メニュー

対人関係療法では気分不耐性をどう治療していくか

[2014.02.03]

そもそも。
女性の気分変調性障害と愛着との関連性』でふれた「気分不耐性」とは、出来事によって引き起こされた気分や感情(多くの場合はイヤな気分)に対し、その気分を敏感に、あるいは強く感じてしまい耐えられないということを指しています。

多くの場合、そのような気分や感情を意識するのを避けたり、気分や感情を中和する気分解消行動に向かったりします。このような特徴は「アレキシサイミア」とも呼ばれます。

 

もともとアレキシサイミアは感情言語化障害という意味ですが

(1)自分の感情や身体感覚に気づいたり区別することが困難
(2)感情や身体感覚を言葉で表現することが難しい
(3)貧弱な想像力や想像力の制限
(4)内省(自分自身を客観視する能力)の困難さ
(5)自己の内面より刺激に結びついた外的な事実に関心が向かう(機械的思考)

という特徴があります。

 

摂食障害の患者さんでは、空腹感や満腹感の知覚が乱れていて、体重や体型など見た目へのこだわりがあります。
また相手の表情(とくに悲しみの表情)の識別が苦手で、相手の表情を誤って理解し、気持ちを言葉で表現することや、相手の立場で考えてみる想像力が貧困ですから、自責感を感じることが多いという特徴は、アレキシサイミア傾向と関連することが知られています。

 

気分変調性障害が先行し摂食障害を発症した場合や、「やせ願望」「肥満恐怖」という病理を欠き、ダラダラ食いやストレスでのドカ食いが習慣となった、最近多いタイプのむちゃ食い性障害や特定不能の摂食障害では「気分不耐性」を認めることが多く、さらにリストカットやアルコールへの耽溺を併発することも多くみられます。

 

このような気分不耐性の患者さんに対して、対人関係療法による治療を導入する場合は、三田こころの健康クリニックでは、対人関係-社会リズム療法(IPSRT)を応用して「行動記録表」に記録してもらっています。

食行動の変化(例えば過食)が起きたとき、あるいは自責感・罪悪感が強くなったときには

(1)その前にどんな出来事が起きたのか
(2)その時、どんな気持ちになったのか
(3)本当はどうなって欲しかったのか
(4)そのためにはどうしたらいいか

ということを対人関係療法の面接で扱っていきます。

(1)の出来事の同定は、対人関係療法では、状況分析やコミュニケーション分析の方法を使いますが、アレキシサイミアや気分不耐性のある患者さんは出来事を具体的に述べることが苦手で、多くの場合、想像や解釈という「心的現実(脳内劇場)」として出来事を理解していることが多いようです。
そのため、このような「自己モニタリング」を中心としたイントロダクションが必要になるのです。

次の(2)(3)の感情の同定はさらに苦手ですから、感情は出来事に対する反応にすぎず、どんな感情も感じた以上は正当なものとして感情に対するジャッジメントを手放す、ということを進めていきます。

あるいは相手の表情や態度を読み違えるため(自分に都合の悪い形での被害妄想的解釈)、自他の境界線(バウンダリー)の理解を育てる必要があります。
このような「モニタリング」に基づく「評定(エヴァリュエーション)」は、行動変容のために必須のプロセスですよね。

(4)は「心のブレーキをはずすトレーニング」で、例えばこれまでは言いたい事をガマンしていたのをトラブルにならない言い方で相手に伝えてみ、相手の反応を見てくる、など、これまでと違ったやり方を試してみることになります。
この試行錯誤が新たな「自己志向性」を強化することなり、「自尊心」が回復してくるのです(リインフォースメント:自己強化)。

 

最近多い摂食障害の病理を欠く過食タイプでは、気分不耐性が中核にありますが、気分不耐性そのものを何とかしようとするのではなく、「冒険好き(新規追求性)」という資質(リソース)を活用し「モニタリング(観察)」「エヴァリュエーション(評定)」「リインフォースメント(強化)」というプロセスを対人関係療法に組み込んでいるのです。

 

このやり方は、決して対人関係療法の本質と離れるものではなく、これが重要な他者とのやりとりに限定されると対人関係療法で用いる「コミュニケーション分析」ですから、そのやり方をもう少し広く使うということですよね。

患者の現実に合わせて、ある治療法に足りない要素を追加していくことも一つの有効な手段である。一つの例として、治療の第一相では感情と対人関係のコントロールに直接の焦点を当て、第二相ではエクスポージャーを行う、というように、エクスポージャーに入る前にトラウマ関連の特徴をコントロールするスキルを学べるようにする二相式の治療も提案されている。これはまさに患者の現実に合わせた治療のすすめ方と言えるだろう。
水島広子・著『トラウマの現実に向き合う』岩崎学術出版

という「患者さんの現実に合わせたアレンジ」なんですよね。

これが対人関係療法で重視している「鑑別治療学」の考え方で、ある対人関係療法の人間観(メタスキル)を尊重した治療のすすめ方でもあるんですよ。

 

ですから、もどき治療を受けて自分は治らないと決めつける前に、このような鑑別治療学を行っている三田こころの健康クリニックに相談してみて下さいね。

院長

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME