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メンタライゼーションと自己受容で過食嘔吐と向き合う

[2020.06.29]

NHKのハートネットTV「隣のアライさん」で摂食障害が取り上げられると日本摂食障害協会から連絡がありました。

初回放送は6月24日(水)でしたが、7月1日(水)13:05~13:35で「これだけは知って欲しい摂食障害のこと」が再放送されます。

 

神経性やせ症(拒食症)では、自己誘発嘔吐と特性不安が予後不良の因子であることが知られています。

特性不安とは、不安になりやすさ、つまり脅威として受け取られた事態に対して、強い不安で回避的に反応する傾向のことです。

 

神経性過食症(嘔吐を伴う過食症)の治療でも、過食したことをなかったことにする嘔吐をやめることから取り組んでいきますし、頭の中での想像を現実と思いこむ心的等価モードにもとづく不安と、回避行動に取り組んでいきますよね。

 

過食やむちゃ食い、自己誘発嘔吐の背景には、感情や身体感覚といった内受容感覚に対する気づきの乏しさ(たとえば月経前の自然な身体の状態を不快と認識すること)と、回避行動と解消行動などの気分・感情不耐があることがわかっています。

 

こころの健康クリニック芝大門で行っているメンタライゼーションを加味した対人関係療法による治療では、以下の3つのポイントを重視しています。

最も基本となる「自分との関係を改善する」ことについては、①自らの思考・感情・身体感覚に気づく(マインドフルネス)、②生きている限り誰しも感じる感情を苦悩に変えない(アクセプタンス)、③自分へのやさしさ(セルフ・コンパッション)からなる「自己受容」を高めていきます。

 

どんな自分も認めることができる「自己受容」を土台に「行動の仕方を変えていく」こと、つまり、「価値や目的に沿った行動」を起こすこと(ライフ・ゴール)に取り組みます。

自己受容」と「価値や目的に沿った行動」、この2つが「自己志向」なのです。
(ある本では、自己志向を自尊心と間違って説明されています)

そして、メンタライジング能力に基づき「共感」と「他者受容」という「協調性」が高まってくると、「他者との関係を改善する」ことができるようになってくるのです。

 

過食や過食嘔吐など摂食障害症状が再燃したときには、自分の心に正直になり、摂食障害思考に頼ってしまう心の動きを直視する必要があります。

これは対人関係療法による治療でいうと「自分との関係を改善する」に相当しますよね。

 

エドから離れるにあたって何よりも惜しまれたのは、私が特別な存在だと、エドが私に感じさせてくれたところです。
(中略)
初めてエドから離れようとしたとき、私は、エドのイヤな部分とだけ縁を切れると勘違いしていました。エドがもたらした、私の人生の中のすっかり狂ってしまった部分を手放せるのだと考えると、心がわくわくしました。
(中略)
このように私は、エドのイヤな部分とは完全に縁を切りたいと、はっきり思っていました。ところが、エドの好きなところを手放す心の準備が完全にはできていませんでした。
(中略)
なんとかしてエドの悪い部分だけを切り離そうと頑張りましたが、結局だめでした。どうしても、いつの間にかエドの腕の中に完全に戻ってしまっていました。
(中略)
それと同時に、エドについて大好きだった部分は、とても未練があったけれど、あきらめないといけないと悟りました。気持ちの整理がつくまでにはとても長い時間がかかり、非常に苦しい体験をしました。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんは満たされなかった渇望に苦しめられながら、エドの悪い部分だけを切り離そうと、かなわない満足を飽くことなく要求して、それがさらなる苦しみにつながっていたようです。

エドの悪い部分だけを切り離して、拒食や過食嘔吐など、一時的に自分の心の状態を変えてくれる方法を手放すことに躊躇いを感じていました。

 

その根底にあったのは、エド(摂食障害思考)に仮託された「自分自身に対する絶え間ない批判」であり、「急いでエドの手をつかんで、束の間だけ批判から解放されたような気分」になっていました。

しかし、拒食や過食嘔吐など摂食障害症状から完全に回復するためには、求めても得られない源泉にはもう賠償を求めないような仕方で体験される必要があったのです。

 

ジェニーさんと同じような取り組みを『8つの秘訣』の著者の一人であるグエンさんも取り組まれました。

 

心の奥のどこかで、「自分の方法」で解決するのは自分の気持ちに取り組むうえで決して薬に立つ方法ではなくて、むしろそうした衝動的な恐怖感を避けるか捨て去るかするための方法なのだと、自分でちゃんとわかっていたのです。

それでも私が周りの人に自分の気持ちを話そうとしなかった理由はただひとつで、他の人に話せば、そうした気持ちをしっかりと感じざるをえなくなり、自分の弱さをさらけ出しているような気持ちになるからです。

そんな状況に耐えられるほど自分が強いとは思えませんでした。

自分の中の感情に耐えられないと思い込んでいれば、守りの姿勢になるのも当然ですし、どんな方法を使ってもそうした感情を避けて弱さを見せないように対処したくなったとしても無理はありません。

食べ物を制限することも、強迫的に運動することも、自分の弱さを周囲に見せないための方法のひとつでした。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

グエンさんが直視したのは、「空虚な自己(自分の弱さ)」とそれを守るための「誇大的な自己(自分の方法へのこだわり)」の2つでした。

 

そんなグエンさんに、キャロリン・コスティンさんは「いくら食べ物を制限して体重や体型を変えるために何かをしてみたところで、根本の問題は「解決」されないし、痛みを和らげてもくれないのだと繰り返し伝え」、「心を開く」ことを勧めています。

 

摂食障害の部分の勧めに従って、安全そうに思える行動を取るよりも、心を開いて、自分の弱さをさらけ出して見ることが、摂食障害と戦ううえでの助けになるのだと彼女自身が実感できるようになるためです。

グエンは、彼女が一番恐れていたものこそが、彼女にとって一番必要なものだったのだと学ぶことができたのでした。

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

食べ物や強迫的な運動は、「満たされなかった欲求(空虚感)」を満たしてくれるわけではないのです。

「弱さ」と考えていた善/悪・良/悪という評価(ジャッジメント)を自覚することが、グエンさんにとっては一番必要であり、それこそが摂食障害からの解放をもたらしたということです。

 

ジェニーさんも「皮肉でもありますが、回復への過程でのあまり楽しくない部分こそが、最終的に、あなたの人生を実に豊かで楽しいものにしてくれるのです」と述べているように、嘔吐で過食をなかったことにせず、過食で感じないようにしている感情をしっかりと感じることが、キャロリンさんのいう「心を開く」ということであり、『過食症:食べても食べても食べたくて』のリンジーさんは「自分に正直になる」と表現していることですよね。

 

院長

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