対人関係療法についての雑感
もう一つのブログの『如実知自心』で、『対人関係療法の拡がり』というタイトルで対人関係療法の注意点を書いてみました。
書いていて感じたのは、三田こころの健康クリニックでやっているように初診に90〜120分かけて、医師がインテイクから診断、そしてアセスメントまで行っているところはない、という、臨床精神医学の分野では当たり前だったことが当たり前でなくなってきているという侘びしさでした。
以前は精神療法といえば精神分析など力動的精神療法が主流で、スーパービジョン、教育分析などの治療者としてのトレーニングが明確でした。
認知行動療法や対人関係療法のようなエビデンスを重視する精神療法の場合でも、精神療法に基本的に必要とされる素養があることを前提にマニュアルを読み、ワークショップに出る、スーパービジョンを受ける、などのトレーニングが基本になっています。
そうなると、精神療法の均霑化(きんてんか)が問題になってきます。
(均霑化:全国どこでも標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること)
対人関係療法でも水島先生が中心になって、厚生労働科学研究の「精神療法の有効性の確立と普及に関する研究」のなかで『摂食障害に対する対人関係療法の効果研究と対人関係療法の均霑化に関する研究』を行っておられ、三田こころの健康クリニックでも研究協力をしていますよね。
この均霑化に関して、こんなことがありました。
(心理士さんが対人関係療法が出来ると言っている)クリニックで、「うちでは診れないから、他に行ってください」と言われて、三田こころの健康クリニックで対人関係療法を導入した患者さんが何人もいらっしゃるんですよ。
また他のところで対人関係療法を受けたけど、もう一度ちゃんと取り組みたいという方も数人いらっしゃっいました。
また「ただ話を聞かれるだけで、普通のカウンセリングみたい」とか、「本に書いてあることと違うから、違和感を感じて行かなくなった」とおっしゃる方もいらっしゃいましたし、「対人関係療法(?)を受けてみたけれども心理士さんと合わなかった」という話もよくお聞きします。
患者さんの方が対人関係療法の本をしっかり読み込んでいたら、何となくわかるみたいですよね。
さらには「「病者の役割」なんて聞いたことがない」という患者さんもいらっしゃいましたし、対人関係療法の要とも言うべきフォーミュレーションもなしで、問題領域すら呈示されていないということもザラでした。
あるとんでもないケースでは、「あなたの場合は、お母さんとの関係が問題で病気になったのだから、お母さんも一緒に来て、治療を受けてもらって下さい」と言われたと話されていて、かなりオドロキました。
対人関係療法のコンセプトと全然違いますよね。
いずれのケースにも共通するのが、スーパービジョンを受けた事のない人がやっているということで、もしかするとイニシャル・ケースだったのかもしれませんが。
対人関係療法が普及するのは喜ばしいことなのですが、対人関係療法のセッション(50〜60分)の間にいまの精神医療の5分診療では10人以上の患者さんを診れます。
保険診療でそれと同じだけの対価が認められればいいのですが、それ以前に、対人関係療法の質を落とさないという資格化などの均霑化が絶対に必要ですよね。
このようなことは認知行動療法でもあるようですね。
患者が過去にCBT(認知行動療法)を受けていたら、今回も同じ治療法を勧めるのがよいかどうか考える価値はある。
一方、患者の現在の状態が、良好な結果に導ける可能性も見る。例えば、患者に以前より強い動機づけがある場合などである。
また、患者が過去にCBTを受けていても、それがまったく異なったものである可能性に注意する必要がある。CBTの治療法は、治療者によってかなり異なり、別の形式のものであったり、特殊な方法で実施されたりしているので、以前の治療法を正確に知ることが常に重要である。
クリストファー・G・フェアバーン(原著)、切池信夫(監訳)『摂食障害の認知行動療法』医学書院
水島先生は地方での勉強会など対人関係療法の普及と対人関係療法勉強会でのスーパービジョンを継続し、治療者間のネットワーク作りを計画されています。
日本うつ病学会の「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」にあるような
どのような病院があるか、どの程度経験のある医師かなどについては、日本精神神経学会の研修病院名簿、指導医名簿が参考になるでしょう
(http://www.jspn.or.jp/specialist/search/index.html)。
双極性障害の診断・治療に専門的に取り組んでいる医師については、日本うつ病学会の双極性障害委員会の委員とフェローのリストが参考になるでしょう。
(http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/sokyoku/index.html#03)
このような目安が対人関係療法でも出来ればいいですよね。
それまでは水島先生のクリニックに問い合わせて、ちゃんとした対人関係療法を行える施設を紹介してもらうしかなさそうですよね。
院長