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成人期のアタッチメントと摂食障害の治療で取り組む対人関係

[2021.03.15]

摂食障害に関する家族の影響については、以前からさまざまな仮説がありました。

 

過食症や過食性障害よりも、思春期に発症しやすい「神経性やせ症(拒食症)」についての研究が多く、同一性(アイデンティティ)の確立をめぐる問題や、親からの分離や自立の問題などから精神病理を理解しようとする報告が多かったようです。

 

思春期には両親(養育者)に対するアタッチメントの非互恵性(世話を受ける立場にあること)が減少しますが、一人で生活の糧を得るまでには成長していません。しかし、反抗期として知られている非対称性(対等の関係ではないこと)をめぐる争いが起きてきますよね。

 

上記のアイデンティティの問題や、分離・自立の問題は、何も摂食障害に限った話ではないようです。しかし、その一方で、思春期の摂食障害(主に拒食症)では、養育者との関係の影響は無視できないようです。

 

Rothschild-Yakar(ロスチャイルド-ヤカール)はANBP患者(過食・排出型の拒食症)と健常群を対象にした調査で、低いメンタライジング能力と母親との関係不良がAN患者(拒食症)における痩せ願望・排出行為に関与することを報告している。

(中略)

不安の強い親による過剰支配的な養育スタイルが、本人の未解決な不安や曖昧さに耐えられない心理的脆弱性に影響していると見受けられる例など、養育体験との関連の深さは従来から指摘されてきた。

親の要求・期待に対し努力によって完全に応えていれば不安を遠ざけられる児童期から、思春期に至り複雑になる友人や恋愛等他者との関係、この年代の激しい衝動、急激な心身の変化等、完全な努力をしても完全に制御できない環境への変化が彼らには大きな心的危機となる。

崔.: 摂食障害と心的外傷—メンタライゼーションの観点から—. 精神科治療学 33(11): 1299-1304, 2018

 

一方、拒食症からの移行も含め、青年期後期〜成人期に発症しやすい「過食症」や「過食性障害」では、養育者(アタッチメント対象)との関係はほとんど研究されていません。

その1つの理由として、青年期後期〜成人期以降では、二者関係の拡張によりアタッチメント対象が両親(養育者)から、配偶者やパートナーに移行するからです。

 

一方で、両親(養育者)に対するアタッチメントは、対称的(対等の立場)で互恵的(ギブ&テイク)の関係から、今度は逆に両親(養育者)を世話する側に立場が変わります。

 

ジェニーさんは、両親に摂食障害のことを説明することで、両親からどのようなサポートを得ようと思っていたのでしょうか。

 

事実、私が回復してきた過程において、両親には、エドが私をどう支配しようとしているのかという事実はわかりえないんだ、とお互いに理解し合えたとき、私は両親から本当の意味での支えを得られるようになったと思っています。

「何が実際に起きているのかはよくわからないけれど、でもいつでも助けになるよ」と、私の両親はよく言ってました。

私たちのことを、本当の意味で理解できなくてもいいんです。ただ、私たちのことを信用してくれればいいのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんと両親との関係が、対称的・互恵的ということですよね。

両親は対人関係療法で言うところの「重要な他者」としてではなく、応援団としてサポートするということですね。

 

私が以前にこの節の原稿を書いていたときに、下書きを母にメールで送って読んでもらいました。

母は、「私も、あなたのお父さんも、摂食障害については今もよくわからないの。でも,私たちはいつでも『あなた』を理解していたし、あなたが話してくれた内容や気持ちは本物だと完全に信じていたのよ。何があっても丸ごと受け止めるのが、家族や友人の役割だと思っているから。そうでしょう?」と返信してきました。

その通りです。

私は摂食障害についての本を三冊書いていますが、両親はいまだに病気そのものについては完全には理解できていません。この点に注目してください。

つまり、それでも私は良くなれたのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが書かれているように、成人期では両親に病気そのものについて完全に理解してもらう必要はありません。ただ頑張っていることを信じて、何があっても受け止めるという対称的・互恵的なスタンスでいてもらえば良いのです。

 

おなじようなことを『過食症:食べても食べても食べたくて』の著者のリンジーさんも書いていらっしゃいますよね。

 

まず両親に、彼らと一緒にいるときにどのように感じるのかを伝えました。

私は自分の回復について描写しましたが、両親に多くの関与を求めず、それを期待もしませんでしたし、実際のところ、たいした反応もありませんでした。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

青年期後期〜成人期以降でパートナーがいない人は、対人関係療法ではどのように取り組んでいけばいいのでしょうか?

 

乱れた食行動で苦しむ女性たちが、お姫様のように実際に母親との別れを経験したわけではないとしても、理由は何であれ、彼女たちはインナーマザー(内なる母親)、つまり自分を慈しんでくれて、思いやりにあふれた導きを与えてくれる側面とのつながりを失ってしまっています。

感情を拒絶したり批判したりすることで、切望している導きやサポートを得ることができず、いつも栄養が足りていないように感じ、それを食べ物で補おうとするのです。

彼女たちのインナーマザーは若い母親のようにとても未熟で、自分に確信が持てていません。そのため、心の糧が欲しいというリクエストにうまく答えられず、逆に彼女たちを困惑させてしまうでしょう。甘やかしすぎると思ったら、次の瞬間には愛情を与えず批判的になる、というふうに。

そしてこの関係性が食べ物に反映されてしまうのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

対人関係療法が準拠するアタッチメント理論に従って、こころの健康クリニックでの対人関係療法による成人期の摂食障害(過食症・過食性障害)の治療では、パートナー関係に焦点を当てる前に、アイデンティティの問題として、自分自身(インナーマザー)との関係を扱います。

自分自身との関係性が乱れた食行動に反映されているからです。

 

自分自身との付き合い方と行動の仕方に焦点を当てていくことで、パートナーとの関係は、自分自身との付き合いを反映したものになっていくのです。

 

院長

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2021年4月から毎週土曜日に診療を行うこととなりました。診療時間についても、10時~13時半、14時半~16時半と変更になります。
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