乱れた食行動から回復するために感情を受け入れる
こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタです。
こころの健康クリニック芝大門の過食・過食症の治療では、自分のとの関係を改善することを土台にして、他者との関係を改善し、自分自身や他者に助けを求められるようになることで食行動を手放していくことを目指します。
前回のブログ(『乱れた食行動に隠された本当の問題とは』)で、自分との関係を改善するために、「自己否定」や「べき思考」などの批判的な声(心的等価モード)や、自分がどんな感情を感じているかに気づき、その一つ一つの感情を区別し、それを認め、ただ受け入れるというやり方を身に着ける必要がありますとお伝えしました。
今回は、一つ一つの感情を区別し、それを認め、ただ受けいれるということについて書いてみたいと思います。
感情を区別する
感情には出来事に反応して生じる感情と、思考に反応して生じる感情があります。
前者は一次感情、後者は二次感情と言ったりします。
これらが区別できていないと、思考に反応して生じた感情(二次感情)を、出来事に反応して生じた感情(一次感情)だと勘違いしてしまいます。
例えば、友達との旅行の約束をドタキャンされたときにムカッとしたとしましょう。この「ムカッ」を友達が約束をキャンセルしたことで起きた感情だと思ってしまうのです。友達がキャンセルしたせいでムカッとしたという感じですね。
ところが実際は、ドタキャンに対して「私のことを軽く見ている」とか「もっと早く言ってくれればいいのに」という考えを持って、その考えに反応して怒りが生じているのです。
そしてさらに、この考えを本当のことのように思いこんでしまう。これは、これまでお伝えしてきた「心的等価モード」のことですよね。
この一次感情と二次感情を区別することがとても大切です。
一次感情は二次感情に覆い隠されて気づかれないことも多いものです。
思考に反応した二次感情にきちんと気づくことで、一次感情にも気づいてあげやすくなります。楽しみにしていた友達との予定がキャンセルになったらとても残念で、楽しみにしていたの…と悲しい気持ち(一次感情)になっているかもしれませんよね。
さらに、一次感情と二次感情とでは扱い方がちょっと異なります。
感情には必ず波があります。感情はピークを迎えた後必ず小さくなり収まっていきます。
出来事に反応した一次感情は、その出来事が過去のことになれば通常はその感情が何度も押し寄せることはありません。一次感情はその感情があることを認め、抱えること、しっかりと感じぬくというだけでいいのです。信頼できる人と共有したりすることでもいいですよね。
現実を受け入れ、その現実とともに感情を引き受けるというかんじです。
ところが、解釈や評価から生じる二次感情は、思考を反芻するたびに何度も押し寄せる可能性があります。そしてその思考は、多くの場合自己否定的だったり、とても受け入れがたい考えだったりします。そんな考えが繰り返し繰り返し起こってくるのでは辛くてたまらないですよね。二次感情のきっかけは現実ではないので、一次感情のように現実とともに感情を引き受けることは難しいのです。ですから、二次感情の場合は、そのきっかけである考えに気づき、考えが起こした感情として理解してあげる必要があるのです。
こうやって、それぞれの感情や気持ちにまず気づくこと、そしてその感情の出所を理解してあげることで区別はできそうですよね。
このときに感情を感じ、体験することがさらに大切になります。感情の感じ方については院長が以前ブログに書いていますので、こちらを参考にしてみてくださいね。
感情に名前をつけて手なずける
感情に気づけるようになるために、感情を言葉にしてあげましょう。
『摂食障害から回復するための8つの秘訣』には、こう書いてあります。
気持ちは、摂食障害を発症する以前にも見極めることが難しかったかもしれませんが、発症してからしばらく時間が経つと、なおさらわかりにくくなります。気持ちに気づいて、そのことについて話す練習は、実はとても役に立ちます。なぜかと不思議に思われるでしょうか。私たちの個人的な体験からも、クライエントさんたちとの取り組みからも、また脳に関する新しい研究からも言えるのですが、気持ちに気づいてそれについて話すと、そうした気持ちをより上手にコントロールし、調整し、そのままにして、対処しやすくなるのです。
感情を言葉にすることは、右脳(感情や直感を司る)と左脳(言語や思考司る)をつなげる脳梁を鍛えることにもなります。
摂食障害とアレキシサイミア(感情を感じ言語化することが難しい状態)の関係について研究が進められています。このアレキシサイミアは右脳の機能不全とか脳梁が十分に働いていないためとも考えられていますから、そういった意味でも、感情を言葉にするということは乱れた食行動を克服するために立つと言えます。
こころの健康クリニック芝大門では、自分の感情が動いたとき、例えばイライラした時や不安に感じた時のことについて、その具体的な出来事やその時考えや気持ちを記録することで振り返りをします。このことは右脳と左脳をつなげることに役立っていそうですよね。
評価を手放す
先ほどの例で考えてみますよう。
友達のドタキャンで残念な気持ちを認めないとするとどうなるでしょう?
