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トラウマと摂食障害

[2022.01.11]

複雑性PTSDは虐待などを想定して作られた診断カテゴリーで、「多くの場合は持続的、反復的であり、そこから逃げることが困難または不可能」という但し書きがついています。

 

複雑性PTSDの出来事基準は、PTSDと同じ「出来事は生命の危険、脅威をもたらすことが必要であり、持続的、反復的という性質だけが十分条件となるわけではない」とされています。金. ICD-11におけるストレス関連症群と解離症群の診断動向. 精神神経学雑誌123: 676-683, 2021

 

言い換えると、医学的に定義されるトラウマは、脳の器質的・機能的変化を伴う「脳の傷」ということです。

 

しかし、単回のトラウマ体験でも複雑性PTSDを発症することもあり、逆に、持続的・反復的なトラウマ体験でも通常のPTSDを発症することもあるとされています。(前掲論文)

 

さらに、DSMやICDで規定されると生命の危機・脅威をもたらすトラウマでないストレッサーでも(広義のトラウマ体験=「心の傷(疵)」)、PTSDの症候を示すこともあります。
しかしこのような場合は、出来事基準を満たさないため、PTSDと診断することはできません。

 

では、広義のトラウマ体験(心の傷つき)にもとづくPTSDの症候を示す場合は、どのように診断すればいいのでしょうか。

 

ストレス因とその結果にひどくとらわれており、過剰な心配や苦痛な思考、その意味についての反芻的思考がみられる。そうした症状はストレス因の想起刺激によって悪化し、結果として回避が生じる。

抑うつ、不安症状や、衝動的な外在化症状、喫煙、飲酒、物質依存などを伴うことがある。ストレス因に適応できないことが社会的な不利益をもたらす。

(中略)

反芻的思考、想起刺激による悪化、回避などが中心となっており、これは軽度の出来事によってPTSD的な症状が生じた者を適応反応症と診断することを容易にすると思われる。

金. ICD-11におけるストレス関連症群と解離症群の診断動向. 精神神経学雑誌123: 676-683, 2021

 

上記の引用のようにICD-11では、外傷的でないストレス体験にもとづくPTSDの症候は「適応反応症(ICD-10:適応障害)」と診断されることになります。

この場合、PTSDが発症するかどうかは、外傷的でないストレッサーを受けた後の経過(社会的支援の欠如)が影響すると言われています。

 

第24回摂食障害学会では、PTSDと摂食障害は49.3%合併すると報告されていて、多くはアタッチメント関連症状とされていました。

 

以前より、摂食障害は幼少期のトラウマや不安定なアタッチメントなど、複雑な病因からなると言われており、たとえば、『「回避/抑うつ型(感情・行動抑制型)」摂食障害と幼少期のトラウマ体験』で紹介した「回避/抑うつ型(感情・行動抑制型)」もまた、求めても得られなかったアタッチメント希求を「報酬」で埋め合わせているタイプです。

 

幼少期からの過保護や指示的な親によるさまざまな外的な決まりごとに対して、「よい子」であろうとする「回避/抑うつ型(感情・行動抑制型)」は、「まるでこころというものが存在していないかのように、即物的に物事を理解(目的論的モード)」しています。池田『メンタライゼーションを学ぼう』日本評論社

 

このタイプは特定の養育者に対して過剰な警戒心と不安な過服従を示し、役割逆転した面倒見などが特徴とされ、Zeanah(ジーナー)らのアタッチメントレベルでいうと「アタッチメント傷害(安全基地のゆがみ)」とされるタイプが多いようです。

 

「回避/抑うつ型(感情・行動抑制型)」は、「自己主張・感情表出をせず、過剰適応的な社会・対人関係スタイルの痛みを、食べ吐きという「報酬・慰撫」によって埋め合わせる」とされ、これも目的論的モードです。

 

一方、『「感情制御不全型(情動調整障害型)」摂食障害とメンタライゼーション』で触れた境界性パーソナリティ障害や複雑性PTSDなどと関連する「感情制御不全型(情動調整障害型)」もまた、特定の養育者といる時に限り、自己を危険にさらす、あるいは、攻撃的な行動をしたり、探索が制限された過剰なしがみつきなど、「アタッチメント傷害(安全基地のゆがみ)」とされるタイプでもあります。

 

つまりこれらの2つのタイプは、関係性を部分的に統制(懲罰統制・役割逆転)しているだけで、自分の不安はなおざりにされており、アタッチメント活性化方略としては未組織です。

 

感情制御不全型(情動調整障害型)」では「心的等価モード」という心の原始的モードが優勢になります。

 

ある患者が「先生は私のことをうっとうしく思っているに違いない」と空想したとしましょう。

そうすると、この空想が現実を侵食してしまうので、たとえば、面接中に治療者が足を組み替える(外的現実)のも「先生は私のことをうっとうしく思っていて、私と会っているとイライラするから、そうやって足を組み替えているのだ」ということになるし、机の上にコーヒーが置いてある(外的現実)のも「先生はうっとうしい患者である私なんかと会っているとすぐに眠くなってしまうから、眠気防止にコーヒーを飲んでいたんだ」ということになるのです。(中略)世界はすべて患者の空想が現実化しているものとして体験されるのです。

もう一つ臨床での例を挙げておくと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者のフラッシュバックも心的等価の顕れと見なせるでしょう。心の中、もしくは脳裏で突然勝手に再生されるトラウマ場面の映像が現実そのものとして体験されることで、当時のままの恐怖や不安を感じ、自律神経症状を呈するのです。

池田『メンタライゼーションを学ぼう』日本評論社

 

フラッシュバック自体は生体の反応なのですが、福井大学子どもの心の発達研究センターの杉山先生は、フラッシュバックには3つの要素があると第24回摂食障害学会の教育講演で述べられていました。

 

フラッシュバックには、再被害を防止するための回避・過覚醒・他者不信などの合理的な部分と、気分変動(情動調節不全)や侵入的記憶想起(フラッシュバック)などの生体反応の後遺症、そして、自責感・自己無価値感など否定的自己概念である二次的に生じる問題の3つです。

 

感情制御不全型(情動調整障害型)」や「回避/抑うつ型(感情・行動抑制型)」など、トラウマ系の摂食障害と、今は絶滅危惧種と言われている古典的な摂食障害と大きな違いがあると考えられています。

トラウマ系の摂食障害ではボディ・イメージの歪みは認められないと言われています。

ボディイメージの障害は、摂食障害の一次的症状なのか、栄養障害伴う脳機能障害による二次的症状なのか、不明であると話されていました。

 

院長

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