情を抱えておくことができないだけでなく、その緊張とじっくり向き合うことに苦痛を感じて、自動的に「太った気」に変換してしまい、そして、食べることや吐くこと、やせることなどの「報酬」で解消したつもりになる(目的論的モード)「感情体験の回避(感情を感じないようにすること)」が問題なのです。

 

たとえば患者が実際よりも自身の身体を太ったと強く感じる時、その認知の歪みのみに注目するのではなく、紡いだストーリーのなかで生じた自身に対する惨めな気持ちや無力感がその身体感覚の変化と関連していないかなど、通常のMBT(メンタライゼーションに基づく治療)よりも身体に関連付けたアプローチを工夫する。

崔炯仁. 摂食障害とメンタライゼーション——外傷的育ちの生きづらさに光を届ける. こころの科学209: 58-63, 2020

 

一方で、臨床心理士のトム・ルートレッジさんはさらに高度な視点を示してくれています。

 

臨床心理士のトムは、私が自分で「太っていると感じる」のには、実際に利点もあると教えてくれました。

本当に回復したかどうかが分かるのは、私が自分で太っていると感じていながら、朝、昼、晩ときちんと食事ができるようになったときだと言うのです。

トムは食事プランに従いながら、同時に太っていると感じ続けていられるようになると、本当の意味で回復している証拠だと言います。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

トムさんの解説は理解できましたか?

 

「太っていると感じる」ことは、正確には「太っていると考えている」という思考にすぎません。

 

「太っていると感じる」ことは、感情そのものではなくて、ある状況で感じた「自身に対する惨めな気持ちや無力感」を自動思考的に変換した解釈ですよね。

そして「太っていると感じる」その解釈によって、ますます「自身に対する惨めな気持ちや無力感」が増幅されてしまいます。

 

トムさんがジェニーさんに勧めていたのは、この考えと一緒にいながら、それが現実ではなく頭の中にあるたくさんの考えの中の一つにすぎないと理解すること、そしてその考えによって引き起こされた「自身に対する惨めな気持ちや無力感」などのネガティヴな感情に自分自身を同一化せず、巻きこまれないでいることなのです。

 

こころの健康クリニックでも、このプロセスを教えるときに「多様な見方」と「触れつつ巻き込まれない(一緒にいる)」と説明していますよね。

 

これができるようになると、ジェニーさんが取り組んだような「挑戦」が可能になります。

  

ところが、回復への道を歩み始めてみると、エドは、私のために専用部隊を準備してくれていたのではなくて、私自身を苦しめるために、私を監視させるために、そこに置いていたのだと気がつきました。

だんだんとこのことがわかるようになり、私はどうにかこの状況から抜け出したいと思いました。

次に、回復への過程で、誰もが避けては通れない一番むずかしい課題、つまり、自分の体にあった新しいサイズの洋服を買う、ということに挑戦したのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが取り組んだのは、自分の体に合ったサイズの服を買う行動実験ですが、対人関係療法では、不安が強いために回避している対人相互関係を観察・調査して、状況を変えることに挑戦してもらったりしますよね。

 

これらの挑戦は摂食障害によって長い間「思いこんできたこと」を、あらためて学習し直すプロセスでもあるのですよ。

 

院長

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