双極性障害の診断はなぜ難しいのか
『双極性障害ー躁うつ病への対処と治療(ちくま新書)』『双極性障害ってどんな病気?「躁うつ病」への正しい理解と治療法(大和出版)』などの本の著者でもあり、NHKハートフォーラム「うつ病と躁うつ病を知るーワークショップ」にも出演された理化学研究所脳科学総合研究センターの加藤忠史先生が、“Bulletin of Depression and Anxiety Disorder”という小冊子に『双極性障害の診断の現状と疾患啓発の重要性』という論文を書いておられます。
うつ病・うつ状態の混乱の整理のはじめに、加藤先生の論文に導かれながら双極性障害について考えていきましょう。
そもそも。
慢性のうつ病や抑うつ状態を呈する疾患には、
反復性うつ病
慢性うつ病性障害(気分変調性障害)
双極性障害
トラウマ関連のうつ状態
適応障害
などが考えられます。
うつ病・うつ状態なのだから、双極性障害は関係ないんじゃないか?と思われる向きもあるかもしれません。
双極性障害は、診断の困難な疾患である。
患者団体の調査によれば、双極性障害の患者さんの77%が、最初は別の疾患(うつ病、統合失調症など)と診断されていたという。双極性障害と正しく診断されるまでに、初発から平均7.8年を要するという報告があるが、8年近くも適切でない治療を受け続けなければならないなどという疾患が、他にあるだろうか。
と加藤先生は論文を書き出しておられます。
双極性障害は「最初は別の疾患(うつ病、統合失調症など)と診断され」というところで、慢性のうつ状態の鑑別となる疾患ということがわかるでしょう。
さらに最近の論文では、双極性障害とADHDの合併例では、成人ではパニック障害、小児では強迫性障害が高頻度にみられることが報告されており、これらの疾患と診断されていることも多いのではないか?と推測されますよね。
では、双極性障害の診断はなぜ難しいのか、加藤先生の論文を見てみましょう。
双極性障害の正しい診断がなされない理由は、うつ状態で受診した場合、初発がうつ状態であれば、うつ病と診断するしかない、過去に(軽)躁病エピソードがあっても、患者本人に自覚がないため、医師に伝えない、医師が(軽)躁病エピソードの病歴を確認しない、といったものが考えられる。
一方、躁状態においては、「躁状態」という現象の存在を、本人も周囲の人も知らないため、問題行動があっても、「こんな人だったのか」と思われるだけで、病気であると気付かれない、躁状態で興奮や錯乱が強く、統合失調症などと誤診される、といったケースが考えられる。
と書いておられます。
つまり、
○双極性障害の初発(双極II型障害では病悩期の半分)がうつ病相であること
○(軽)躁病エピソードに対する自覚や視点が不十分なこと
が双極性障害と慢性のうつ病・抑うつ状態との鑑別診断が難しい状況を作っているようです。
また最近の論文では、双極性障害の約23%にADHDの合併が見られ、ADHD合併例では双極性障害の発症年齢が低く、躁病エピソードの回数が多いことが報告されています。
双極性障害の約1/4にADHDの合併があるのに、双極性障害の診断でADHDを見落としたり、逆に、ADHDだけを診断し双極性障害の合併を見落としたりするのは、双極性障害の過小診断の問題ですよね。
実際の臨床では、エピソード性の躁病相がないにも関わらず、ADHDを双極性障害と誤診されているケースが多いようです。(「双極性障害とADHD(注意欠陥多動障害)と対人関係社会リズム療法」参照)
次回は、過小診断の問題をもう少し詳しくみていきますね。
ただ一つだけ言えることは、初回にうつ病と診断され、のちに双極性障害と診断が変更になることは「誤診ではない」ということですので、よく理解しておいて下さいね。
院長