対人関係療法での感情とのつきあい方
[2015.08.03]
感情調節は、人が感情に耐え、それに気づき、言葉にして表し、感情を適応的に使うことによって、苦痛を調節し、要求を満たし目標へと近づく能力である。 グリーンバーグ『エモーション・フォーカスト・セラピー入門』金剛出版といわれるように、「感情を調節する」ことは決して感情を抑制したり回避したり、感情を感じなくすることではないのです。 このような感情調節能力は、幼少期には子どもの感情的要求に応えることができる親との関係など、「二者関係」を通して形成されます。 対人関係療法では、治療者との関係の中で ○ 出来事や状況に対する直接的な反応である「一次感情」 ○ 出来事をどう捉えたかなど思考に対する反応である「二次感情」 (思考を介した二次感情は一次感情を覆い隠し、症状につながります) を区別し、気持ちを表現しても受容されるという修正感情体験を通して、ネガティブな感情も当然の感情として認め、自分の気持ちを直接感じても耐えられるようになり、食行動によって解消する必要がなくなる、という実体験を積み重ねていくということになります。 (気分変調性障害は二次感情と関連があります) 対人関係療法の中でこのような場面を見ていると、患者さんの多くは感情(あるいは思考)を何らかの実体と捉えられているために感情を消し去ってしまおうと躍起になっていたり、ネガティブな思考の中で身動きできなくなっているのではないか、と感じることがあるのです。
それまでは、家族と夕食をとるために実家を訪れるたびに、両親や兄弟や姉妹たちとテーブルを囲んでいると、自分が見えなくなってしまったような、ありのままの自分が認められていないというような、なじみのあるひどく不快な感覚を覚えていたのです。 気がつくと、彼女は、こそこそと台所に抜け出して、強迫的なまでに食べているのでした。 その同じ女性が、長年の瞑想修行を積み重ねた後で実家を訪問したときのことです。 テーブルに着いた自分の中に同じ感情がわき上がってくるのに気づきましたが、今度はその感情とともにいることができました。 彼女は、家族たちから認めてもらいたいという期待が猛り狂い、彼らが認めてくれないことに怒り、彼らの関心を引き出すほど「充分によく」ない自分にたいして失望し、そんな状況を変えるために次に何をしたらよいのかわからずに座っているのも極めて不安だ、ということを経験しました。 しかし、彼女はこうした感情に完璧に同一化してしまうことはありませんでした。 その感情が過ぎ去っていくのを平静に見守ることが出来ました。 自分には感情的な激動を見送る自覚の強さがあることを知っていたからです。 強迫的に食べることもありませんでした。 もう与えられることのない実家からの関心を永遠に待ち望むようなことはないと気づいていたからです。 その時、彼女は食べものにまつわる冗談を言いました。それまで彼女を困惑させていた力と一緒になって笑えたのです。 エプスタイン『ブッダのサイコセラピー』春秋社グリーンバーグが言うように摂食障害は、感情の回避、感情の麻痺、気持ちをなだめる機能の問題を含む「感情調節不全(感情不耐)」です。 しかし対人関係療法のテーマである「自分の気持ちをよく振り返る」ことに取り組むことによって、「なじみのあるひどく不快な感覚」とともにいても同一化することなく、過ぎ去るのを見守るだけの「自覚の強さ」が培われるのです。(感情は感じた以上は正当なもの) この「自覚の強さ(アウェアネス)」を獲得するプロセスが「精神的に楽になる」と「食行動が正常化」する間にあるギャップなのです。 このギャップを埋めるために水島先生は「自分の身体と対話する」「身体の声を聴く」という「自覚」を促しておられますよね。 (『対人関係療法で取り組む自分との向き合い方』参照) 三田こころの健康クリニックでは対人関係療法の土台作りとして「自分の選択に自覚と責任を持つ」ということで頭の中の想像(脳内劇場)から現在に戻り取り組むことと、結果を引き受けること、プロセスの重視ということをお伝えしていますよね。 治療中の方、治療が終結した方で、食行動が正常化しないと感じられる方はマインドフルネスなどのマインド・トレーニングを通して、自分と向き合うことに取り組んでみる必要があるかもしれませんよね。 院長