情動コントロールと摂食障害
最近「愛情飢餓児では、人なつこさと扁桃体の活動が無差別で混乱していた」という論文が出ていました。
生後24ヶ月以降に養子となった施設入所児は、初対面の人など見知らぬ人に対して無差別に抱きついたり付きまとう行動があることが知られており、このような愛情飢餓の子どもが示す人なつこさは反応性愛着障害・脱抑制型(脱抑制性社交障害)であり、情動体験と恐怖行動に関与する扁桃体の発達に異常が見られることがわかっています。
つまり、反応性愛着障害・脱抑制型(脱抑制性社交障害)の児は、母性的養育者への選好が起きないために母性的養育者と未知の人物との区別が困難になっているということが示唆されています。
このような扁桃体の未発達が持続すると、情動体験に対するコントロールが不能になり、恐怖や不安に対する情動解消行動が起きやすくなります。
ちなみに。
情動コントロールとは、嫌な感情を感じなくする、違うように感じるという加工や操作ではなく、
(1)自分自身の情動をアクセプト(認め、受容)すること
(気づくこと,理解すること,識別すること,正確にラベル付けをすること,これらを安全に体験すること,表現すること,先行刺激として認知的につながること)
(2)情動を自分で変化させること
(注意やその情動との関係を調整することで,経験される情動の種類,強度,持続時間などを変化させること
ということです。
たとえば対人関係療法では、不安に対して
誰しも感じる不安
対処可能な不安
という位置づけを行いますが、情動コントロールというのはこのようなことですよね。
この情動コントロールは、乳幼児からの他者との関係、とくに母子の相互作用を通して発達することが愛着の発達過程ということですよね。
このとき母親は、
子どもの情動の引き金に気づき(感情や身体感覚への気づきと言語化)
それと子どもの表出された情動を結びつけ
母親がその情動をホールディング/コンテイニング(空想や内省)し
情動体験そのものを正当なものと認める
という作業を行います。それにより子どもには母親の情動がコピーされていきます。
対人関係療法では
・出来事(情動の引き金)に気付き
・出来事と感情あるいは症状の関係について位置づけを行い
・感情は感じた以上正当なものと認めることで
・感情を指標に現状を変えていく
という、母親が子どもに対して向けるのと同じようなコーピングスタイルを面接の中で進めていきます。
ですから対人関係療法は、共感と教育の治療と呼ばれるのですよね。
しかし、母親が子どもの情動の表出や行動に対して批判的に対処したり、拒絶したりすると、子どもは情動を表現しなくなります。この状態が「アレキシサイミア」と呼ばれます。
アレキシサイミアの
・感情や身体感覚への気づきと言語化困難
・空想や内省の困難
という特性は、母親からのコーピングスタイルのコピーのようですよね。
アレキシサイミアでは情動を認識する能力が低下または欠如しているため、情動に対する処理がうまくいかず、上記の情動コントロールが障害された状態です。
摂食障害の場合には、幼児期に甘えの断念が起きることで情動をつかさどる扁桃体の発達が阻害され、情動解消行動(衝動性や攻撃性、反復やこだわりなどの強迫性)に結びつきやすく、これが摂食障害の中核症状になるとも考えられています。
対人関係療法が摂食障害に対して有効なのは、このような愛着の問題や情動統制の問題に対し、直接あつかえる治療構造を持っているからですよね。
院長