これくらいのこと気にしないとか、残念な気持ちを出すと友達に悪いとか。。。
ショックを受けている人に対して、それくらい我慢するべきだと言うのはとても酷なことですよね。でもそれを自分に対してやっているわけです。そうやって自分で自分の気持を大切にできていないことが続くと、怒りの感情や悲しみの感情が膨れ上がってしまうかもしれません。
ところが、乱れた食行動に苦しむ方たちは、「これくらいたいしたことじゃない」とか、「これくらいで怒るなんて器が小さい」などと感情や気持ちを感じないようにしてしまいます。
その裏には、感情に対する否定的なイメージがあるようです。
怒りの感情を感じることは攻撃だと思っている方もいらっしゃいます。
寂しさや不安を感じることは弱さだと思っている方もいらっしゃいます。
残念な気持ちは相手を嫌な気持ちにさせることだと思っている方もいらっしゃいました。
そして、他の人はこんなふうに悲しんだり、怒ったりしないで、上手に対応できているのにこんな風に感じるのは自分がダメだからだと、ネガティブな感情やそういった感情を感じたこと自分を否定する人もいらっしゃいます。
強くなければ、しっかりしなければと、いつもちゃんとしなければという、摂食障害の部分の声の影響もあるのかもしれませんね。
ですが、感情には役割があります。
感情は私たちが自分を守ったり環境に適応するために、行動を選んだり判断をしていくことに役に立っているのです。
怒りの感情は、自分や自分の大切な人などが危険にさらされたり、大切にしている価値観を傷つけられたり、自分の思い通りにならなかったりしたときに、自分や大切な人を守る役割があります。
恐怖は、自分の身の安全が確保されていない可能性ことを教えてくれます。何が起こっているのかをしっかり観察することで危険から身を守ることに役立ちます。
不安は、前進しようとしているからこそ起こる感情です。危険な未来を予測するときにおこる感情ですから、上手に利用すればリスク管理に役立てることができます。
悲しみは、何かを失ったときその大切さを教えてくれます。
孤独感は、独りぼっちと感じた寂しさかもしれないし、空虚感かもしれません。
つながりを必要としているのにそうできてないことを知らせてくれて、なぜそうなっているのかを向き合う機会をくれるかもしれません。あるいは、自分が本当に必要としているものを自分に与えられていないことを教えてくれているかもしれません。
もし、感情が悪さをするとしたら、それは感情を認めず、否定したり、評価をしたときです。
認められなかった感情は消えてなくなるわけではありません。心の奥に溜まっていって、いつか爆発するかもしれません。あるいは、過食衝動として表に出てくるかもしれません。
こころの健康クリニック芝大門の過食・過食症の治療では、以上のことを身につけるために、自分が今どんな気持ちなのか、それはどんなきっかけで生じたものなのか、その感情に対してどんな思いを持っているかなどを繰り返し振り返ることで、自分自身に興味を持って向き合い、わかってあげようとする姿勢を育んでいきます。