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双極性障害の過剰診断

[2013.04.01]

双極性障害に対する過小診断を防ぐために啓発活動が進んでいます。

加藤先生の「躁うつ病のホームページ」NPO法人ノーチラス会(日本双極性障害団体連合会)の活動NHKハートフォーラム「うつ病と躁うつ病を知る」NHK「若者のこころの病気情報室ー双極性障害」日本イーライリリー社「双極性障害(躁うつ病)」などもその一環ですよね。

 

しかし一方で、過剰診断の可能性と利益相反(conflict of interest; COI)の問題を加藤先生は指摘されています。

米国における「小児双極性障害」騒動は、COIと結びついた過剰診断の典型例なのではないかと、著者は懸念している。
従来、双極性障害は早くても中学生程度での発症と考えられていたが、米国では、小学生あるいは幼稚園児が双極性障害と診断されるケースが急速に増加した。診断される例の多くは、慢性的な不快気分があり、時々癇癪を起こす、といった情動症状を示す。すなわち、何日も続く躁やうつのエピソードとは全く臨床像が異なる。
こうした子どもたちの多くは、注意欠陥多動性障害(attention deficit / hyperactivity disorder, AD/HD)のため、精神刺激薬による治療の経験がある。これが双極性障害の発症時の姿であると決めつける前に、検討すべき事は多数あると思えるが、いきなり小児双極性障害と診断されて、非定型抗精神病薬が多用される事態に至った。
これは、小児双極性障害の存在が盛んに「啓発」されたためにほかならないが、この診断を啓発していた医師のCOI問題はニューヨーク・タイムズにも報道された。

いやはや、「啓発」というより「喧伝」ともいうべきなんともお粗末な事態と思えますが、日本でもとくに双極性障害は薬物療法が第一選択となっており、双極性障害への適応が認可された治療薬の売り込みで一時期の「うつ病は心の風邪」まではいかないにしても、疑わしきは「薬を飲んで様子をみる」という3分診察のため上記の米国での騒動は決して対岸の火事ではないように思えます。

上記で言及されている注意欠陥多動性障害(ADHD)は、『双極性障害とADHD(注意欠陥多動障害)と対人関係社会リズム療法』で指摘したように双極性障害と誤診されやすく、またアスペルガー障害などの自閉症スペクトラム障害も双極II型障害や双極スペクトラム障害と誤診されていることがかなりの頻度で見られます。(これについては、次回触れますね。)

 

ADHDやアスペルガー障害が双極性障害と過剰診断される傾向以外に、加藤先生は、もう少し踏み込んだ注意を喚起しておられます。

しかし、公平でバランスの取れた啓発がなされても、情報の受け取り方次第で、過剰診断に陥る危険は否定できない。
1994年にDSM-IVが発表されて以来、双極II型障害の診断基準は、なに一つ変更されていないはずだが、診断される患者層は広がっているような印象を覚える。
当初は、少なくともうつ状態で入院を要するような症例が主な対象であったと思われるが、現在では、うつ病エピソードが軽症というケースが含まれるようになり、その対象が広がって、パーソナリティ障害との境界線も少し動いたのではないかと思われる。
また、双極スペクトラム障害の考え方については、筆者もGhaemiの診断基準案などを啓発に用いてきたが、エビデンスは十分ではない。証拠不十分な段階での啓発は、過剰診断を引き起こす怖れもあり、注意が必要であろう。
2011年7月に日本うつ病学会で、「双極スペクトラム障害ー過小診断か、過剰診断かー」というシンポジウムが行われるなど、ついにわが国でも、双極性障害が過剰診断されている可能性についても議論されるようになってきた。
現在は、おそらくは過小診断と過剰診断が入り混じった状態にあると考えられる。

症状評価の視点から見ると、判断の基準をどこに置くか次第で、診断は過少にも、過剰にもなり得るということですね。
つまり、躁状態を見逃せば過少診断に、逆に躁状態を拡大解釈すれば過剰診断となるということです。

 

これらの過小/過剰診断を避けるためには、もともとの病前性格(気質)を踏まえた上で、幼少期から思春期にかけての不適応(抑うつ状態)のあり方と、躁状態なのか反復性活動(過剰集中)や躁的防衛かの鑑別をすることが必要になってきますよね。
躁的防衛:抑うつ態勢で依存対象を失う苦痛な罪悪感、喪失感に用いられる乳児の防衛で、対象への制服、支配、軽蔑を特徴とし、これにより現実を否認して依存欲求を満たそうとする。

 

ADHDやアスペルガー障害と双極性障害の躁状態の鑑別に有効な指標は睡眠欲求の減少であることを、「双極性障害とADHD(注意欠陥多動障害)と対人関係社会リズム療法」で指摘しました。

ADHDやアスペルガー障害は身体感覚の同定困難がありますから、「疲れを感じにくい」という特徴があるものの2~3時間の睡眠でよく休めたと感じる「睡眠欲求の減少」は双極性障害と気分にムラがあるADHDやアスペルガー障害などの自閉症スペクトラム障害との鑑別に有効な指標になり得るようですし、誇大感を欠き不全感のまま過活動になっている印象があります。

とくに成人ADHDに対して、アトモキセチンが適応になりましたから、ADHDが双極性障害と誤診され、適切な治療を受ける機会が失われるのはほんとうに残念なことと思います。

 

そうはいうものの、同調気質を背景に持つ古典的な双極性障害を診る機会はほとんど無くなりました。
メランコリー型の古典的うつ病の衰退と同じように、発達障害やADHDに取って代わられたのかもしれません。

院長

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